TSお姉様、誘導される
懐かしい。
何年か前に来た時は色々知らない事も多かったし、超級どころかトパーズだったから尚更だ。あの時は夢中で今よりずっと演技してたのもある。まあツェイスの前でつい普通にしたのは、まさか王子様なんて知らなかったから仕方無いのだ。
ふむ。でっかい半魚人みたいなカリュプディス=シンが出て来て遺跡は粉々になったけど……どうやら片付けもしてないみたい。まあ周りも荒野と言っていいし、需要だってないのかも。雰囲気はグランドキャニオンとかの場所に近いと思う。まあ行ったことないけどさ。
「ジルヴァーナ、ご挨拶は?」
「え? あ、うん」
うーむ……
今更敬語なんてアレだけど、まさかお母様にバレる訳にもいかないだろう。何年も経ったし、ルオパシャちゃんも分かってくれるはず。頼む、空気を読んでくれ!
「ル、ルオパシャさま? お久しぶりっ、デス。覚えてくれてますか……私のこと」
「……」
あれぇ? でっかい竜形態のルオパシャちゃん、動きませんが。足元まで来て、大きな声で挨拶したのに……でも橙色した眼はこっちを見てるよね? 気付いてない訳ないし、おかしいなぁ。
「……わぁ⁉︎」
様子を伺っていたら、相変わらずとんでもない量の魔力の波が俺達を襲った。勿論攻撃的な物じゃないけど、普通の人なら気絶してもおかしくない。古竜は魔力そのものが長い年月をかけて結晶化したような超越的存在だ。吐息一つで嵐みたいになるのかも。
思わず目を閉じて、暫くじっとする。今は魔力強化して躱すことも、逃げる事も出来ないのだ。万が一にも服が破れて素っ裸とか勘弁して欲しい。そろそろ到着するだろうツェイス達も居るし。
砂埃が通り過ぎ、空間の魔力も落ち着いた頃、ゆっくりと瞼を上げる。
ちょこん。
そんな擬音がピッタリな女の子が目の前に立っていた。つまり、人化してくれたのだ!
はい、可愛い。
真っ白な髪、円な橙色した瞳。スカートから伸びる脚だって雪みたいに綺麗。あの下に隠れた下着を間近に見たんだなぁ、俺って。おっと、煩悩退散煩悩退散!
身長は随分と小さく感じる。まあ俺の身長が伸びたんだろうけど。
うん、超可愛い。
でも、何だか怒ってるような……そう言えば、以前みたいに服は真っ白じゃないんだな。勿論白が基調なんだけど、襟やスカートは淡い青。と言うか殆どセーラー服だよね、それって。俺の趣味にピッタリで凄く似合ってるなぁ。
「へぇ、服の色やカタチも変えられるんですねぇ。どんな仕組みなんだろ……って、ル、ルオパシャ様?」
ズンズンと歩いてくるとすぐそばで立ち止まり、俺を睨み付けるように……と言うか、思い切り睨まれてます。見上げたまま俺をジロジロと眺め、両手を腰に当てて仁王立ち。
「えっと……ルオパシャ様? 御機嫌斜めで御座いますか?」
視線もギロリって変わったし。もし竜の姿のままだったら怖いだろうな。
『ジル』
魔力そのものが声になってるからお腹に響く。可愛いのに威厳もあるから不思議だ。
「は、はい」
『なんじゃその"ルオパシャ様"とやらは。それに言葉遣いも気色悪い。妾のことは以前と同じよう可愛らしく呼ぶが良いぞ。ルオパシャちゃん、とな』
あのさ、空気読もうね?
ヒィ⁉︎ 真横から殺気が! 具体的に言うとお母様が佇むあたりから! こ、これは違うんですぅ! いや、違わないけど!
『それに随分とつれないではないか。ん?』
「は、はい?」
『この服じゃ。お主にとっては久しぶりであろうし、以前楽しんだ"でえと"とやらで妾に選んでくれた衣服じゃぞ? 下着を斬ったお詫びとやらでな。確か、人間同士ならば"着せ替え"を楽しむのであろう?』
あばばばば……!
見たくない……真横を見たくないですぅ!
「そ、そうでしたね! ル、ルオパシャ様が楽しんでくれたみたいで良かったなぁ! ね? ね?」
頼む! 俺達母娘の雰囲気分かるだろ⁉︎
『ルオパシャちゃん、じゃ。確かベタベタ触ったり、撫で撫でするのは奢る方の特権だと言っておったが。抱っこも特別に……』
「ベタベタ? 撫で撫で? おまけに抱っこですって?」
「お、お母様! 違う、ちょっとした出来心で……」
「なお悪いでしょうに!」
「いだだだだ‼︎」
『相変わらず面白いのぉ、お主は』
こ、このチビ竜め……分かってやってやがる! そのクスクス笑う笑顔は最高ですけど!
