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飄然草  作者: 千賀藤兵衛
第八部 そこに音楽があるから
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変拍子という世界

 西洋音楽は、クラシックであれポップスであれ、大多数の曲が二拍子または三拍子、またはそれを掛け合わせた四拍子、六拍子、九拍子、十二拍子といったリズムでできている。二拍子というのは、拍を二つ、テケテケといった感じに打つのをずっと繰り返すリズムで、三拍子はテケテケテケを繰り返すリズムである。この二つが基本である。そして、基本があるということは、そこから外れたものもあるということである。変拍子というやつだ。

 ひとくちに変拍子といっても二種類ある。ひとつは二と三の倍数ではない拍子をとるものである。五拍子とか七拍子とか。もっとキテレツなやつでは、小数の拍子などというものもあると聞く。もうひとつは、一定のリズムを繰り返さないものである。いずれにせよなじみの深いリズムから外れるので、変拍子の曲を聴いているとガクッというかグラッというか、タイミングが狂う。そこが面白い。

 私が初めて変拍子というものを意識したのは中学生のころだったと思う。そのころNHKで「音楽ファンタジーゆめ」という五分間の番組を毎日放送していた。音楽とCGアニメを一緒に流すというもので、曲は大半がクラシックの名曲であった。当時はCGアニメというものがまだあまりなかったので、物珍しさも手伝って私はちょくちょくこの番組を見ていた。

 あるときこの番組で、イゴール・ストラヴィンスキー作曲のバレエ組曲「春の祭典」の中の一曲「選ばれた者への賛美」が取り上げられた。上で述べた、一定のリズムを繰り返さないほうの変拍子の曲である。私はこのようなものを初めて聴いたので、衝撃は並大抵ではなかった。一定のリズムではないのに曲がちゃんと成り立っており、しかも面白い。こんな音楽がありうるとは!

 そのあとの人生で変拍子の曲や、変拍子というほどではないが一カ所か二カ所だけ拍子をずらしているというような曲にときどき出会った。そのなかにはたいへん気に入った曲も少なからずある。チャットモンチーの「シャングリラ」だとか、ゲーム「ヴァルキリープロファイル」のBGM「Confidence in the domination」だとか、ボカロ曲「なないろの朝」だとか、ほかにもいろいろ。変拍子だとすぐには気がつかないこともあるが、気がついたときには必ず心の奥のどこかで例の「選ばれた者への賛美」がひとふし聞こえるような気がするのだ。


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