TSお姉様、参戦が決まる
いやぁ、すっごいなぁ。
さっきの攻防。実際には一瞬の出来事だけど、見応え抜群だったよ。まあスーヴェインさんがいきなり攻撃に出たのは意外かな。でもその後は余裕で防御に徹してたし、三人相手でも全く動じてない。そもそもその辺の雑魚相手じゃないのに。
相変わらずの大剣は、銀色に光って恰好良い。自由自在って言葉がぴったりで、おまけに強度や斬れ味まで出鱈目だもんね。前から不思議だったけど、魔法で生成してるのにツェイスやクロの剣を弾くなんて、どんな仕組みなんだろ?
『ふむ、奪うと言うより操作の延長じゃな。ジルの力に似通う部分もあるが、効果範囲や強度に制限がない。掴み方も違うな。何より、あの剣はなかなか興味深い』
ルオパシャちゃんが解説してくれた。確かにやられた側は魔力を奪われたって思うだろうけど、実際には違う訳か。よく考えたら魔力を消すなんて理論的に不可能なはず……超絶TS美少女以外だけど。
あ、ターニャちゃんから見たらどうなんだろ? スーヴェインさんが何をしてるのか分かるのかな?
「ね、ターニャちゃん」
「はい、お姉様」
周りに聞こえないよう小声で聞いてみる。ターニャちゃんも察してくれて耳を俺の口元に寄せてくれた。その時フンワリ甘い香りが髪から漂って来て、ちょっと固まってしまう。
「どうしました?」
「あ、うん、えっと」
可愛い。やっぱり可愛い。恥ずかしいし、紺色の瞳が見れないし、お母様をチラ見して落ち着こう。
「えっとね、魔王陛下が何してるか見た?」
「あ、はい。勉強になるかと思って……もしかして拙かったですか?」
才能って言葉にしなくても理解してくれる。しかもモラルとかルール違反かもって心配するなんて、やっぱり偉いなぁ。て言うか距離が近くてドキドキが加速するんですが。
「ううん、そうじゃなくて、ターニャちゃんからはどう見えるかなって」
「ああ、なるほど……ついさっきも驚いたんですけど、殆ど魔素に動きが無い様に見えますね」
「そうなの?」
「はい。でも実際は違いました。魔素が収束を始めたり、活動が活発になると、ほんの少し……本当に少しだけずらすんです。多分ですけどもっと大規模な変化も出来るのに、態と局所的な方法を選んでる感じでしょうか。魔素感知の応用とも違うと思いますし……不思議です」
「ずらす……」
以前戦った時の違和感はそれかも。精密な魔力操作をする人にとっても天敵だし、下手な魔力収束なら集める事も出来なくなる。クロの魔力強化は阻害してないから、あくまで空間への作用だな。まあその辺は予想通り……いや、厄介に変わりないですけれど!
同時にターニャちゃんのヤバさも改めて感じる。あの僅かな時間で作用の原理を掴んじゃうんだからね。おまけにもっと鍛えたら魔力を魔素ごと消し去る事だって可能な訳で。こんな可愛い顔して、マジで凄いな。
「あの……あまりジッと見られたら恥ずかしいです」
「あ、ごめん」
ついターニャちゃんの超絶美少女ぶりを凝視してたら、何だか別方向から視線を感じる。
「お母様、何ですか?」
俺と同じくらい凝視してるし。ルオパシャちゃんも片肘ついてこっちを見てる。んー?
