第15話 歴史書④
巻4「ミズレーン要塞強襲と地下牢の戴冠」
同月、教皇猊下、ハロルド大司教の敗死の報を聞き涙を流す。すぐに、政権幹部を集めて、カール王子の対策会議を開くも、戦を知らない司教たちでは結論は出ず。鎮守府将軍と新都大主教が場をまとめるも、いたずらに時間が過ぎてしまう。
鎮守府将軍、教皇猊下と密談し、「弟が次に狙うなら、ミズレーン要塞だ」と進言するも、司教たちの横槍で聞き入れられず、軍を動かすことができなかった。
6月、鎮守府将軍の予想通り、カール王子軍、1万、ミズレーン要塞を強襲する。今まで一度も陥落したことがない要塞に攻めあぐねる。報を聞き、鎮守府将軍、要塞に救援に向かう。
カール王子、少数の護衛を伴い、要塞に降伏勧告に出向く。要塞司令のグワガン、ひそかに王党派に同情していたため、王子を出迎える。グワガン、一度は王子の降伏勧告を拒絶する。
王子、混乱に乗じて、地下牢にとらわれていた両統迭立のもう一派、ビスマルク派のオットー前大主教を地下牢から救出する。オットー前大主教は「現教皇の子供すらも容赦なく殺す政治は、神の御心に叶うものではない」と言い、カール王子に協力を申し出る。オットーはかつて、カール王子の教育係を務めていたこともあった。
王子、オットーとグワガンに、1月に王都から消失していた「王権神授の宝剣」を見せる。「王都より逃亡する際に、偶然、宝剣を見つけた」と語る。神聖イスパール王国の建国の父にしか扱えないはずの神剣をカールは扱って見せた。
それを見たオットー前大主教は、「本来であれば、ロマネスク捕囚事件と教皇の乱において、ロマネスク派は滅びたはずだった。しかし、当時の国王は、前教皇を殺すには忍びないと同情し、信仰心ゆえに両統迭立の制度を作った。にもかかわらず、ロマネスク派は、力を取り戻すと増長し、政治の安定の根源だった両統迭立を自ら崩し、我ら罪のないビスマルク派を牢に閉じ込める暴挙にまで至ったのだ。王国は滅び、教皇親政が始まったが、反乱が続出し国は大いに乱れている。これは、教皇親政などと言いつつも、軍事力を背景にした恐怖政治を行っているせいである」と語る。
オットーは、かつての教え子であるカールに近づき、「しかし、ここに神の剣を扱える真の王あり。神意は、彼にある」とし、彼に王位戴冠の儀を執り行った。地下牢で、光すらあまりない中で、宝剣は光り輝き新たな王を歓迎する。グワガン、その他看守など、敵味方問わずに感激し、涙を流した。カールは多くの敵兵をその場で味方につけて、要塞内で反乱を起こす。反乱軍、魔力砲を抑えて、外の味方を要塞内に誘導する。要塞内の教皇派、劣勢となり、壊滅する。
オットー、現教皇の罪を挙げて、カールと共に挙兵し、真の教皇を名乗る。また、カールを神聖イスパール王国の王に任命した。オットー、ミズレーン要塞に座する。
北のロマルと南のミズレーンに2人の教皇が生まれことにより、これ以降の時代を南北朝時代と称す。
後世の歴史家は語る。
南北の教皇のどちらに正当性があったのかというのは、歴史家ですら評価が分かれる。
ロマルの教皇は、教皇の象徴たる神の宝玉を所持していることから、自らを正当と断言していたが、ミズレーンの教皇は、「神の宝玉は、前教皇の乱の際の戦災で喪失しており、ロマルの自称教皇が持っているものは、ただのレプリカだ」と主張している。現代にも伝わっている宝玉は、レプリカかどうかはわかっていない。
両統迭立という制度は、成立時の両派の合意文(ロマル合意)では、①この制度は神聖不可侵である、②国の安定のために一方が力をもって変更することは禁止とされており、この条文を読めばロマルの教皇に分が悪いと思われる。しかし、ロマルの教皇は、「ビスマルク派は、本来、正当な地位継承を行っておらず、軍事力を背景にしたロマル合意で教皇就任権を得たに過ぎない。そもそもが神の意に従ったものでなかった」と主張している。
この南北朝の議論は、現在の神学者も結論を出せていない、永遠の難問になりつつある。




