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TSお姉様、TS女の子で遊ぶはずが反撃されて赤面プルプルする話  作者: きつね雨
第二章〜王都アーレ=ツェイベルン〜
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☆TS女の子、勘違いする

久しぶりのターニャ視点です。

 



 薄っすらとある前世の記憶だと、今座っているベッドは現代日本と遜色ない。手入れもしっかりしてるのか、真っ白のシーツも清潔だし。


 街へ誘ってくれたけど、結局行かなかった。そんな気にならないのもあるし、長旅の疲れもあるのかもしれない。旅自体は凄く楽しかったのに不思議……な訳ないか。理由なんて分かりきってる。


 クロエリウスの話を聞いて、何時も側にいたお姉様がいないからだ。


 コロコロと表情が変わって毎日が楽しかった。弄り甲斐があったし、思った通りになる。あんなに綺麗な人が僕を気にかけて、些細な事に一喜一憂して……だから、こんな訳の分からない世界に来ても、身体が女の子になっても幸せだったんだ。


 馬鹿みたいだ……僕がコントロールしてるつもりだった。お馬鹿なお姉様で遊んで、笑ってたんだ。あの人は僕よりずっと大人で、包んでくれてたのに。


 クロエリウスの言う通りになったらどうしよう。


 僕一人で生きて行けるのか?


「子供、なんだな……僕は」


 ……ノック? 誰だ?


 身体を動かすのも億劫だ……でも出ないと。


「はい」


「ご機嫌よう。お時間よろしくて?」


「アリス様、勿論です。どうぞ」


 縦ロールお嬢様が何の用だろう? クロエリウスもいないのに。


「時間は取らせないですわ。扶翼するジーミュタス家として挨拶が疎かだったと反省しましたの。クロエリウス様、姉々様とはお話したのだけど、貴女……ターニャさんとは殆ど会話してなかったですから」


 どうぞと渡されたのは可愛らしいリボンで飾られた小包だった。多分お菓子かな……


「お気遣いありがとうございます。私はついて来ただけなので、此処までして頂くのは恐れ多いですね……あの、なにか?」


 アリスお嬢様が観察する様に僕を見ている。


「悲しそうな顔をしてますわ。何かありまして?」


 ドキリと胸が鳴った気がしたけど、きっと気のせいだ。


「そんな事は……」


「ターニャさん。貴女、歳の割にしっかりされてますわ。それは素晴らしい事ですけれど、我慢は良くありませんわよ?」


 女の子に心配されちゃったよ。そんなに分かり易いのかな。


「御心配ありがとうございます。でも、大丈夫ですから。こちらへどうぞ」


 立ちっぱなしも良くないし、とりあえず座って貰おう。あの執事さんは外かな?


「ありがとう。ターニャさん、当ててみましょうか? 姉々様……ジル様の事でしょう?」


「……どうしてですか?」


「最初は姉々様に嫉妬してましたから、あの方の為人ばかり気にしてましたわ。今は少し広く教えて貰いましたから、貴女の事も多少は知ってますのよ?」


「私の事をですか?」


 魔剣や勇者と比べれば、僕なんて付き人程度にしか見えないと思うけど。実際に何をする訳でもないから微妙だ。


「誰一人として人を近づけなかった魔剣、孤高の女冒険者が唯一迎え入れた女の子。最愛の妹だと公言まですれば噂にならない方がおかしいですわね。アートリスでは有名で、知らない者はいないと聞きました。態々公言したのは貴女を守る為でしょうけど、それでも大変珍しい事に間違いないですから」


 クロエリウスが言っていた事だろうか?


「あの……守る為とは、どういう意味でしょう?」


 お姉様が嬉しそうにあちこち紹介するのは知ってるけど……


「あら? 聞いてませんの?」


「はい」


「簡単です。貴女は魔剣の大切な妹、たったそれだけで大半の不埒者は手を出せないですわ。報復が恐ろし過ぎて割に合わないでしょうし……その怒りに触れた者の末路は良く知られている上、僅かに残る愚か者には姉々様が目を光らせれば危険は遠ざかる。爺から聞いた時、流石と唸りましたわ」


