目で見る音楽
映画「風の谷のナウシカ」の中盤、主人公の乗っている飛行機が敵国の飛行機に襲われ、主人公がグライダーのオモチャみたいな一人乗り飛行機で脱出する場面がある。逃げる主人公、追いかけてくる敵機、機関銃の火線が主人公を襲う……この緊迫した場面に流れるのは「メーヴェとコルベットの戦い」と題する曲。私はこの曲がたいそう好きで、一時期は携帯電話の着信音にしていたほどである。大音量の不穏なファンファーレから始まる曲なので、まわりの人からはびっくりするとか心臓に悪いとか言われてあまり評判が良くなかったが。
この曲の何がいいかというと、曲の展開と画面の動きがぴったり合っているところである。特に最初の、錐揉み状態から安定した姿勢での飛行に移るあたりが非常に良い。
目にうつるものと耳に入るもののリズムが合っていること、これに快感をいだく人は決して少なくあるまい。世間では音楽に合わせて踊るという行為に人気があるが、それもやはり動きと音を合わせるところが一つの肝であろう。
世の中には共感覚という特質をもつ人がいる。音が味として感じられるとか、数字が色として認識されるとかいうものである。珍しい性質だと思われているが、動きと音に同調を見るのも、二つの別々の現象を関係づけて認識するという点では共感覚に近いと私は思う。
動画サイトなどにはこの手の動画の面白いものがたくさん投稿されているが、私が最も印象的だと感じたのは、宇多田ヒカルの歌う「光」の、皿洗いを映したミュージックビデオである。音楽の展開に合わせて水道の水を出したり止めたりしながら皿を洗うというもの。何の変哲もない光景だが、見ていると妙に面白い。
私はこのビデオを見ると、漫画「ガラスの仮面」に出てくる「塀にペンキを塗ります」の挿話を思い出す。主人公が音楽に合わせてペンキ塗りのパントマイムを披露するという話である。もちろんこれは漫画なので、その音楽も聞こえないし絵だって動かないのだが、私の頭の中では音楽に合わせて動いているのである。




