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TSお姉様、TS女の子で遊ぶはずが反撃されて赤面プルプルする話  作者: きつね雨
第二章〜王都アーレ=ツェイベルン〜
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TSお姉様、王都を揺らす

 




「アンタ、全部知ってるでしょ?」


 瞳は炎を纏うように紅く輝き揺れている。しかしツェツエ屈指の戦闘力を誇る紅炎騎士団長に睨まれても、皺一つないメイド服姿の女性に動揺はなかった。


「何でしょうか?」


「とぼけないで! 分かってるんだからね!」


 奥まった場所にある一室、メイド達の休憩所に三人の姿はあった。伯爵家の令嬢を通すには不似合いだが、そもそものタチアナも侯爵家の娘だ。アリスにも不満はない。其れどころか、此処が選ばれた理由も理解出来る。


「此処だから良いですが、声を荒げるのはやめて下さい。防音も完全とは言えません」


 メイド達の休憩室は彼女達の社交場を兼ねている。はっきり言えば噂話の飛び交う戦場。ツェツエ城内の情報ならば此処に必ず届くのだ。アートリスの拡声器、マリシュカも流石に勝てないだろう。つまり、かなりの密室性を誇る。防音の改造更新は歴代のメイド長が暗黙の内に行うのが通例だ。


「誤魔化されないから! ジルとの今日の予定が中止になった事よ。さっき紅炎に連絡が来たわ」


 今日の夜は訓練して、二人で色々と会話を楽しむ予定だったのだ。その後にツェイスへとジルを預け、こっそりと観察する予定だったのに! 殿下とジルの逢瀬も堪らなく興味があるが、何より美しくも優しい魔剣との時間を待ち望んでいた。其れが中止になった訳だが、事の根幹にタチアナが居ると分かったからこその怒りだった。


「……流石クロエ様ですね。其処までお解りならば、何が起きているかも理解されているでしょう」


「本気なの? ジルが可哀想じゃない!」


「全ては私の判断です。ジル様に、いえ……殿下にも許されるとは思っておりません。どの様な罰も受け入れます」


「何て馬鹿な事を……」


 二人の会話の意味するところが分からず、アリスは少し混乱する。ターニャの事を早く伝えたいが、張り詰めた空気に気圧されて唇は動かなかった。


「アリス様も此方に来られた以上、隠し立ては失礼になるでしょう。エーヴ家としてお詫び致します」


 メイド服に隠された柔らかな双丘の真ん中に手を当て、タチアナは詫びる。


 ジーミュタス家からすれば、顔に泥を塗られるに等しい。ジル達が健やかに時を過ごす事が世話役に課せられた使命だ。其れを邪魔されては怒りを溜めても仕方がない。


「タ、タチアナ様。おやめ下さい!」


 だが、当のアリスにはさっぱり分からない。だから困惑ばかりが募る。


「チルダ公爵家は長らくツェツエを支えて来ました。その功績は燦々と輝く宝。しかし、最近の横暴には許し難いものが多い。そして、ミケルは越えてはならない線を踏みにじったのです。忠誠を捧げるべき王家に恨みを抱くなど不遜の極み……でも其処に劇薬が現れました。誰よりも美しく、何よりも強大で、全てを包み込むツェツエの女神が」


「ジル様……」


「その通りです。アリス様」


 タチアナの真っ直ぐな視線に貫かれ、大公爵たるチルダ家の後継ぎを敬称抜きにした事を指摘出来ない。女癖が悪いのは有名だが、貴族にはありがちでもある。


「あの変態(ミケル)はどうなってもいいけど、ジルに何かあったらどうするの? アンタ一人の責任じゃ、釣り合わないでしょ」


「仰る通りです。ですから先程言いました、エーヴ家としてと。無論それすらも霞むのがジル様ですが……逆にお聞きします。ミケル如きが女神をどうにか出来るとお考えですか?」


「それは……そうだけど。ディミトリ侯も知ってるの?」


「はい」


「……タチアナ、恐ろしいことを考えるわね……」


 悪戯が過ぎたミケルは触れてはならない魔剣に近づく。当然ジルに敵わない阿呆な奴は痛い目に遭うだろう。悪趣味が過ぎると責めるつもりだっだが、クロエの想像の上をいっていた。痛い目どころか、ミケルを再起不能にするつもりだ。ようは魔王や古竜に単身挑む様なもの。


