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飄然草  作者: 千賀藤兵衛
第三部 ダーガー2.0
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エスカレーターと髭男

 そのとき私は、電器屋に電気カミソリの替刃を買いに来ていた。売場は地上五階なので、エスカレーターに乗り込む。乗っているあいだに目当ての品の型番を確認しておこうと思い、携帯電話を取り出した。あらかじめメモ帳のアプリに書き留めておいたのである。この時点で私のすべきことは以下のとおりであった。


 一、つぎの階に着いたらエスカレーターから下りる。

 二、買い物のメモを確認する。


 ところがそのとき、店内に流れている音楽が耳に入ってきた。近年活躍している音楽グループ「Official(オフィシャル)(ヒゲ)(ダン)dism(ディズム)」の歌う「Pretender」である。私はこの曲がたいそうお気に入りでしてな。つい聞き惚れた。そしてこういうことになった。


 一、「Pretender」を聞いてうっとりする。

 二、つぎの階に着いたらエスカレーターから下りる。

 三、買い物のメモを確認する。


 エスカレーターがつぎの階についたとき、私はすっかり曲に没頭していて、下り口でつまづいてつんのめったのであった。

 しかし、考えてみるとこれはおかしい。もともとはエスカレーターから下りるのとメモを確認するのと、二つのことをするつもりだったし、それぐらいはいつもの私であれば無理なくこなせるはずだった。ところが結果を見れば、できたのは「Pretender」を聞くことだけ。エスカレーターから下りることもメモを見ることもすっかり忘れていた。一つしかできていない。

 実のところ、「Pretender」に枠を二つ費やしていたのではないかと思われる。つまりこんな感じである。


 一、「Pretender」を聞いてうっとりする。

 二、「Pretender」を聞いてうっとりする。

 三、つぎの階に着いたらエスカレーターから下りる。

 四、買い物のメモを確認する。


 いくら好きだからといって、そこまでして聞き惚れなくてもと思わないでもない。


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