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飄然草  作者: 千賀藤兵衛
第七部 棒つきアイスの巻き返し
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棒つきアイスの巻き返し

 長らく棒についたアイスクリームが嫌いだった。

 すでに誰もが知っていることと思うが、アイスを容器や持ち手の観点から分類すると、カップに入ったもの、コーンと呼ばれる円錐形のウエハースに盛りつけたもの、棒のまわりにくっつけて固めたものの三つが多い。ほかにもモナカの皮で包むとか、クレープに乗せるとか、ピノとか雪見大福とかクーリッシュとかいろいろあるが、多数を占めるのはカップ、コーン、棒であろう。

 棒の欠点は、食べている最中にアイスが棒から外れて落っこちてしまう事故がしばしば起こることである。地面に落ちたらもう蟻のエサにでもなる運命であるし、屋内の床に落ちた場合でも拾って食べるのは少々ためらわれる。床に絨毯が敷いてあった場合などは、掃除するのもけっこうな手間である。

 子供のころに何度かこの悲劇を経験して、私は棒つきのアイスをいっさい食べないことに決めた。アイスを買うときはカップやコーンなど棒以外のものを選ぶ。落とさないように気をつけて食べればいいと考えなかったことは、ほめられてよいだろう。事故というものはそのような生ぬるい対策では防げないということを、社会人になった今はよく知っている。

 ところが齢四十を過ぎたあるとき、私は突然ひらめいた。アイスが床や地面に落っこちるのがイヤなら、台所の流しの前で食べればいいではないか。たとえアイスが棒から外れても、流しに落ちる分には掃除に手間がかからない。流しをきれいに洗っておけば、拾って食べることも問題がない。これはすぐれた方法だ。

 長年の棒ぎらいを一瞬にして払拭した私は、それ以来ちょくちょく棒のやつを買ってきては自宅の流しの前に立って食べている。はたから見たら間抜けな光景かもしれないが、当人にとって大事なのはアイスがおいしいかどうかということであって、見てくれなどどうでもいい。ときどきアイスが流しに落ちるのは想定内である。落ちたアイスをすばやく拾って食ったりもしており、ますますみっともないがどうでもいい。


第七部はこれで終わります。

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