「……気にしないで。二人とも仲が良いって思っただけ」
そう? 嬉しいけど、ターニャちゃんにフラれた俺としてはちょい複雑だなぁ。
『む、そろそろじゃな』
顔の向きを変えたルオパシャちゃんの声と殆ど同時。紫色した明るい光……そっか、ツェイスってばいよいよ本気出すみたい。
でも、やっぱり綺麗だ。風雷の魔法って。
○
○
○
紫色した沢山の線はスーヴェインさんだけじゃなく、その周辺にまで放たれたみたい。制御が難しいのならって乱発してるな、きっと。
放出とほぼ同じ時間で到達してて、あくまで予想でしかないけど。魔王陛下が僅かに眉を顰めたことと、地面の数カ所から白っぽい煙が上がったこと、そんなのが見えたからね。
お、よく観察すればスーヴェインさんのマントにも焼け焦げがあった。つまり、命中したのだ! すっごいぞ、ツェイスったら。
「フェルミオ! 遠慮するな!」
何だか珍しく声を荒げたツェイスに応え、エロジジイも得意の魔法を放つ。今度は真っ赤な炎の玉が頭上に生まれ、時間差で発射された。やっぱり回避されることも考えたのか、命中箇所にもズレがある。殆ど爆発に等しい火炎が次々と立ち上がり、視界を真っ赤に染めて視界を遮った。
爆風と熱、紫色の稲光、舞い上がる砂埃。うん、やばい。
ちょ、ちょっと遠慮なさすぎじゃない? 大丈夫かな、魔王陛下。
ルオパシャちゃんが魔法の威力を制限してるって話だけど……何だか信じられない。やっぱり、超級の魔狂いや風雷の才能は伊達じゃないんだなぁ。
乱発、いや暴発に等しい攻性魔法の連続。
ツェイスが上空を見上げたと思えば、落雷が次々と発生する。濃い紫色した稲妻はジグザグに走り、瞬きする間もなく地面に届いた。
悔しいけど恰好良いじゃん。もし詠唱があるなら「落雷」って感じかな。
「だ、大丈夫、なんでしょうか……こんな、魔法、わっ⁉︎」
流石にこれ程の魔法を見たことが無かったターニャちゃん。魔素感知もやめて、目を細めたりしてる。雷は自身に当たらないと知っていても恐ろしいもんね。元の世界で家の中に居てもビクビクしてたの思い出すよ。心配なのはスーヴェインさんのダメージだろうけどさ。
でもまあ、ほんとにヤバいのは……
「うん、凄いけど、魔王陛下には殆ど届いてないね……ううん、寧ろ」
「お姉様?」
『素晴らしい。妾の制御下でありながら中々の威力じゃ。しかし、やはり魔王。魔法に関しては何枚か上手じゃな。このままでは人族に勝ち目はないが……さて、手段は限られ、魔王も当然其れを知っておる。勝敗が決するまで僅か、楽しみじゃの』
ルオパシャちゃんの言う通りだ。多分だけど、スーヴェインさんは放出系の魔法を一切使わず勝つつもりらしい。攻撃は最初だけで、あとは動いてないし。あの三人相手に余裕なんてないはずだけど、何か考えがあるのかな。魔力強化で躱すことだって出来るのに。
「ターニャちゃん、頑張って見てみて。魔王陛下は勿論だけど……それよりクロ、だね」
他の人に聞こえない様、小声で伝えてみる。寄せられた耳をつい甘噛みしたくなったけど、グッと我慢した。
「クロさん?」
目を凝らしたターニャちゃんと一緒に戦いへ集中する。
うん、やる気だな。
今のアイツが出来る最高レベルの魔力強化を施し、あるかも分からない隙を探してる。此処よりずっと音や爆風も凄いだろうに視線は揺れてない。成長したね、クロ。
鞘を投げ捨て、剣を両手で持つ。その剣先を地面に触れる寸前で止めて、僅かに腰を落としたみたい。多分隠しても無駄だと割り切ってるんだろう。
定量とは言え、練り込みの純度は素晴らしい。
すぐ近くでクロを眺めていたら姿が掻き消えた様に見えた筈だ。それだけの初速で踏み出し、土煙りすら置き去り。まだ俺の速度には及ばない。でもスーヴェインさんとの距離なら正に一瞬だろう……って、そのタイミングじゃ……!
「クロ……!」
恐ろしいことに、クロはツェイスが上空から放つ紫電に身を投じた様に見えた。まるで自爆だけど、でも勝てる可能性に賭けたのか! うん、クロも凄い!
予想通り、雷を浴びつつ剣を振る。いや、微妙に直撃は避けたみたいだ。
少し驚いた魔王陛下の表情。間違いなく予想外の動き。
クロの身体の何箇所からか血が噴き出し、他にも火傷だってしてる。痛そうな顔色だって演技じゃない。あー、もう! 無茶して!
