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飄然草  作者: 千賀藤兵衛
第五部 私はピアノを飲む
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この男生まれついての漫画読み

 あるときふと気がついた。生まれてこのかた漫画の読みかたというものを教わったおぼえがない。だが読める。自然におぼえたのだろうか。

 あらためて振り返ってみると、漫画にはかなり多くの約束事がある。たとえば、


 吹き出しの中に書いてあるのは、その吹き出しのしっぽの方向にいる人物のセリフである。

 吹き出しのしっぽが寸断されている場合、書いてあるのは発言ではなく心の中で思っていることである。

 四角くてしっぽのない吹き出しはナレーションである。

 一ページの中にある複数のコマは、おおむね上から下の順に読む。同じ高さにあるコマは、右から左に読む。

 人物の頭の上に蒸気が噴出しているのは、その人物が怒っていることを表す。

 背景に放射状の線を引いてある場合、その中心に描いたものに注目せよという作者の意図を表す。


 まだまだたくさんある。無数にある。そのもろもろの約束事をぜんぶ自然におぼえたというのか。そんなことがありうるのか?

 私の両親は漫画を読まない人間で、私の幼いころ家には漫画が一冊もなかった。したがって、子供のころに親から漫画を読み聞かせてもらったり、読みかたを手ほどきしてもらったといったことはない。

 たぶん私が初めて読んだ漫画は、近所の床屋に置いてあった「ドラえもん」である。小学校入学前後ぐらいの時期だっただろうか。非常に熱中して、散髪の順番そっちのけで読みふけったものである。もっとも、ある程度以上込み入ったりひねったりしている話は理解できなかった。たとえば、しゃべった内容がウソになってしまう秘密道具の話とか、タイムマシンで未来の自分を連れてきて仕事を手伝わせる話とか。

 そのように子供の頭で理解できない箇所は少なからずあったものの、漫画の読みかたがわからないということは起こらなかったと思う。すなわち、上で述べたような約束事は最初から知っていたということである。信じがたい話だが、現にそうだったのだ。不思議である。


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