ダーガー2.0
もしもヘンリー・ダーガーが現代の人間だったら、とときどき考える。人知れず厖大な小説を書き、死んだあとに初めて作品が発見されて注目された人物である。
そのようなことを考えるようになったのは、小説投稿サイトというものを知ってからのことだ。日本だけでも数十万の人間がこうした場所に作品を投稿している。世界全体ではどれほどか見当もつかない。
もしもダーガーが現代の人間だったら、やはり小説投稿サイトに作品を載せてみたのではないだろうか。もっとも、投稿した結果がどうなるかはわからない。あるいは人気を博して商業出版されて一財産つくったかもしれない。あるいはほとんど読まれなかったかもしれない。あるいは読んだ人からケチョンケチョンにけなされて作品を取り下げてしまい、それきりインターネットには見向きもしなかったかもしれない。あるいは大人気とまでは行かなくともそこそこの評価や激励をもらって、幸せに執筆をつづけたかもしれない。
おそらく現に小説投稿サイトに出入りしている世界中の数知れぬ人々のなかには、ダーガーが何万人もいるだろう。インターネットがなければ死ぬまで作品をどこにも発表しなかったはずの人々である。そう考えると、ここは豊かな場所だと思う。
第三部はこれでおしまい。
また忘れられたころに第四部でお会いしましょう。




