0と1の歌声
最初はあのやけにキンキンと響く、いかにも作り物めいた歌声が苦手だった。
歌唱ソフトなるものが世の中に出てきたのは、私が大学生のころだったようだ。かの初音ミクの発売はその数年後である。私がその歌声をいつどこで初めて聴いたか、それが何という曲だったかはおぼえていない。まったく気に入らなかったことだけは確かである。
それからまた何年かたって、あるとき私は小説家山本弘のホームページを見ていた。私はこの小説家のファンで、ホームページもしょっちゅう見ていたのだ。毎週なにかしらの面白い画像をトップページでオススメしてくれる、楽しいサイトだったのである。
そのときトップページで紹介していたのは、ニコニコ動画に投稿された自主制作のCGアニメであった。「公安39課」と題するそれは、「攻殻機動隊」をオマージュした物語で、長さ二十分以上もあるけっこうな力作だった。独特なのは、登場人物の中に何人ものちょっとずつ容姿の違う初音ミクがいること。この作品がMiku Miku Danceという、初音ミクを動かすための映像制作ソフトで作られたことは後に知った。
この作品の中に、初音ミクの歌う歌が流れる場面がいくつかある。当然キンキンしているし作り物めいているのだが、このときはそんなことは気にならなかった。物語のなかで描かれた初音ミクの人生の喜びや苦しみに、その歌声がよく釣り合っていたからかもしれない。
いずれにせよ、このときから私は歌唱ソフトの歌声を苦手でなくなった。このあと何年かのあいだ私はニコニコ動画に入り浸って、初音ミクをはじめとする歌唱ソフトの歌を大量に聴き、以下に掲げるごとき多くのお気に入りを得た。
Mitchie M「FREELY TOMORROW」
daniwell「Love Logic」
ぷにえ工房「はしるムームー 三(*っ´^ω^)っ」
Wato「なないろの朝」
ナカノは4番「hp」
baker「夏に去りし君を想フ」
立秋「むに」
ナナホシ管弦楽団/岩見陸「おねがいダーリン」
夜烏P「パラフィリア」
とても書き切れないのでこのあたりで切り上げるが、ほかにもまだたくさんある。
考えてみれば、世の中にはいろいろな歌いかたの流儀がある。クラシックの歌いかた、フォークの歌いかた、演歌の歌いかた、デスメタルの歌いかた、どれもまったく違う。歌唱ソフトの歌いかたも、その新たなひとつだというだけのことだ。
参考
「公安39課」
https://sp.nicovideo.jp/watch/sm20967545