「全くもう……ルオパシャ様、誠に申し訳ございません。娘には後でしっかりと言って聞かせますので」
『良い良い。妾はジルを気に入っておる。どうじゃ? この衣服、似合っておるじゃろ?』
ポーズをとるルオパシャちゃん、可愛い。
「はい、それはもう。その点だけはジルヴァーナを誉めなければなりませんね」
お母様も楽しそうに笑い、空気が緩んだようだ。ふぅ、危ないな、全く。
え? なにかな、お母様。
「ジルヴァーナ、後で話があるから。覚悟なさいな」
「……」
「では改めて……ルオパシャ様。このおバカな娘のため招聘に応じて頂き、心から感謝致します」
バンバルボア帝国の皇妃としての顔に変わり、お母様が真剣な言葉を伝える。対するルオパシャちゃんも慣れたものなのか、緊張もせずに返して来た。
『ふむ。確かにシャルカの呼び掛けに応じたが、妾にも丁度良い話じゃからな。気にする必要などないぞ? 確か、ジルを誰が娶るか母として決めるのじゃろ?』
「は、はい。その上で候補者の力を見極めて頂きたく思います」
丁度良いって何だろう? お母様もちょっと不思議そうだし。
『うむうむ。妾を打ち負かす程の力ならば認めるしかあるまい。ジルを好きに出来る権利となれば、誰もが躍起になるのも仕方あるまいて』
「打ち負かすって……」
いやいや、無理だよね? 多分超級が全員集まっても勝てないだろうし……魔王陛下やツェイスが居たら少しだけ可能性が上がるのかな? それと"好きに出来る権利"って何だか嫌な響きなんですが! お母様、これってちゃんと伝わってるの? 思わず横を見ると、お母様も微妙な表情。
「あの……」
『誰か来た様じゃな。ほぉ、確かに中々の実力者と見える。あれが候補者達かの?』
ん? ああ、ツェイス達だな。イケメン詰め合わせセットが入った馬車が砂埃を上げながら近付いて来てる。魔王陛下にツェイスとクロ、きっとターニャちゃんも中に。滅茶苦茶でっかい馬車だから狭くはないだろう。ターニャちゃんって何気にコミュ力も凄いから、あの濃いメンバーでも上手にやってそうだ。アートリスの市場とかなんて俺より人気者だもん。そもそも魔王陛下以外は顔見知りだしね。
少し薄暗くなって来たし、今日は挨拶くらいで終わりかな。夜営する事になるけど……ルオパシャちゃんが居る以上、魔物は絶対に近寄って来ない。魔力に敏感な奴等ならとっくに逃げ出しているだろう。これならターニャちゃんに万が一の危険も無い。まあ念の為に気を付けておくけど。
「それでは、後程紹介致しますわ」
『そうじゃの。妾は人の世情に疎い。頼む』
「はい」
俺達から少し離れたところで、馬車が止まった。
○
○
○
瞬く間に夜営のテントが出来た。
追随していたもう一つの馬車に色々と積んであったのか、竜鱗の副騎士団長コーシクスさんも手伝ってるから尚更だ。あの人って遠征や野営とか、しょっちゅうやってる筈だし。
「うへぇ、豪華だなぁ」
テントと言うか部屋みたい。屋根?も高いし、骨組みもしっかりしてる。円形になってて簡易ベッドも余裕で置けるサイズだ。昔テレビで見た遊牧民の人達が建てるヤツに似てるかも。
優遇されているのか最初に俺のを用意してくれたのだ。まあ、大事な景品だし? ハァ……
濃い化粧も落としてあとは寝るだけなんだけど……外から騒がしい声が聞こえて来る。具体的に言うと男達の談笑だ。偶にルオパシャちゃんの可愛らしい声も混じるから、一緒に話してるのかも。
「楽しそう」
チラリと幌を上げると、焚き火を中心に皆が円になっているようだ。キーラが給仕してて、お酒も入ってるな、あれは。キャンプとかみたいで羨ましい。
魔王と勇者が普通に会話して、隣にはツェツエ王国の王子。更には古竜が一人か……いやいや、絶対おかしいよね?