 タチアナの王家への忠誠は理解していたつもりだったが、足りなかったようだ。この眼鏡姿の才女は自らを悪役に落としてでもミケルを許しはしないのだろう。クロエはミケルにご愁傷様と内心呟いた。まあ、同情など全く無いけれど。


「クロエ様、寧ろ恐ろしいのはジル様の逆鱗です。あの方ならば心を制御して頂けると思いますが……ミケルどころか周囲に被害が拡がる事を心配しなければ」


「何処に連れてかれたの?」


「ルクレー家の別邸です」


「はぁ⁉︎ 思いっ切り街中じゃない! 昔を忘れたの⁉︎」


 下手をしたら王都に被害が及ぶ。クロエが驚くのも当然だった。魔剣がマジギレしたあの日、美しい草原は焼け野原になってオマケに地形まで変わったのだ。


「既に避難は進めています。一応の保険も別邸には派遣済ですし、何より以前のジル様ではありません。クロエ様も感じられたのでは?」


「……確かに随分と柔らかくなってた。本人に自覚はないだろうけど、超級としての圧力も薄れて……いえ、抑える術を身に付けたのかな。アートリスで何か変化があったのかも」


「はい。あの方は名実共に女神、美しい大人の女性となりました。次期王妃として私から伝える事などない程に」


 以前のジルを知らないが為に、アリスは二人の万感の思いを察する事が出来ない。しかし何やら裏で色々と動いているのは分かったが、肝心のターニャの話題が出ないのだ。失礼と知りながらも口を開こうとした時、タチアナが続いて言う。


「ですから、余程の事が無い限り、ジル様は冷静に判断して頂けると信じています」


「むぅ……後でちゃんと謝りなさいよ? "演算"だって全てを見通せる訳じゃないし、私も付き合うから」


 結局折れて、オマケに謝罪にも付き合うと話すクロエに、タチアナは感動すら覚えてしまう。身分すら超えて紅炎騎士団長は人生を掛けた友人となるだろう。


「はい。ありがとうございます」


「あ、あの。よろしいでしょうか?」


 漸く思い切ったアリスの声が部屋に響いた。


「申し訳ありません、二人で長々と。ジーミュタス家に責任など皆無、全てはエーヴ家が仕掛けた事。アリス様には御心労をお掛けして……」


 世話役のジーミュタス、ひいてはアリスに迷惑を掛けたと再び謝罪するタチアナだが、当のアリスには理解不能だ。


「いえ、そうではなく……ジル様にお伝えしたい事があって」


「……お聞き頂いた通り、ジル様は今此方にいません」


 魔剣が連れ去られた事を抗議に来たと考えていたタチアナは一瞬だけ混乱した。


「そんな! で、では、御二方でも構いませんわ! どうかターニャさんを助けて下さいませ!」


 まるで代わりだと言わんばかりで失礼な言葉になったが、アリスは止まらなかった。どうお叱りを受けようとも、あの可愛らしいターニャを救いたい一心だ。何よりジルの妹であり、自身も友達なのだから。


「ターニャ、さん?」


 二人は怪訝な顔色になった。特にクロエはよく分かっておらず、首を傾げる仕草を隠さない。しかし、タチアナは違った。先程まで飄々と返していたエーヴ家の三女だっだが、顔色が悪くなったようだ。


「詳しくお話し頂けますか?」


 何とか冷静さを保ち、唇に言葉を乗せた。


「実は先程……」


 そうして事の次第を聞いたタチアナの顔色は益々悪化する。


「なに? 何なのよ?」


 最近少女を引き取ったのは知っていたクロエだが、余り詳しくない。今日の夜に色々聞くつもりだった。


 そして……自らの才能(タレント)、演算が答えを間違えたとタチアナは知った。過去に何度か経験はあったが、此処まで狂うとは予想外に過ぎる。


「非常に拙いかもしれません。私もその娘に会った訳ではないですが、エーヴで集めた情報通りだと……アリス様はターニャさんを知っていますよね? ジル様は本当の妹の様に溺愛していると聞きましたが」


