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飄然草  作者: 千賀藤兵衛
第八部 そこに音楽があるから
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ピアノ時代

 私の母はピアノをひく人間であった。自宅でピアノ教室を開いて知人の子供に教えたり、地元の音楽家仲間といっしょに演奏会を催したりしていた。キリスト教徒だったので、教会での礼拝のときにオルガンで聖歌の伴奏をしたりもした。

 母の実家はなにか音楽に関わりのある仕事をしているとか、特別音楽が好きな家だというわけではなく、普通の田舎の勤め人の家である。そこに生まれた母はなぜかピアニストを志した。音大に行きたかったらしいが、いろいろあって妥協して短大の音楽科に進み、卒業後は地元に戻って普通の勤め人と結婚して子供を産んで主婦をやっていた。そして自宅にはグランドピアノを置いて、時間を作ってはピアノをひいていた。

 私が生まれ育ったのはそういう家である。

 私が四つか五つのころ、母は例によって地元の演奏会でピアノをひいた。母の晴れ姿を目にした私はたいそう感動し、自分もピアノをやりたいと言い出した。それで母からピアノを教わることになった。

 残念ながら、私はすぐに飽きた。てんで身の入らないおざなりな練習ぶりで、それでもなんだかんだで中学校に入るころまでやったが、そのあたりで自然消滅となった。自分でやりたいと言っておいて、このていたらく。母はさぞ落胆したに違いない。

 いま、自分のピアノ修業時代を思い返してみて驚くのは、どんな曲をひいたかまるきりおぼえていないことである。おきまりのバイエルやらチェルニーやらをやったという記憶はある。が、それがどんなメロディだったかは思い出そうとしても一つも出てこない。また、曲がりなりにも何年間か教わったのだから、それ以外の曲もそこそこひいたはずだと思うのだが、やはり何ひとつ思い出せない。

 私は音楽がきらいかというと、まったくそのようなことはない。昔も今も音楽は大好きだ。ただ、ピアノをひくということはうまくハマらなかったようである。


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