TSお姉様、発見される
アーレ編最終話
「準備いい?」
「はい。忘れ物も……あっ、お土産は」
「パルメさん達の? それならもう馬車に運んで貰ったよ?」
「良かったです。後は大丈夫かな」
「じゃあ、帰ろっか」
アーレに来た時と同じ旅装に身を包んだターニャちゃんがコクリと頷いた。さっき梳かした髪も艶やかで、タチアナ様に施された御化粧も綺麗。薄化粧だけど、少しだけ大人びて最高に可愛い!
くっ……カメラは⁉︎ スマホはどこなんだ!
記録出来たならなぁ。でもそんなの無いから我が頭脳に刻み込むぅ!
アートリスまで数日だけど、帰りはクロがいない。まあ何処かで会うかもだけど、つまり二人きりの旅。しかも最近のターニャちゃんはツンがデレに少しだけ傾いている。ちょっとだけ懐いてくれた仔猫の様に、超絶可愛いのだ。
今朝だってお早うのホッペにチューをお願いしたらOKだったんだよ? もう昨日までのウニャウニャも消えて、朝から元気一杯!
ああ、無事に家に帰れたら新婚生活を楽しむんだ……もうハーレムとかいいや。誰だよ、そんなおバカな事を夢見てたのは……
「ジル様、もう帰られるのですね」
「リュドミラ様」
……ミラちゃん凄く可愛いんですが。やっぱり夢は持ち続けるものだよね、うん。
「もっと沢山のお話をしたかったです。あの冒険の続きをまた教えてくださいますか?」
「勿論です。リュドミラ様との時間、本当に楽しくて幸せでした。心からお礼を……」
「ミラと呼んで貰えないのですね」
哀しそうな上目遣い、堪らん! しかし此れはチャンスだ! が、頑張れオレ! 勇気を振り絞るのだ!
「言葉も大切ですが、気持ちを伝えるのはそれだけではないですから。リュドミラ様、お許しを」
我ながら格好良い台詞を吐くと、ゆっくりと小さな身体を抱き締める。緊張するけど、別れる日くらいはいいよね! おお……柔らかい、温かい、良い匂い! こ、これは堪らない。
「ジルお姉様」
リュドミラちゃんはそう言いながらも背中に両手を回してくれた。フニョリとアレが感じられて幸せの大波が襲う。うむ、此れも記憶に刻むぅ! このまま連れ帰りたいけど……全騎士団に追われるのは流石に怖いし。何やら緊張感の増した紅炎の皆様が周辺にいる……タチアナ様やクロエさんは微笑ましい感じだから失礼になってないよね?
「またお会いしましょう」
「はい」
あとは城を出て、街との境目にある城壁までゆっくりと歩く。ツェイス達は門のところで待っているらしい。馬車や旅に使う荷物も用意してくれてるってさ。
姿が見えなくなる最後、リュドミラ様は上品に手を振ってくれていた。やっぱりお持ち帰りしたいなぁ……因みにクロエさんはピョンピョン飛び跳ねながらバイバイしてくれてる。タチアナ様は静かに佇んで何だか格好良い。
「駄目ですよ、お姉様」
う、うん?
「な、何かな、ターニャちゃん」
「縫いぐるみじゃないんですから。連れ帰ったりしたら完全なアレです」
「ななな、何を言ってるのかなぁ? いや、アレってなに⁉︎」
「アレです。分かるでしょう?」
そんなに不審者みたいな視線だったのか? 気をつけよう……て言うか、ターニャちゃんやっぱり心を読んでない?
