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飄然草  作者: 千賀藤兵衛
第一部 自動的な男
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尿検査の朝

 私は外出する前に必ずトイレで用を足す。だがその日は病院に行って健康診断を受けることになっていた。健康診断の項目のなかに尿検査が含まれているので、家で膀胱を空にしてしまうと、病院で尿を採るときまでに十分な量がたまらないかもしれない。そこで、尿を温存するためにトイレに行かずに家を出た。

 家を出て玄関扉に鍵をかけた瞬間、あっトイレ行ってねえぞ、と気がついた。どうしよう、せっかく鍵をかけたけれどもういっぺん家の中に戻ってトイレに行くか……と考えたところでようやく尿検査のことを思い出した。そうそう、今日はあえてトイレに行かずに家を出たのだった。忘れてどうする、私。

 病院は徒歩十分ほどのところにある。歩き出してほどなく大きい通りに出たとき、しまった、トイレに行かずに出てきてしまった、と気がついた。どうしよう、今から家に戻って用を足してくるか……と考えたところでようやく尿検査のことを思い出した。何度忘れれば気がすむのであろうか。

 歩いて行って、とある交差点に来た。いつもはここを曲がって駅に行って電車に乗って出勤するのだが、この日はまっすぐ進んで病院に行くことになる。ここでふと尿意を催して、家を出る前に用を足さなかったことに気がついた。どうしよう、今から引き返すのも何だし、病院に着いてからトイレを借りればいいか……と考えたところでようやく尿検査のことを思い出した。ここまでくると、もう何と言ったらいいかわからない。

 家を出る前にトイレに行くというのが習慣になっていて、その習慣を外れようとすると頭のなかで警報が鳴りつづけるようになっているらしい。あいにく警報が鳴るのを止めるスイッチはないようだ。

 そんなこんなでようやく病院に着いた。だがいざ尿を採るための紙コップを渡されてそれに出そうとするとなかなか出ないのがまた不思議である。


 第一部「自動的な男」は全十話掲載します。

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