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飄然草  作者: 千賀藤兵衛
第五部 私はピアノを飲む
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アフリカで死んだおじさん

 もう十年ぐらい前になるだろうか、ある日私のスカイプのアカウントに見知らぬ人から英語のメールが入った。その内容を要約すると、アフリカのどこだかの国に住んでいるミスターなんとかという人物が亡くなった。ところがその人の遺族の所在が不明で、莫大な遺産が宙に浮いている。自分はその人の顧問弁護士であり、遺産を相続すべき遺族を探しているところである。お心当たりがあればご連絡いただきたい、といったものであった。なんとかさんの名前は、当時私がスカイプで用いていたハンドルネームによく似た字面であった。

 私にはそのような親戚はありませんと返事をしてそれっきり何事もなかったのだが、後から考えてみると、あれは詐欺だったのではないだろうか。くだんのメールを受け取ったのが欲の皮の突っ張ったやつであれば、我こそはそのなんとか氏の相続人であると名乗り出るだろう。そして向こうから手続きに必要なので指定の口座に金を振り込んでくれとか言われて、逆に金をむしられるにちがいない。

 金がほしい事情も人によっていろいろあるだろうが、赤の他人の親戚になりすまして遺産を横領しようとするわけだから、痛い目を見て当然というべきものである。詐欺はだます側だけでなくだまされる側も悪いというのは、こういうののことだ。

 それにひきかえ私は、詐欺だと気がつきもしないのに、あっさりと被害を回避したのだった。無欲なおかげで難をのがれたというのはまるで教訓話のようで、実際に自分の身の上に起こるといささか面白い。


第五部「私はピアノを飲む」は全十回です。

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