時速四十キロの狂気
二〇二一年の日本国内における交通事故死者は、二六三六人だそうである。癌や心不全で死ぬ人の数と比べれば二けた少ないが、毎日七人ぐらい死んでいるというのは決して無視できる数ではない。
だが社会はこれを無視する。年間の死者数が一万人を超えていたころでさえ無視していた。いや、無視というのはさすがに言いすぎかもしれない。ともかくもいろいろな対策を打ち、いくらかは死者数を減らしている。
しかし、本気で死亡事故をなくそうとしたとはとても言えない。もしもそれを目指すのなら、非常に簡単な方法があるからである。時速三十キロか四十キロぐらいを制限速度として、それ以上の速度が出せてしまう自動車は違法にすればよいのだ。死亡事故ゼロとまではいかなくとも、劇的に減ることは疑いない。ガソリン車を電気自動車に置き換えるよりよほど簡単である。
なぜそれをしなかったかといえば、輸送や移動に時間がかかりコストが増え、経済的に損が出るからである。要するにカネの都合である。そしてさらに掘り下げれば、そのせいで日本経済が低迷し国際競争力が落ち貧困層が増える、といったことを危惧したと思われる。ひらたくいえば、貧困によって餓死者が十万人出るより、交通事故の死者が一万人出るほうがマシ、といったことだ。少数を殺して多数を生かす、ともいえる。政治の基本である。
スピードを出してびゅんびゅん走っている自動車を見ると、私は自分がそのような修羅界に住んでいることを感じずにいられない。
参考資料
内閣府 交通安全白書
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/r04kou_haku/zenbun/genkyo/h1/h1b1s1_2.html




