モンハン頌
私はモンスターハンターシリーズをひとつだけ遊んだことがある。「モンスターハンターポータブル2G」。プレイステーションポータブル用のソフトである。
このシリーズは、自分の分身となるキャラクターを操って山野を駆けまわり、巨大な怪獣と戦って倒すというゲームである。怪獣にはいろいろ種類があるが、いずれもハッタリのきいた外見と独特の能力をもっており、倒すのにはそれぞれに適した工夫がいる。じつに面白い。
そんなわけで私は数百時間はこのゲームを遊んだのだが、そのうちにある不思議な気持ちが芽生えた。この主人公が単なるゲームのキャラクターではなく、どこかにちゃんと存在しているもうひとりの自分自身のような気がしてきたのである。主人公の容姿は最初にゲームを始めるときに自分で決めるのだが、私の選んだのは真っ黒な肌にギョロ目にアフロヘアーの筋骨隆々とした大男であり、標準的な日本人的容貌の私とは似もつかない。それでもこれは私なのだ。
私は毎日電車に乗って仕事に行き、特に変わったところもない平凡な作業をしてささやかな賃金を得ている。それと同時に私はどこかの雪深い山村に住み、来る日も来る日も巨大な鉄砲をかついで山に分け入り、ばかでかい怪獣と死闘をくりひろげているのだ。
最近ではこのゲームもほとんど遊んでいないが、それでもあの私はいなくなってはいない。ときどきあの私のことを思い出して、なんとなく愉快な気持ちになっている。




