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飄然草  作者: 千賀藤兵衛
第二部 コロナのある風景
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体温計

 何年前だったかおぼえていないが、新しもの好きの父が、離れたところから温度を測る装置というのを手に入れてきたことがあった。この装置を何か適当な物体に向けると、その物体の温度がズバリ表示されるというものである。父はこれを、揚げ物をするときに油の温度を測るのに使っていた。

 この珍妙な装置の親戚がいたるところで活躍する時代がくるとは、当時はまったく予想しなかった。非接触型体温計というやつである。

 私の職場でも毎日これを用いて全員の体温を測定することになった。しかしこれ、三十四度などというバカバカしい体温が出ることが実に多い。もしも三十六度の体温が三十四度と誤って測定されることがあるとすれば、本当は三十八度の熱が出ているのに三十六度という測定結果になることもありそうだ。だいじょうぶなのか。もっとも、考えてみれば腋の下に当てる方式の体温計も測りまちがえることはまったく珍しくない。

 かつて父が大いばりで油の温度を測ったときも、百八十度と出たのが実は二百度だったりしたかもしれない。ただしてんぷらはおいしかった記憶がある。


 第二部「コロナのある風景」は以上です。

 第三部もそのうちに投稿します。


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