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飄然草  作者: 千賀藤兵衛
第一部 自動的な男
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自動的な男

 洗って干しておいたはずのタオルがどこにも見当たらない。一人暮らしなので、私が片づけた覚えがないからには誰も片づけていないはずである。あちこち探したすえにいつもタオルを入れている収納ケースを開けてみたら、そこにちゃんとたたんでしまってあった。どうも無意識のうちに自分で片づけていたらしい。慣れた仕事は自動操縦よろしく最初から最後まで何も考えずにやってしまうことがあるようだ。ぼくは自動的なんだよ。

 上遠野浩平の小説「ブギーポップは笑わない」に、この「ぼくは自動的なんだよ」というセリフが出てくる。二重人格の人物が、ふだんは平凡な学生として暮らしているのだが、身の回りで重大な犯罪が発生すると別の人格に切り替わり、悪党を手際よく成敗する。この別人格が自己紹介をするときに言うのが、くだんのセリフである。悪事を察知すると本人の意思に関係なく人格の交替が起こる、というような意味合いである。断じて洗濯物を無意識のうちに片づけるという意味ではない。

 私はこの小説の熱心なファンというわけではなく、続編も読んでいない。しかし例のセリフだけはなかなか琴線にふれるものがあり、ときどき使ってしまう。

 雨が降りそうなので傘を持って出かけようと思っていたのに、うっかり持たずに出てしまった……と思ったら、ちゃんと傘を持っていた。自分でも気がつかないうちに傘を持って出ていたらしい。ぼくは自動的なんだよ。

 仕事が終わった帰り道で、その日は寄り道する用事があって、駅でいつもと違う料金の切符を買わなければならなかったのだが、うっかりしていつもどおりの切符を買ってしまった……と思ってよく見たら、ちゃんと必要な切符を買っていた。自分でも気がつかないうちに正しい切符を買っていたらしい。ぼくは自動的なんだよ。

 こんな調子である。


 第一部終わり。

 第二部は、忘れられたころに投稿します。


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