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飄然草  作者: 千賀藤兵衛
第一部 自動的な男
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階級の話

 軍人が多く出てくる小説を書いたことがある。作中の軍人の階級は、昔の日本軍のものを流用した。少尉とか軍曹とか伍長といったものである。しかしここでひとつ疑問をおぼえた。現代の日本人はこういった階級についてどのぐらい知っているだろうか、と。たとえば、大尉と曹長と少佐を地位の高い順に並べよという質問に正しく答えられる人は、全体の何パーセントぐらいいるだろう。

 私が日本軍における軍人の階級をおぼえたのは、まず子供のころに遊んだ軍人将棋、それから中学生のころに読んだ「銀河英雄伝説」によるところが大きい。軍人将棋の場合は少将と大佐の間に「ヒコーキ」「タンク」が挟まっていたり、銀英伝では大将の上にさらに「上級大将」というのがあったりと、変なのもいくつかあったが、まあそういうのは何となく別物だとわかる。

 むかし読んだ漫画で、大尉というのが非常に高い地位であるかのように描写されているのがあった。時代と場所によって事情が変わるので、大尉が高級幹部である軍隊もありえないとは言えないが、たいていの場合はキャリア組の中の若手であり、中堅の一歩手前ぐらいのものだと思う。大尉は「大」の字がつくから偉いにちがいないと作者が錯覚したのだろうか。

 こうした事例があるので、軍人の階級を自作の小説の中に用いるのは注意を要する。私は中間管理職のつもりで大尉という階級を出したのに、読者はそれをトップクラスのお偉いさんだと思うかもしれない。

 さて話はがらりと変わって、世間には会社員の階級というものもある。課長と部長と係長を地位の高い順に並べよという質問に正解できる人は、大尉と曹長と少佐の場合に比べるとかなり多いだろう。ただ、もう少し上に行って、取締役と専務と常務となるとどうか。実は私はどれがいちばん地位が高いか、いまひとつよくわかっていない。なにしろ私のような下っぱにとってはどれも縁のない人種である。たとえば取締役と専務が話をしているところを実際に見ればどちらの地位が高いかわかるだろうが、下っぱがそんな場面を目にする機会はそうそうない。子供のころに軍人将棋ならぬ会社員将棋を遊んだことがあったらおぼえることができたかもしれないが、そんなゲームは存在しなかった。


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