TSお姉様、ちょっと本気になる
うぅ……何でこんな事に……
シクスさんと戦うなら、模擬戦と云えど気が抜けないぞ。まともに剣で戦うなんて多分無理だし、かと言って定番の距離を取るのも今回は難しい。だって周りにギャラリーが居るし……種は分からないけど、魔力銀製の剣も普通に受け流すからなぁ。
そもそも戦ったのって何年も前だし、寧ろ剣技を指南された方だからね。
一応魔素操作の講義の一環だから、魔法で戦ってくれないかな? ほら、シクスさんだって分かってるよね?
「ん? 勿論分かってるさ。講義の内容は気にしないでいいぞ? なあ、お前ら!」
「勿論です!」
「剣神と魔剣か! 堪らないな!」
「全力でお願いします!」
「魔法と剣技の両方か……」
「才能は万能だろう?」
「確か蒼流のクロエリウスが使う魔力強化は、魔剣が本家だよな?」
「あれか……楽しみが増えたな」
「綺麗だな……」
「お前……」
分かってねぇ! て言うか態とだろ!
笑いを誤魔化してるのバレバレだからな⁉︎ こうなったら最後の良心のツェイスに……まともなのは殿下だけだ!
「全員距離を取れ。ジルが本気を出したら魔法の連発が当たり前だからな。オマケに魔力強化ならこの程度一瞬で詰められるぞ?」
ツェ、ツェイスさんや? 何してるのかな?
「ジル! 巻き添えは気にするな! 竜鱗にそんなヤワな奴はいないからな。大丈夫だ」
大丈夫じゃねぇよ!
味方がいない! うぅ、ターニャちゃんに慰めて欲しい。お風呂に入りたいよー。ターニャ成分が不足してプルプルしてしまうよ……
「ジル様、頑張って下さい!」
ん? おぉ? アレはリュドミラ様じゃん!
訓練場から離れては居るが、城の二階から応援してくれてるぞ! あの紫紺の瞳に見られている以上は頑張るしかないでしょう! だって可愛いもん!
手まで振ってくれてる! ミラちゃん可愛い!
仕方無い、やるか!
「うそぉ⁉︎」
ジルとしての演技も忘れて、思わず声を上げた。
態と時間差で作り出した大小の魔力弾を放ったが、シクスさんは簡単に避ける。まあそれは想定内だけど、隠蔽していた奴まで見切った上に、あの長剣で斬り裂いてくれました……お疲れ様です。
「そんな……剣で斬るなんて」
そのままにたった二歩で距離を消すと、シンプルな上段斬りを繰り出してくる。剣神は手数を増やす事も、先手も後手も満遍なく操る剣の申し子だけど、単純な一撃こそが恐ろしい。今回は模擬戦らしく見えてるから良かったけど、普通なら躱せないからね⁉︎
躱すために後側に流した身体を魔力強化で一気に前に押し出す。守りに入ったら押し切られるのは明らかだ。つまり、短時間でケリをつけるのが正しい! 皆の勉強とか、色々参考にして貰うとか、無理なんです!
「おっと」
ところが余裕の半身で俺の剣を流し、その回転を利用して回し蹴りが腹を襲う。無理矢理に剣を下げて、グリップとボンメルの間で何とか受けた。軽い蹴りに見えたのに、フワリと全身が浮く。剣神なのに足癖が悪いのも変わってないな!
強化は出来ない筈なのに、なんて威力だよ……
やっぱり帰りたい!