「むぅ」
「今聞くのも変ですけど……王都に残ろうと考えないんですか? リュドミラ様やクロエ様だってそれを望んでいるのに。それに、ツェイス殿下だって……」
「うーん……余り考えてないかなぁ」
「何故ですか?」
「色々あるからね。其れにアートリスに愛着があるし……」
「……そうですか」
結局答えてないからターニャちゃんも微妙な感じ。でも本当に色々あるんだよな。
今回もそうだけど、やっぱり貴族達はややこしい。まあミケルみたいな奴は早々居ないだろうけど逆もある。つまりツェイスとの仲を取り持つつもりの人達だ。タチアナ様もそうだし、他にも結構。でもこの事件で改めて思ったんだ。隣を歩くターニャちゃんが大好きだって。
それに不在の"魔狂い"も。あのエロジジイの本拠地はアーレだから被るのも面倒臭い。ツェツエの防衛面でも意味が薄れてしまう。アートリスは貿易の玄関口で大切な要所だからね。それを理解してるから陛下だって強くは要望しない訳だし。まあ今後は分からないのが不安だけどさ。
あとパルメさんや友達!になったリタ、他にも沢山好きな人が居る。あの雑多な街並み、合うんだよなぁ。アーレは凄く綺麗だけど、やっぱり都会な雰囲気で洗練されてる。遊ぶにはいいよ、うん。
「また来たい?」
「はい。アリスお嬢様と仲良くなりましたし、今度は泊めて貰えるって。お姉様も是非だそうです」
「そっかぁ。アリス様って最初はアレだったけど、凄く素敵な子だよね。クロったら何が不満なんだろ……また腹が立ってきた」
あんなに可愛いし頭も良くて、おまけに気遣いまでバッチリなんだよ? 前世の俺だったら無条件で飛び込むだろう、きっと。縦ロールだって見慣れたら最高。
「夜光花を見せて貰いました。他にも沢山助けてくれて」
「うんうん。アリス様にも恩返ししないとだね」
「はい」
そんな事を話していると、かなり小さめの門が見えて来た。通常使うものじゃ無く、内緒だったり騒がれない様に利用するらしい。とは言え人は居るし、賑やかでもある。可愛らしい白色に塗装された門だ。
だから何人かの竜鱗騎士、シクスのおっさん、そしてツェイスがいても人集りまでは出来てない。
「ツェイス殿下。コーシクス様も……態々ありがとうございます」
「もっと滞在して貰いたいが、仕方が無い。ジルにも待つ人がいるだろうからな」
そう言いながらもツェイスは見事な笑顔を見せる。くっ、最後までイケメンだな! ターニャちゃん、見ちゃ駄目! 視線を遮る様に間に入っておこう。
「おやおや、ジルも一人の女なんだなぁ」
「コーシクス様? 何ですか?」
「いや? 気にすんな」
「ジル、アートリスに帰ったら手紙を寄越してくれないか? 暫く会えないし、リュドミラも寂しがる。それと……結局手合わせが出来なかった。また時間が欲しい」
「あ、はい。光栄です」
そう言えばそうだったな。まあ、ほんの少し剣を合わせたから相当強くなってるのは分かったよ? 多分、手加減とか無理だろうなぁ。
「……今は誰もいない。他人行儀はやめてくれないか」
「殿下……」
「いや、余計な事だったな。気にしないでくれ」
ツェイスも今回の事で色々考えたんだろうな。やっぱりミケルの馬鹿をもっと蹴飛ばしとくんだった。ツェイスもシクスのおっさんも大好きだよ? でも……難しいね。
その後も話したけど、余り記憶に残ってない。
まあツェイスのイケメンオーラからターニャちゃんを守るのに必死だったし? くっ……手強い恋敵がこんなところにいたなんて!
「それでは、そろそろ失礼します。殿下、お健やかに」
「ああ」
「コーシクス様、またお会いしましょう」
「おう。エピカ達にもな」
「あ、は、はい」
エピカさんかぁ……あんなに可愛いのに、寒気が……
「ターニャちゃん、行こう」
「はい。それでは失礼致します」
綺麗な姿勢でキチンと挨拶するターニャちゃん、流石です。
でも、何かを忘れてる気がするんだよなぁ。何だっけ?
先に馬車に乗るターニャちゃんの丸いお尻を眺めながら頭を捻る。うーむ……あっ! 思い出した‼︎
サンデルの何とかって変態武器を回収してないぞ⁉︎
くっ、せめてポキッとおっておけば……残念。
○ ○ ○
「キルデベルト殿、どうされました?」
ツェツエ王国の三大公爵家の一つ、テレドア公から任命された外務卿直轄の高官が問う。現在全霊をかけてお世話している特使が突然立ち止まり、暫く身動きすらしなかったからだ。
特使の目的は貿易と魔物対策の協議。更に古竜などの超越した生物に対する対応の合意だ。勿論決定権はなく、議題を国に持ち帰るのが任務。今後何度か来国する事になるだろう相手に、高官は気を張っていた。
名をキルデベルト=コトと言う。祖国で比較的名家の一つに数えられるコト家の次男で、この大役を仰せつかったらしい。
年齢は驚くべき事に36歳と若く、いかに有能かを物語っていた。ベージュブラウンの髪をピタリと頭に撫で付け、額を顕にしている。身長、背格好共に平凡だが、何度かの交渉で明晰な頭脳は明らかだ。
現在は王都アーレを案内し、次の目的地へと向かうところだった。
