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飄然草  作者: 千賀藤兵衛
第六部 わたしのきらいなもの
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納豆のタレ

 そこらへんのスーパーマーケットなどで売っている納豆は、丸か四角の発泡スチロールの器に四十ないし五十グラムぐらいの量をおさめたものが多い。一人が一度に食べるのにちょうどよい量ということであろう。そしてたいていは、小さなプラスチックの袋に入ったタレやカラシが同封されている。タレはいろいろ種類があるが、もっとも普通なのは醤油をベースにして各種の調味料を加えて味を調整したものである。そして私はあのタレがきらいである。

 理由は二つある。

 ひとつは、タレの入っているプラスチックの小袋である。袋のカドを斜めにやぶりとって口をあけ、そこから納豆にタレをそそぐのだが、袋をやぶるときの角度をまちがえるとちゃんと口があかず、中身が出ないことがある。しばしばある。しかたなく反対側のカドからあけようとしてそっちもうまくあかず、また最初のカドに戻って、と際限なく手間をくうこともある。あいたらあいたで、タレが勢いよく噴き出てあたりに飛び散ったりもする。しかしこれは単にイライラさせられるだけであり、もうひとつの理由に比べればまだしも罪がない。

 もうひとつの理由はもっと目立たない、それだけに深刻なものである。それは、納豆には添付のタレをかけるというのが当たりまえになってしまって、それ以外のものを納豆にかけることが考えられなくなる、ということである。つまりは固定観念だ。

 これは私の体験なのである。私はもともと毎日のように納豆を食べる人間だが、三十を過ぎるころまで納豆には同封のタレをかけるのが当たりまえで、ほかのものをかけるなど考えもしなかった。そのころたまたま近所のスーパーマーケットでタレとカラシのついていない納豆を扱いはじめ、安かったので私はそれを買うようになった。最初は古来の風習にのっとり、醤油をかけて食べていた。ところがあるとき、世の中には納豆に砂糖をかけて食べる人もいると聞いて、自分でもやってみた。思えばこのとき、私の中にあった固定観念の枷がはずれたのである。以来私はあらゆるものを納豆にかけてみるようになった。参考までに下にいくつか紹介する。


 砂糖。醤油と併用する。単純に甘くなるのではなく、味が複雑になって旨味が増す。納豆に砂糖と聞くとゲテモノ扱いする人もいるが、実は添付のタレにも砂糖が入っていることが多い。いわば鉄板の食べかたである。

 酢。酸味によって口あたりがよくなる。また、かきまぜるとふわふわした泡が立ち、目先が変わっておもしろい。

 マヨネーズ。コクがあって非常においしい。醤油も加えると味がひきしまってなおよい。おすすめ。

 焼き肉のタレ。ものによる。合うものと合わないものがある。合うものもタレの味が強すぎて 納豆の味をかき消してしまううらみがある。

 ウスターソースや中濃ソース。まあまあいける。私は醤油のほうが好きだが、好みによると思う。

 エノキダケの醤油漬け。「なめたけ」という商品名で瓶詰めになって売っているあれ。納豆にまぜるとすこぶるおいしい。歯ごたえに変化がつくところもいい。

 塩。非常においしい。納豆のにおいを打ち消さないので万人向けのおいしさではないが、納豆それ自体の味を引き立てるという点ではこれ以上のものはない。

 トマトケチャップ。最悪。味も悪いが、そのうえ見た目が濁ったピンク色を呈し、食欲をそぐことはなはだしい。


 他にもラー油、フレンチドレッシング、青じそドレッシング、水飴、カレー粉、粉チーズ、シャンタン、イカの塩辛などを試したがとりたてておもしろくなかったので説明は割愛する。

 とにかく納豆にはこれだけの、いや、おそらくはこれ以上の可能性があるのである。添付のタレで食べているかぎりそこに目がゆくことはない。実にもったいないことである。

 残念ながら当節、タレを同封しない納豆はごく少ない。行きつけのスーパーマーケット数軒で納豆の売場をすみからすみまで見てみたが、どの店も二十ないし三十種類ほどの 納豆を取り揃えているのに、タレを同封していないのはそのうちほんの一、二種類である。シェアでいえば おそらく五パーセントもないのではないか。

 自宅に醤油そのほかの調味料を常備しない人も世の中にはいる。そうした人にとっては納豆にタレが添付してあったほうが便利であろう。

 しかしただ漫然と、なんとなくタレ付きの納豆を購入して、納豆のさまざまな食べかたの可能性をみずからつぶしたうえ、タレの小袋がうまく破れないとかタレが飛び散ったとかでイライラしながら食べるのは、あまり利口ではないと思うのである。


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