「女性のお腹を狙うなんて、シクス様酷すぎませんか?」
「ふざけんな。今魔素が動くのを感じたぞ? 絶対何かする気だっただろう」
周りには聞こえないだろうが、一応演技は続ける。ミケル様の目といい、どんな才能があるか分かったもんじゃ無いからね。
しかし、分かっていたけど強い。魔力弾を斬るなんて反則だろう……
「どうやったら魔力弾を斬れるんですか……属性も付与してないのに」
「内緒だ。お前が殿下の元へ来たら教えてやってもいい」
当たり前に返事はせず、瞬時に魔力強化。同時に距離を取って、視野を奪う為に炎壁を半円状に行使する。背後に構成しないのは俺の速度を超えられないからだ。
もう手段を選んでる場合じゃない。やっぱり接近戦をシクスさんとするのは疲れるし。
魔素感知を行い、相手の位置を特定。頭上に風魔法で繰った剣状の矢を用意する。合わせて気をそらせる為シクスさんの背後を地魔法で隆起させた。そのまま倒せば、岩の波が襲うのだ。
「なっ……」
するとさっきまで動かなかったのに、全力で炎壁に走り出した。薄い壁に見えるだろうが、アレは超高温の……
「おらぁ!」
掛声に似合わない美しい魔法が行使された。シクスさんが得意とする氷魔法だ。何本ものキラキラ光る氷柱を創り出すと、橋を架ける様に炎壁の上に落としていく。只の炎じゃないから即座に蒸発するが、それすらも上回る速度で柱は重なっていった。
「もうやだ……」
本気で帰りたい……
「そう言わずに付き合えよ!」
またまた距離を詰めて来たシクスさんは全く嬉しくない台詞を吐いた。どうせなら可愛い女の子に付き合ってって言って欲しかった……ダンディなおっさんに言われてもなぁ。
一段目の突きを見切り、右肩の上に抜く。そのまま剣を振ろうと思ったが、嫌な予感がしてグルリと上半身を捻った。案の定二段目の払いが通り抜け、僅かに魔力銀の服にキズが入る。相変わらず信じられない斬れ味だ。普通簡単に刃は通らないからね?
「今のを躱すか……初めて見せたのに」
まるで手品だけど、相手は剣神。別に吃驚はしない。2回目は自信ないけど! 多分一段目は魔法を使った囮だろう。魔素感知に掛からないよう隠蔽までされたヤツだ。勿論囮だからって無視したら終わりだけど。この辺が剣技馬鹿の"剣聖"と違うよな。まあ、アイツなら技だけで真似しそう。
次々と繰り出される長剣、時に混ざるフェイント。一応見えるけど、反撃の隙はないなぁ……って、あぶね⁉︎ 今のはヤバかった!
うひぃ……受け流すだけで折る事だって出来る魔力銀の剣なのに、シクスさんの細めの長剣に全く変化がないって……もうやだ!
兎に角、剣技にお付き合いしたくない。もういいよね?
「くっ!」
頭上に配置した風剣を落としながら、同時に短い突きを放つ。イチ、ニ、サン……お返しに風も隠してあげた。気配と読みだけで躱すのはとんでもないけど、もう此処は俺のフィールドだよ? 一度配置すれば幾らでも創り出せる。威力と速度だって変化させれば気が逸れる。相手が敏感であれば尚更だ。
それでも俺の剣は届かない。その分風剣が当たり始めたけど……
げっ……風剣も払った⁉︎
ほんとに帰りたいんだけど! うわぁ……段々当たらなくなってます……どうやったら見てない範囲までパリィ出来るんだよ……
「また強くなりやがって! 出鱈目な奴め!」
「そっくりそのセリフをお返しします!」
こっちは多分だけど転生のチート持ちなんだぞ? 天然でそれってどれだけだよ⁉︎
「仕方ねー……こうなったら」
まだ何かあんの? もうやめない?
「それまでだ!」
いきなり紫色の紫電が俺達の間を駆け抜け、僅かに身体が痺れる。戦闘中なだけに全方位に魔素感知していた筈だけど……行使を気付けなかった。
「殿下……」
「ツェイス……」
随分と近くにツェイスが居て、右手が上がっている。間違いなく雷魔法だけど、あんなの出来たっけ? 全く分からなかったぞ……タダでさえ速いのが雷魔法なのに、多分ターニャちゃんくらいしか見切れないんじゃ……
「二人とも、充分だ。それに模擬戦の域を超えてる上に皆の参考にならない。はっきり言えば、速すぎて全く見えないからな?」
いやいや、ツェイスは見えてたよね⁉︎
「少し遊び過ぎたか。ジル、またやろうな?」
「……出来れば遠慮したいです」
「流石ジルだ。此処で冗談が言えるなんてな」
本気ですけど?
「しかし勝てないか……分かってはいたが」
「シクス様……」
「くくく……何でお前が辛そうなんだ? 事実だろ?」
まあそうだけど……まだ奥の手がありそう。幾ら互いに本気じゃないと言っても、洒落にならない威力だし。やっぱりまともに剣で戦うのは無理だなぁ……さっきだって殆ど剣技を使ってないもん。結局魔法を主にしてくれたの分かってるからね?