どうやら街を出る為に並んでいる馬車の群れを眺めているようだ。しかし特に珍しい景色では無いし、そもそも特使には用など無いはずの場所だろう。
「キルデベルト殿?」
二度目の呼びかけにすら反応が鈍い。何やら不備でもあったのかと高官は緊張した。すると、ゆるゆると頭を振り、チラリと振り返って元に戻る。やはり何か気を取られているのだ。
「いや、申し訳ない。情け無い事に目を奪われてしまって」
「目を奪われる?」
緩やかな言葉に安堵しながら、高官は目を凝らす。そしてその意味も直ぐに分かった。
「ああ、成る程……確かに、それも仕方がありませんな。最近ではツェツエの女神やら、美の化身などと噂され、それを否定する気も起きません。初めて見る方は皆驚きますゆえ」
キルデベルトの視線の先、其処には馬車の乗ったまま列に並ぶ白金の髪を揺らす美しい女性と、寄り添う少女がいた。
「ツェツエの女神、ですか? あの方が?」
「ええ、有名ですよ。その名と名声ならば貴方様の御国にも届いているのでは? 冒険者にして、最強の呼び声高い魔剣。五人しかいない超級の中で女性は唯一人ですから」
「……ほう。魔剣、ですか」
「はい。名をジルと」
「ジル……」
まるで噛み締める様にキルデベルトは名を呟いた。
隣の少女に柔らかな笑顔を贈り、何やら話している。それは、見ているだけで此方まで幸せになる表情だ。
「我がツェツエが危機に陥った西部の遺跡からの"魔物溢れ"は約6年前。そこで他の追随を許さない活躍を見せ、何よりツェイス王子殿下の御命を救ってくださった、我が王国の恩人でもあります。他にも逸話は数多いですな。今はアートリスに居を構えていると」
「アートリス、確かツェツエ王国第二の都市ですね。6年前……つかぬ事を聞きますが、あの女性はツェツエ出身ですか?」
「ははは、流石特使殿だ。ご明察の通り、約8年前に流れてきたらしいと聞いております。ただ、現在は我が王家の覚えも目出たく、ここ数日も騎士団の特別講師として来城致しました。それと、此れは暗黙の事実ですが……ツェイス殿下と深い仲で」
他国に渡すつもりなどないし、高官は余計な手を出すなと警告の意味を含めた。王子殿下の名を出せば、おいそれと接触すら出来ない。下手をしたら戦争の火種になる。それ程の者が超級であり、王家との関係だ。
だが、これは全くの逆効果で、寧ろキルデベルトの瞳に力が篭った。それに負の側面は無かったが、張り詰めた空気が漂う。
「王子殿下と深い仲、8年前……」
「とは言え余り公言はなさいませぬ様お願いします。お若い二人の事で御座いますから、ハッハッハ!」
冷やかしの笑いを無視し、もう一度ジルを眺める。そして誰にも聞こえない小さな声で呟いた。
「本当に、本当に大きく美しくなられた……何よりあの顔。お母様に、シャルカ様に益々似て……そして水色の瞳はそのままに、ジルヴァーナ様」
今すぐ走り寄り、そして声を掛け、逃げ出さないよう捕まえたい。しかし、少女の頃より知るキルデベルトは無理矢理に自制した。産まれてからすぐ非凡な魔法の才を見せ、何より逃げ足がとんでもない。毎日の様に行方を眩ませる過去が昨日の様に感じる。体制を整えなければ……
だから、溢れる万感の思い、それが言葉に乗ったのだ。僅かな涙すら浮かんでいる程に。
それを見た高官は怪訝な顔をしたが、指摘出来る様子はカケラも無かった。次いで聞こえて来た声に気を取られたのもある。
「申し訳ないが、街は後日にしたいと思います。それと、魔素通信を拝借したい。至急に」
「魔素通信ですか? それは、専用の物を用意しておりますから大丈夫ですが……」
「お願いします」
有無を言わせない迫力が伝わり、思わず高官は頷く。
「しかし、貴方様の大陸まで経由地が7つ。届くのは随分先かと思いますぞ?」
「構いません」
「は、はあ」
釈然としないが、かの国の特使の願いを聞き入れるしかなかった。王陛下より最大限の便宜を図る様にと通達も出ているのだ。
「我が国の魔素通信は現在開かれていますので、数日の短縮が可能でしょう。確認が必要ですか?」
「いやいや! 偉大なるバンバルボア帝国の通信網を疑う気など御座いません! 直ぐに準備致します!」
そう言うと、駆け足でキルデベルトの元から立ち去る。それを見送ると、離れて追随していた者達へ合図を送った。
冷静に命令を下すため、それでも先程と同じ想いが篭る。
「皆、分かっているな? 至急伝えなければならない。アレから8年、数少ないお手紙から生きておられるのは分かっていたが……」
その声に全員が深く頷いた。
そして、キルデベルトの唇は震える。
永らく輝きが失われていたが……"シャルカ様の帝国宝珠"が、"貴き水色の宝石"が見つかった。その光はツェツエ王国第二の都市アートリスに在る、と。
アーレ編終わります。
次章の投稿まで暫くかかりますが、頑張って書いていくつもりです。間話的な話を今週中に一話出せればと。
それと、モチベになるので感想やコメント、出来れば評価など頂けると嬉しいです。