「はい、それはもう。片時も離れたくないとジル様は想っていますわ。私も嫉妬するほどです。ですから急ぎお伝えしたくて……きっと何かの手違いで……ま、まさか」


 心配事を相談出来たことで、アリスの頭も回転を始めた。そして全ては仕組まれた事だと理解する。先程は意味が分からなかったミケルの話も全てが繋がったのだ。


「大変……避難を急がせないと」


「つまり……」


「クロエ様……ミケルは触れてはいけない逆鱗に、魔剣の怒りに……」


 先程クロエは言った、アートリスで何か変化があったのかもと。その変化こそが保護された少女である事は確実だ。誰にも、ツェツエの王子にすら靡かない魔剣が唯一その手に掴んだ女の子……ジルに自覚はないだろうが、王家に少なくない激震が走った程の。


 そうタチアナが思考したとき、部屋が揺れた。


 いや、違う。


 街が、王都が、大地と空気が震えたのだ。


「ヤバ……タチアナ、あっちの方角で魔力が暴れてるんだけど! 大きくは無いけど、この距離で感知出来るなんて……純度が違い過ぎる!」


 騎士として直ぐに魔素感知を行ったクロエも真っ青になる。


「間違いなく、ルクレーの別邸がある方角です」


 続いて何回かの破砕音が届き、何かが起きた事を報せて来た。恐らく、いや間違いなく攻性の魔法だろう。魔使い最強の"魔狂い"すら慄いた、純粋で膨大な魔力が世界を揺らしたのだ。


「あの馬鹿! アーレが消えちゃう! 先に行くわよ!」


 クロエは鍛えられた俊敏な肉体を駆使して、走り去って行く。タチアナもアリスを伴い動き出した。こうなっては普通の騎士達では止められない。超級を止める事が出来るのは同じ超級か、ツェツエが誇る剣神しかいないだろう。


「いえ、殿下にお伝えしましょう。保険は効かなかったか間に合わなかったのかもしれない」


 ()()()()()()()()()()()の騎士となったツェイスならば……


 演算はこの様な現実を示唆しなかった。才能を驕り、全ては自身が招いた結果だ。押し潰されそうな不安を抑え付け、二人は足早に立ち去って行った。






 ○ ○ ○





「殿下、本当に申し訳ありません」


 クロエ同様に動き出していたツェイスにタチアナは頭を下げた。全てを明かすべく、説明を尽くすつもりだった彼女にツェイスは怒りを溜めてはいない。


「……タチアナが何を考えたか想像はつく。詳しくは後で聞こう」


 紫紺の瞳に動揺は見えなかった。


「はい」


「ミケル、馬鹿な事を。相手が何者かも分からないか」


 全てを察したツェイスだが、決して感情は表に出さない。しかし、愛する女性を連れ去られて心は穏やかな訳がないだろう。王子の怒りの矛先はミケルだが、同時に自身に罪があるとタチアナは唇を噛む。


「重ねてお詫びを。全ては私が勝手に決めた事です」


「今はよせ。ジルが何処にいるか分かるな?」


「はい。ご案内致します」


「アリス、世話役ご苦労。ジルも随分喜んでいた。其れと、此度の件にジーミュタスの責は無い。お前達の忠誠、何時も感じているぞ」


「も、勿体無い御言葉……父に、伯に必ずお伝え致します」


 アリスは現在の大変な状況も忘れて涙が溢れた。


「キミは帰るんだ。あの場所に近づくのは危険だからな」


「殿下……お気遣いに感謝します。ですが、今はわたくしがジーミュタスの名代。お供させて下さい」


 ツェイスはアリスの幼くも美しい瞳を暫し眺めて返す。


「分かった。俺の側から離れるなよ」


「は、はい!」


「タチアナ、アリスと一緒に来い。詫びる暇があるなら講じた手を教えてくれ。()()はかけているのだろう?」


「はい」


 竜鱗騎士団の面々にツェイスは指示を出して、自らも馬を操るべく騎乗した。そして王城から走り去って行った。










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おわた
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