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飄然草  作者: 千賀藤兵衛
第九部 さらば単純作業
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憎悪の展覧会

 質問。あなたは何を憎みますか?

 世の中にはいろいろなものを憎んでいる人がいる。インターネットなどやっていると、ことによく見かける。犯罪者を憎む人がいる。親や兄弟姉妹などの肉親を憎む人がいる。成功者を憎む人がいる。社会にはびこる不正や不義を憎む人がいる。どこかの国の国民をまるごと憎む人がいる。自分は何を憎むかというのは、その人の雄弁な自己紹介である。

 しかし、かくいう私は何を憎むのかというと、これといって憎むものがない。親兄弟など別に憎くはないし、特定の国や宗教や政党や野球チームなどに属する人やそれを支持する人を憎むといった気持ちもない。不正を働く者や不正行為そのものも、憎いというよりは単にどうしてそのような不正が野放しにされるのか、なぜそのような不正を働く者がいるのかといった点が気になるのである。世の中にはたまに明らかに邪悪な想念をかかえた人物というのがいるが、それも警戒はするが憎いとは思わない。さきほど何を憎むかということがその人の自己紹介だというようなことを書いたが、そうだとすると、憎むものがないというのはどんな自己を紹介していることになるのだろう?


 私はいままでいくつかの職場で働いたが、どこの職場でも必ず「だれそれのことが嫌いなので一緒の現場に入りたくない」と言うやつがいた。しかもそれを上司に直訴して、本当にその嫌いなだれそれさんと一緒の現場には入らないですむようにシフトを調整してもらうのである。初めてその話を聞いた時はあきれたワガママなやつがいるもんだと思ったが、上司の側もその要望を入れてやるのだから二度あきれる。

 しかしこれはもしかしたら、私の感覚のほうがおかしいのかもしれないとも思った。私はこれまでの人生で人を嫌いになったことがあまりない。また、たまに嫌うとしても、一緒にいたくないというほど激しく嫌ったことはない。したがって、嫌いなやつと一緒の現場に入りたくないなどと言い出すやつのこともよくわかっていない可能性がある。彼らのいう嫌いというのは本当に顔も見たくないしそいつのことを思い出すのもいやだし一緒にいるとストレスで頭痛や吐き気がしてきてしまいには胃に直径十センチの穴があくというような、まったく妥協の余地のない激しい憎悪なのかもしれない。

 そんな憎悪が実際にありうるのかと私は疑いつつ、そうとでも考えなければ一緒に仕事したくないなどというワガママを上司に直訴するところまではしないだろうと思い返して、やっぱりそのような憎悪は実在するのかと思ったりしている。


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