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飄然草  作者: 千賀藤兵衛
第四部 ことばの履歴書
28/77

藤兵衛、読んだり書いたりする

(12)読む男

 話すのが苦手、聞き取りも苦手と書いてきたが、苦手ではない分野もある。字を読むことである。

 ここは小説投稿サイトであるから、この文章を読んでいる人の多くも小説の好きな人だろうと思う。小説を読むのが好きな人は、大体において字を読むのが得意な人であろう。そして、これは私もしばしば反省するところだが、字を読むのが得意な人間は、世の中には字を読むのが苦手な人がいるということを忘れる傾向がある。

 読み書き障害という、一種の病気がある。字を読んだり書いたりするのが極端に苦手、あるいはほとんどできないというものである。そこまでいかなくとも、気合をいれれば読めるが面倒だし疲れるのであまりやりたくない、といった程度の人は相当数いるように思われる。

 私は逆で、字を読もうと身構えていなくても、字を見ればそれが言葉としてパッと頭のなかに入ってくる。長い時間にわたって字を読んでいると目や首筋が疲れるということはあるが、頭は疲れない。

 こういう人間がたとえば職場で何かの連絡事項をみんなに伝えようとすると、紙に書いてどこかに貼り出しておけばいいじゃないか、という発想になる。ところがこれをやると、みんながあまりに読まないのでびっくりする。面倒くさいから読まないという人もいるし、そもそも貼り紙など気がつきもしないという人もいる。どちらかといえば世の中には読むのが苦にならないという人間よりも読むのが苦手な人のほうが多いのではないかと思う。


(13)利用規約

 字を読むのが得意といっても、苦手な字もある。私が最も苦手とするのは利用規約である。

 インターネット上で提供されている何かのサービスを利用しようとすると、しばしば利用規約を読んで同意しろ、というのが出てくる。これは、本当は書いてある内容に逐一目を通して理解したうえで「同意する」のボタンを押すべきものである。また、もし内容に異議があるなら「同意する」のボタンを押すべきではない。しかし、利用規約の文章というやつは総じて抽象的で、どんな問題に対処するために設けた決まりごとなのかわかりにくい。そして極端に分量が多い。読んで理解してもらうつもりが本当にあるのか? 結局私は斜め読みの流し読みでザーッと上から下まで画面をスクロールしただけで「同意する」のボタンを押すことになるのである。昔の言葉でいうところのメクラ判である。

 仕事の雇用契約書だとか、アパートの賃貸契約書なども同様にわかりにくい。あと、給料をもらっている人は毎年提出しているはずであるが、年末調整の書類の裏側に書いてある説明とかも。

 しかし、おそらく世の中には利用規約などのこうした文章をサラサラと読んで理解できる人もいるのだろう。そういった人から見れば、私のようにろくに読みもしないで同意するようなのは、許しがたい怠慢に見えるにちがいない。


(14)ゆがめて、ねじまげて

 利用規約のような性格の悪いのは別にして、そこらへんで見かけるニュース、説明や注意書き、手紙やメッセージ、そして物語などについては、私はまずまず読むのは得意といっていい。では、書くほうはどうかというと、これが意外と得意ではないのである。話すことよりはマシだが。

 前回述べたように、私が何か言ったり書いたりするのはガラガラポンで、何が出てくるかわからない。事実や本心が出てくることもあるが、虚偽や嘘が出てくることもある。私にとって作文というのは、その虚偽や嘘をゆがめてねじまげて、なるべく事実や本心に近づける作業である。

 自然に素直に心のままに書くのがよい、というような無邪気な作文の指導が世の中にはある。それでうまく書ける人もいるのだろうが、私にとってははなはだまずい。自然のなりゆきにまかせて書くと、けっこうな確率でそれは事実と異なる説明であったり、本心ではない気持ちの吐露であったりする。それは私の書きたかったものではないので、書いた文章を何度も読み返してそうした内容を見つけては叩きなおして事実や本心に近づけてゆくのである。


 第四部「ことばの履歴書」はこれで終わります。

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