「さあ、皆に解説してくれ。一応魔剣の講義だからな」
ツェイスはそう言うけどさ。なら最初からシクスさんと戦わせないでくれないかな⁉︎
「えっと、それでは……」
「ん……ジル、少し待て」
「殿下?」
羽織っていた厚い皮の上着をツェイスは俺に掛けた。あの? 暑いんですが?
「さっきので服が破れてるぞ? 下着と肌を皆に見せたいなら仕方無いが、正直目の毒だ」
「えっ……!」
視線を下げると、肩から胸に向かいペロリと捲れている。その下に付けていたブラの紐と、少しだけ下着も見えていた。魔力銀製だし、戦闘用だから実用的な形と色で色気は大した事ないけど。
マジでこの服を斬ったのか……まあまあのお気に入りなのに! よく見たらブラ紐がもう少しで千切れそうじゃねーか!
「し、失礼しました」
見上げると竜鱗の全員が顔を逸らしていた。
……間違いなく見ただろうなぁ。元男として分かるからな⁉︎
散々だよ……うぅ……
もうシクスさんとは戦いませんから!
「ふむ、少し休憩にするか。ジルも着替えて来い。もう模擬戦は無いから安心してくれ。皆、半刻だ!」
苦笑を隠さないツェイスが言葉にした事で、全員がぞろぞろと歩き出した。中には先程の戦いを議論したりして、熱気はそのまま。まあ、良かったのかな。
ん?
「うわぁ……またミケル様が見てるし……」
何か笑ってるし、失礼だけどキモい……魔素感知で分かるんだからな? 才能を変なことに使っちゃダメだぞ?
もしかして破れた服の下を見てたのかな……理解はするけど、バレたら視線くらい逸らそうね?
視覚系の才能って分かってるのになぁ。
仕方無くミケル様に視線を合わせて、何ですか?と疑問を乗せた。
するとニヤリと笑って立ち去って行く。
……だからキモいって!
「ジル? どうした?」
「いえ……ミケル様が此方を見ていらしたので」
「ミケルが?」
鋭い視線を背後に向けた。かなり胡乱な感じだ。もう去っていく背中しか見えないのに暫くツェイスは動かない。
「視力に関わる才能、ですよね?」
「ああ。よく分かるな」
此方に向き直ると、さっきの上着の前をしっかりと合わせてくれる。まるで大切な物を守る様に。この辺りを自然に出来るのはイケメンか王子様だからか! 昔の俺なら触る事も考えないよ……
「昨日少しだけお話を……チルダ公爵様の御子息だと」
「その通りだ。当初は動体視力の向上あたりと考えられたが、どうも空間把握に近いと最近分かった。戦闘時なら先読みのマウリツに似てるな」
「マウリツさん……空間把握……あの、簡単に明かしていいんですか?」
「構わない。本人もある程度喧伝しているし、竜鱗でも隠してない」
歩き出しながら、しかしツェイスの空気は張り詰めたままだ。周囲に人影も無くなったし、遠慮なく観察する。どうしたん?
「ツェイス? どうしたの?」
「……口説かれたか?」
ん?
「私が、だよね?」
「ああ」
まさか、ヤキモチですか⁉︎ さっきの雰囲気、少し緊張したのに! まあジルですから? 仕方無いなぁ。
「ちょっとだけかな?」
「当然断ったな?」
「うん」
「ならいい。ミケルには余り近づくな」
「近づく理由は無いけど、ツェイスに言われる事じゃないよね?」
「本気で言ってるのか?」
だって、友達だからって人付き合いまで決めるのはおかしいよ? ヤキモチなのは分かるけどさ。
「ツェイス、あのさ」
「ミケルは……いや、何でもない。早く着替えて戻って来てくれ」
そう言うと、ツェイスは足早に角を曲った。
何か恋愛系の物語みたいな流れになってない?
いやいや……そんな筈は……
焦れ焦れとか、ドロドロとかやめて欲しいんですが!
そもそも俺の嫁はターニャちゃんであって、最近ハーレムまで許された至高のTS女の子なんだぞ? リュドミラ様にクロエさん、縦ロールアリスちゃんにアートリスのソバカスが似合うリタさんも加えてだな。お姉様枠にパルメさんも控えているのだ!
因みにシクスさんの娘のエピカさんも可愛いが、あの人は色々とヤバいので遠慮しておこう。誘ったらホイホイ寄って来るのは目に見えるけど……ヤンデレ枠は苦手です。