「ジルヴァーナ、駄目ですよ」
「分かってる」
「貴女は大切な花嫁なの。ほら、こっちにいらっしゃい」
「はーい」
用意された椅子に座ると、真正面にお母様。うーむ、改めて見ても凄い美人だなぁ。妖艶って言葉はお母様の為にあるみたいだ。
「なに? ジロジロ見て」
「別に……懐かしいなって」
「貴女が逃げ出したからでしょ」
「まあそうだけど」
銀色した瓶を手に、お母様は中に入ったクリームを指で取った。そのまま俺の顔にツンツンと何箇所か付けると優しく塗り塗り。薄く引き伸ばすと後は軽いフェイスマッサージだ。潤いを保つ何かだけど、我が家では大抵サボってるヤツだね。
続いて背後に回ると背中に垂れた髪に櫛を通す、何度も。そしてクルリと纏めたら髪留めでパチリパチリ。うん、楽チンだ。
「これで良しと。後でキーラに身体を拭いて貰いなさい。それともターニャさんに頼む?」
「え? いや、大丈夫だけど……ターニャちゃんに頼む事じゃないし。お母様、あの娘は私の使用人とかじゃないよ?」
そもそも恥ずかしいです。
「じゃあどんな存在なのかしら?」
「……何でそんな事を聞くの?」
「貴女こそ、何で難しく考えてるの?」
え? そんな風に言われたら気になる。
「別にそう言う訳じゃ……今は、妹、かな」
「確か、アートリス近郊の森で会ったって聞いたけど」
「うん。ギルドの依頼で魔素溜まりの調査依頼を受けて……偶然ターニャちゃんを見つけたの。魔物に襲われそうだったし、身寄りも居ないって聞いたから保護したって感じかな。あとは知っての通りで、色々と」
「料理の腕といい、あの屋敷を一人で世話出来るなんて本当に凄いと思うわね。あれ程有能な者はバンバルボアでも中々居ない」
「そうなんだよ!」
だよね! ターニャちゃん、マジで凄いんだから!
「料理なんて毎日美味しくて、栄養もしっかり考えてくれてるし! あと家計もバッチリで、市場とか目利きで有名なんだよ? それに、それに最初は冷たい感じに思うけど、ホントは凄く優しくて可愛い! 偶に意地悪だけど、結局思い遣りがあるからつい許しちゃう訳!」
「ジルヴァーナってターニャさんのことになると途端に人が変わるわね」
思わず握り拳を作り、お尻まで椅子から少し上げてしまった。それを見たお母様の言葉だけど、俺は気にしないぞ!
「あの瞳って近くで見ると色が少し変化して……黒だと思ったら実は濃紺だったり、髪だってサラサラなんだよ。上目遣いなんてされたら何でも買っちゃうね!」
「どこのエロ親父よ、それ」
聞こえない、聞こえませんから!
「お母様だってそう思うでしょ?」
「何でも買っちゃうの部分は分からないけれど、概ね間違って無いかしら」
「でしょう!」
「大好きなのね、本当に」
「勿論! 世界で一番‼︎」
「だそうよ? ターニャさん」
ん? んん? どこ見てるの、お母様は。
油が抜けた機械仕掛けの様に、ギギギと振り向く。驚きが過ぎるとこんな風になるのだ、ホント。
「タ、ターニャちゃん……」
あれぇ? い、いつから居たのかな?
テントの入り口から入って直ぐ、そこには至高のTS美少女ターニャちゃんが立っていた。少しだけ赤い頬を見れば殆ど聞かれていたのが分かってしまう。おかしい……冒険者生活で鍛えた技術は裏切らない筈だ。魔素感知は勿論だけど、気配察知だってトップクラスなのに……何故か気付けなかった。
「す、すいません。キーラさんに教わった気配を絶つ方法を練習してて……シャルカさんに丁度良いからって」
ええ……⁉︎
教わって直ぐそのレベルってヤバすぎだよ‼︎
「さ、最初から居たの?」
「……はい」
此れは凄く恥ずかしいですね、はい。
「お母様……酷くない?」
「御免なさいね。まさかあんなに喋るなんて思わかったから」
その顔、分かってる癖に!
「うぅ……」
「そんなに真っ赤でプルプル震えて。それとも嘘だったの?」
「そうじゃないけど……」
「じゃあ良いじゃない。さあターニャさん、あっちの馬車で何を話したか教えて貰えるかしら」
「あ、はい、シャルカさん」
もう何時もの表情に戻ったターニャちゃん。
切り替え速いね、キミ。




