幻の地・沖縄
沖縄という土地が本当に実在するのか、私はどうも確信がもてない。
そもそも私は北海道生まれの東北在住で、沖縄から非常に距離の遠い人間である。沖縄には住んだこともなければ仕事そのほかの用事で行く機会もなかった。出不精なので、ちょっと観光がてら沖縄の実在をたしかめに行くか……といったことも決してしない。
いままで知り合った人に沖縄出身の人もいなかった。四国出身や九州出身の知人は何人かいたし、韓国や中国の人もいたが、沖縄はゼロである。もちろんこの見方は公平ではない。沖縄という県を単位にするなら、四国とか九州というふうにいくつもの県を束ねたものと比較するのは間違っている。韓国や中国はなおさらだ。
とにかく、私と沖縄のあいだには関わりらしい関わりがあったことがない。知り合いからもらった沖縄土産のちんすこうがおいしかったとか、せいぜいそのぐらいである。
小説や漫画などの物語に沖縄が出てくる場合、神霊の住まう土地、人々が霊とともに暮らしている土地として描かれることがしばしばある。ユタでシーサーでニライカナイな雰囲気である。琉球語の耳慣れない響きと相まって、沖縄の神秘性が増し、逆に実在はますます疑わしくなってくる。
沖縄というのは死後の世界なのではないかと、なかば冗談ではあるが、私はそう思っている。私が死んだら魂は沖縄に行って、死んだ祖父母や母と再会するのかもしれない。「わたしはそんなところにはいないよ」という母の声が聞こえるような気もするが。




