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飄然草  作者: 千賀藤兵衛
第二部 コロナのある風景
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輪ゴム

 一人暮らしをするようになって二十年ぐらいたつが、去年初めて輪ゴムというものを買った。新型肺炎が流行したからである。新型肺炎と輪ゴムに何の関係があるのか。

 私の輪ゴムの使いみちは、袋の口を留めることだ。たとえばもやしなどは、一人暮らしでは一度に一袋全部食べるのは難しいので、買ってきたその日は半分だけ食べ、残りは冷蔵庫に入れて次の日までとっておく。このときに輪ゴムで袋の口を留めるのだ。同じような輪ゴムの使いかたをしている人は多いのではないだろうか。

 新型肺炎が流行する前、私はスーパーマーケットの惣菜売場で輪ゴムを調達していた。大きなバットにコロッケやらフライやらをたくさん乗せて陳列してあり、客は店側の用意したプラスチックの容器に各自ほしい品をほしい数だけ取って、これまた店側の用意した輪ゴムでその容器のフタがあかないように留めて、レジに持っていく。私は惣菜売場で買物をするつど、使った輪ゴムを捨てずにとっておいて、自宅での用に供していたのである。

 こうした販売方式は、新型肺炎が流行しはじめてから全くすたれてしまった。むきだしで惣菜を陳列すると、近くで誰かがせきやくしゃみをしたときにウイルスを振りかけるおそれがある、という理由だろう。惣菜は容器に詰めてテープで口を留めたうえで売場に並べてある。かくして私は輪ゴムの供給を断たれ、自腹で輪ゴムを買わざるをえぬ仕儀となった。この事情をつづめて言えば、最初に述べたとおり、新型肺炎が流行したので輪ゴムを買った、となる。

 もともと自分で買うべき筋のものだったと言われれば、たしかにそのとおりである。


 第二部「コロナのある風景」は、全四話掲載します。



 二〇二一年三月二十一日、一部訂正


 (訂正前)

 私はこのときに使った輪ゴムをとっておいて、自宅での用に供していたのである。

 

 (訂正後)

 私は惣菜売場で買物をするつど、使った輪ゴムを捨てずにとっておいて、自宅での用に供していたのである。


 訂正前は私がスーパーマーケットの客なのか店員なのかはっきりわかる部分がなかったため、店員であると解釈した人がいた。その場合はおそらく、客はレジで支払いをしたあとで、スーパーマーケットの提供した使い捨てのプラスチックの容器から惣菜を出して、自分の持参したタッパー等の洗って何度も使える器に移し替え、いらなくなったプラスチック容器と輪ゴムは店内のゴミ箱に捨てて行く。そしてその輪ゴムを店員である私が回収して着服する、という図式になる。実際、自宅から出るゴミを減らしてゴミ袋代を節約するために、かさばる使い捨て容器などを買ったその場で捨ててしまう客もいると聞く。

 実際は私は店員ではなく客であり、合法的にもらった輪ゴムを家でつましく再利用しているだけのことである。

 記述不足を指摘してくださった方に、この場を借りてお礼を申し上げる。


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― 新着の感想 ―
[一言] いわゆる【業務上横領】にあたる、のでは…。 正当な理由なき行為に見えまっする。
2021/03/20 19:50 退会済み
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