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第18話 エルフ

―エルフ視点―


 今回は出番がなかったわね。まったく、人使いが荒いんだから、あいつは……念のため、魔力砲の近くで待機していた。もし、チャンスがあれば、ここでシンを殺すつもりだったんだろうな。まぁ、普通以上の頭を持っている将軍が、無理に突っ込んでくる可能性なんてほとんどゼロだけど。


 カールも、きっとここまでを予想していただろう。それでも、万が一でも、兄を殺せるチャンスだったから、私をここに待機させた。


 待機命令が解除されたので、カールの寝室に向かう。まだ、要塞の兵士たちは、私の緑色の髪に慣れていないようだ。ちらちら視線を感じる。護衛の兵士たちが敬礼して、私を部屋まで届けてくれた。


 まったく、あいつらは、何を勘違いしているんだろうな。カールの愛人などと言われたらたまったもんじゃない。


「陛下、魔力砲の待機命令を終わり、帰還しました」

 慇懃無礼の態度で、そう挨拶すると、疲れ切った顔のカールは苦笑いを浮かべる。


「二人きりの時は、陛下はやめてくれよ。結構、傷つくよ」


「ふん。あんな暑い場所で、私を待機させるからだ。残念だったな、兄上を殺せなくて」


「うん、そうだね。もし、ここでシン鎮守府将軍を倒せていれば、これ以上の戦乱を止めることができたと思うんだけど」

 こいつは、実の兄すら、冷たく分析しているんだな。こいつらしいといえば、こいつらしいけど。

 でも、妹に対する執着は、異常だ。完全にシスターコンプレックスを抱えているんじゃないか。


「鎮守府将軍さえ倒せれば止まるのか?」


「うん。そもそも、教皇親政は、非常に危ないバランスで成り立っているに過ぎない。軍事力は、旧王族である兄上たちに頼らなくては、烏合の衆だ。ハロルド大司教のようなシロウトに軍を操られせて、自滅する運命しかないよ。そうすれば、我々の独立は維持される。国は割れることになるけど、僕は大事なものを守り切れる。そして、数十年の歴史的に見れば、短いけど、人間的に見れば、長い平和が訪れる」


「我々、長命族にしては、数十年なんて、短いけどねぇ。あの戦う大主教様だっているだろう?」

 そう言って二人で苦笑する。


「教皇軍は、単独では、あの教皇領を維持することしかできないんだよ。それは歴史的に見ても、証明されている。たとえば、前教皇の乱の際に、教皇領を奪還するまではうまくいったが、その外にでようとしたところで空中分解した。あの時のロマネスク前・教皇に軍事的な才能がなければ、それすらも難しかっただろうね」


「つまり、カールは、あんたの兄貴が死ねば、教皇親政は空中分解し、教皇自治領くらいしか維持できなくなると思っているんだね。そして、放っておけば、それ以外の土地は、お前が掌握できる。本当に腹黒いやつだな、キツネかタヌキか」

 

「おいおい、俺は歴史オタクにすぎないよ、ユフィ」

 まったく、千年の魔女と呼ばれている私を呼び捨てにできるのは、長い歴史でもあんたくらいよ。

 出会った頃は、もっとかわい気があったのにな。いつから、こんなに生意気に……


 考え事をしていたら、カールはいつの間にか眠ってしまったようだ。

「まったく、どれだけ私のことを信頼しているのよ。あんたは、今、世界を動かしている中心人物の一人なのに。寝顔は、出会った頃の子供のままだ。この共犯者さんは」

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