そして……
無理矢理捻った魔王陛下の肩口を僅かに斬り、クロは首根っこを掴まれ組み伏せられた。スーヴェインさんの緊張感溢れる表情からも、ギリギリの攻防だったのは間違いない。別にアイツだけを応援してる訳じゃないけど、ホントに惜しかった。
「ぐえっ」
クロの短い呻き声、持っていた剣はいつの間にか折れている。それを認めたときには真っ黒なマントも水色の肌もそこに無く、エロジジイの背後まで移動。何をしたか分からないけど気絶させられたみたい。だってパタリとエネルギーが切れたみたいに倒れたし。最後のツェイスだけは諦めず迎え撃った。あの魔力の大剣を受け流したのは流石だけど、風雷の魔法を制御する余裕が無いのは明らか。
次々に繰り出される大剣の重みに劣勢となり、一本、また一本と増えていく魔力の剣に焦りが見え始める。ゆっくりと歩み来るスーヴェインさんを止めることも叶わず、その手には一本の剣。やはり魔力で作ったのか、キラキラと白く輝いていた。
「……参った」
遂には首元に大剣を当てられ、ツェイスの悔しそうな声が聞こえて来た。
おお……やっぱり魔王陛下ってば、すっごい! アイツら相手にたった一人、攻性魔法もなし。なのにほぼ圧勝だからね。
そして、そんなスーヴェインさんは姿勢を崩さず、上を見た。まあお母様を見た訳だけど。
「……そこまで! 皆様、お見事でした!」
お母様の声で、生成した魔法の大剣がパッと消える。いや、それも凄いけどね。
すると、パチバチパチと小ちゃな手が奏でる音。真っ白な髪も揺れ、やっぱり真っ白な肌の手で拍手するのはルオパシャちゃん。
『うむうむ、その通りじゃ。特に最後の攻防は目を見張る内容であった。久しぶりに、この竜の血も沸き立ったわ』
ターニャちゃんも我に帰ったのか、集中を切ったみたい。魔素も見えなくなったかな。
「……いよいよお姉様のお相手が決まるんですね。私には全員が凄かったとしか思えないですけど、ルオパシャ様はどう判断されるんでしょうか」
はっ……そうだった! 忘れて試合見てたよ……
や、やっぱり圧勝だったスーヴェインさん? それとも指揮をしつつ風雷の凄さを見せたツェイス? でも最後の一撃を当てたクロも……って、クロ、怪我してた!
「ターニャちゃん、縄を解いて!」
「あ、はい」
"ジルヴァーナに罰を"がハラリと落ちて自由になった。よし、待ってて! でも魔力銀の服を着てないから強化出来ないし、走って行くしかないな。
タタタと漸く辿り着き、小さな身体を抱き寄せる。一気に治癒魔法を全身に流してチェック! うん、大怪我じゃないし、出血量も大したこと無かったみたいだ。全く、無茶をして。
「お、お師匠様……」
「クロ、痛いところは?」
「うっ……せ、背中が……」
背中⁉︎ 見えなかったけど、何かあったのか⁉︎ クロをこっちに抱き寄せる様にして、背中に手を当てる。
「どの辺り⁉︎ 魔素の循環だと見つからないよ!」
魔法でチェックをしたのに、分からないなんて。もしかしたら、ルオパシャちゃんの阻害が効いてるのかも!
「もう少し、下……」
届かないし、抱っこする感じなら……
「お姉様」
「ターニャちゃん、ちょっと待って、今は」
「いや、そうじゃなくて、クロさんの顔を見て下さい」
顔?
俺の胸に埋まってた横顔を眺めてみると、ターニャちゃんの言ってる意味が分かった。だからクロをポイっと放り投げ、立ち上がる。
「痛い! お師匠様、痛いですよ!」
「このバカクロ! もう怪我しても治さないから‼︎」
鼻の下を伸ばし、顔を赤くさせ、目尻はグニャリと曲がっていた。多分、いや間違いなく我が自慢のオッパイに顔を埋める為の演技だろう。このエロガキめ!
「儂も痛いところが……股間辺りなんじゃが」
「エロジジイは黙ってて」
いつの間にか目を覚ましていた魔狂いもアホなことを曰う。うぅ、変態ばかりだ俺の周りって。可哀想なジルちゃん。
『かかか‼︎ 相変わらず面白いのぉ、ジルは』
俺じゃなくて、周りがおかしいの!
「ツェイスは? 大丈夫?」
「……ああ。問題ない」
「そっか」
『さて、次じゃの』
「え?」
次って何だろ? 結果発表って感じじゃないし……観客席から降りて来たお母様も微妙な表情だから、予定とも違うと思う。そんな俺の疑問はターニャちゃん達だって同じみたい。
『ジルや、魔王にも治癒魔法を』
「あ、うん」
大した傷じゃないけど、怪我は怪我だもんね。
『ふむ、体力も問題なさそうじゃな。まあ連戦程度で低下する戦力など評価しても仕方無い。惜しむらくはジルが魔力銀の衣服も剣も持って来てない事じゃが……妾が調整してやろうかの』
「えっと……ルオパシャちゃん? 何を言ってるの?」
『ん? 何を驚いておる? ジルの伴侶を決める戦いじゃろう? いよいよ決勝戦。妾も心が踊っておるよ』
え?
あの、お母様、どういうことかな?
「ル、ルオパシャ様……まさか……」
『シャルカよ。お主に打診を請けたとき、妾も参加すると答えた筈じゃがの』
なんだろ、決勝戦って。
『全員で妾と戦うのじゃ。無論お主も加わってな。何、花嫁には攻撃せぬから安心して良いぞ? ジルが加われば良い勝負となるからのぉ。間近で、お主を求める者共の戦いを目に焼き付けるのじゃ。ああ、治癒も攻性魔法も好きにせい』
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるルオパシャちゃん、可愛いな。
えっと、ふむふむ?
「って、私も⁉︎」




