生きた化石というほどではない話
先日ある小説を読んでいたら、副乳という聞いたことのないものが出てきた。
人間の乳首はふつう二つである。ところが、ときどき先祖返りで三つめ以降の乳首の痕跡を持って生まれてくる人がいる。これを副乳と称するのだそうだ。程度はいろいろで、皮膚の色が濃くなっているだけのものもあれば、ちゃんと乳首の形になるものもある。女性の場合、副乳からお乳が出てくる事例もあるとか。
へえ、あれはホクロではなかったんだ、と思った。あれとは、私の左の乳首の下、胸と腹の境目あたりにある大きな茶色い斑点である。差し渡し一センチほどで、触ると真ん中がわずかに出っぱっている。物心ついたときにはすでにあり、あまりホクロらしくないホクロだと思っていたのだが、まさか乳首だったとは。齢四十にして知る衝撃の事実。
一説によれば、この副乳というのは女性の五パーセント、男性の一・五パーセントに存在するというので、大した珍しいものでもないが、先祖返りだと思うとちょっとわくわくするところがある。
私は親知らずも四本全部生えている。しかも曲がったりせず全部まっすぐ生えたので、抜く必要がなかった。親知らずが全部生える人は現代日本では四割ぐらいだという話だが、曲がって生えたりして抜いてしまう人もいるので、四本全部現役で使っているとなるともっと少ないと思われる。
私は古文を読むのが得意だが、それももしかして先祖返りと関係があるのだろうか。もっとも、平安時代以前や江戸時代のものはそれほど得意ではない。鎌倉室町あたりがいちばん読みやすいと感じる。私の脳味噌は鎌倉時代に製作されたソフトウェアを搭載しているのかもしれない。




