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飄然草  作者: 千賀藤兵衛
第七部 棒つきアイスの巻き返し
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幻生林を行く

 近所に山がひとつある。山といっても登山家の目標になるようなやつではない。太い道路が何本も通り、線路も通り、ふもとからてっぺんまで住宅が立ち並ぶ、町なかの山である。

 通勤、買物、そのほかいろいろの用事で、私は日々この山を歩く。いや、山とすら思わない。単にちょっと盛り上がった住宅地である。

 しかし何かの拍子に、この山も五百年ぐらい前には原生林だったのだろうな、と想像することがある。私がてくてく歩き、自動車がひっきりなしに行き交っているこのあたり、地面といえばアスファルト、木なんて庭木しか見かけないが、かつては木々が無秩序に生い茂り、藪がはびこって、あたかも破傷風の巣窟のようなありさまだったに違いない。こんなところを通る人はいただろうか。たきぎや山菜の調達、鹿や猪の猟、炭焼きなどの目的で入り込む人はあったかもしれない。今は山を越えるのに徒歩で十分か十五分ぐらいのものだが、当時はナタで道をひらいて進まねばならず、半日はかかったことだろう。

 本当にそんな景色だったろうか。特に調べてみたわけではないので、正確なところはわからない。ただ、私はそうした未開の土地に何かのかたちでつながっていると感じるのが好きなのである。


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