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飄然草  作者: 千賀藤兵衛
第三部 ダーガー2.0
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目玉焼きの進化

 ひとくちに目玉焼きと言ってもいろいろ種類があるもので。

 私の実家の目玉焼きは、フタをして蒸し焼きにするやりかたであった。焼き加減は半熟。こうすると黄身に薄く膜が張ったような仕上がりになる。蒸し焼きにする際、鍋に水を入れる人もあるそうだが、うちでは入れない。

 一人暮らしするようになってから、私の目玉焼きは多くの変化を閲した。まず、フライパンのフタを洗うのが面倒くさいので、蒸し焼きをやめた。一方、私は半熟があまり好きではないのだが、フタをしないと黄身がなかなか固まらない。さりとて黄身が十分に固まるまで焼くと、往々にして白身は焦げてしまう。この問題を解決すべく編み出したのが、焼いている途中でフライ返しで卵を裏返すという荒業であった。

 変化はここにとどまらなかった。できあがった目玉焼きを皿に取って食べると、その皿を洗わなくてはならず面倒くさいので、トーストに乗せて食べることにした。映画「天空の城ラピュタ」に出てくるので俗にラピュタパンと呼ばれる食べかたである。だが映画でも描写されているように、食べるときにパンと目玉焼きが離れてしまううらみがある。そこで、トーストの上にスライスチーズを乗せ、その上に目玉焼きを乗せるという改良をほどこした。熱で溶けたチーズがパンと目玉焼きを接着し、簡単にははがれないという寸法である。味と食べごたえと栄養も大幅に向上。

 しかしこの食べかたを何度かやっているうちに、黄身が垂れて手や衣服を汚す事故が発生した。完全に固まっていなかったのである。そこで、目玉焼きを裏返した際にフライ返しで上から押し付けて黄身をつぶすようになった。こうすれば確実に固まる。これが現在の完成形である。

 実家の目玉焼きとは似ても似つかぬ進化を遂げたが、これがほとんど洗い物の手間を減らすというモノグサに由来するのだから大したものである。


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