 ……やっぱり、なのか。アートリスの人達は皆が優しいとばかり思ってた。そうか、だからお姉様は最初にマリシュカさんに紹介したんだな。


「幸せ者ですわね……姉々様が貴女を見る時は何時も優しい眼差しですから。愛されているのですわ」


「クロさんにも同じ事を言われました」


「ふふ……ですから、私が羨ましく思うのは理解出来るのではなくて?」


「だから姉々様、ですか?」


「私はクロエリウス様を愛していますわ。姉々様はあの方を弟の様なものだと仰いました。ならばジル様は姉、それが正しいと分かったのです。ですから妹として姉々様の幸せを願っていますのよ?」


「幸せを……」


「ターニャさん、貴女は違うようですわね?」


 お姉様の幸せ。


 アリスお嬢様が言いたいのはクロエリウスが言った事だろう。確かに、僕は戸惑っている。この国の王子様と結婚してしまうかもと。あの人はどう思っているのだろう……よく考えたらお姉様は自分の事を余り喋らない。過去なんて殆どが他人から聞いた事ばかりだし、故郷も隠してるくらいだから。何時もお馬鹿な態度ばっかりで、気付かなかった。


「あの……宜しければ、アリスお嬢様がご存知のお姉、ジルさんの事を教えて下さいませんか? ツェイス殿下と色々あったと」


「又聞きになるけれど、よろしい?」


「はい。お願いします」


 アリスお嬢様はきっとこの話がしたかったのだろう。そんな気がする。


「お二人の出会いは六年前、後に"ツェツエの危機"と呼ばれる魔物達との戦いですわ」


 僕はアリスお嬢様が嬉しそうに、まるで見て来たかの様に話すのを黙って見ていた。












「つまり、身分の差……何よりツェツエの混乱を憂いて身を引いたのです。それを初めて聞いた時は余りの意地らしさに涙が出ましたわ。特に貴族の中には気が狂った様に反対した勢力もあったとか。それを知った姉々様は何も言わずにアートリスに帰ったのです」


 悲恋ですわ……そう呟くアリスお嬢様は本当に悲しそうだ。縦ロールに惑わされてたけど、きっと優しくて真っ直ぐな女の子なんだろう。


「そんな事があったんですね」


「大好きな男性を前にして、国を想い身を引く……どれだけ辛かったか。私は未来の妹として、姉々様の応援をする事に決めたのですわ」


「でも、反対している貴族も……あっ、すいません。貴族の皆様もいらっしゃると」


「ふふ……そうですわね。でも、応援している家もありますわ。私達ジーミュタス家以外にも、エーヴ侯爵家、紅炎のクロエ様、そして何より……偉大なるツェツエの光、リュドミラ王女殿下も」


「王女殿下も、ですか?」


「ええ。お会いするたび愛称である"ミラ"と呼ぶように願っているそうです。今日の日を随分楽しみにされていたと聞きましたわ」


 なんだ……みんな賛成なんだ……王子とお姉様の仲を。


「ターニャさん」


「はい」


「貴女は姉々様、ジルさんが好きかしら?」


 好き……か。


 多分、いや間違いなく好きなんだろう。だって、去って行くかもしれない現実に打ちのめされてるのだから。最初は一人になる恐怖だと思ってた。でも考えてみたら、お姉様が僕を何の援助もなく放り出す訳がない。きっと手を尽くして、心配なんて無いように準備してくれるはずだ。もしかしたら就職先だって斡旋してくれるかもしれない。


 マリシュカさん、パルメさん、市場の皆んな、それに冒険者ギルド。アートリスの人達と繋がりだって出来てる。いや、きっと最初からそのつもりだったんだ。万が一に僕が路頭に迷わないように……


「はい。大好きです」


「愛する人が離れて行くのは悲しくて、耐えるのも大変ですわ。でも、本当に愛しているなら、その方の幸せを願うのが正しい。そう思わなくって?」


「そう、ですね」


「貴女は強い人ですわ。私、尊敬します」


「そんな……」


「私達は姉妹みたいなもの……ふふ、素敵。我がジーミュタス家が貴女を扶翼します。安心なさって」


「ありがとうございます」


 クロエリウス、残念だけど……













「……お姉様」


 いつも通りのお姉様が居てホッとする。部屋に招き入れると、あちこちに目を配りウンウンと頷いている。言葉にしないけど、この部屋なら合格だと思ってるんだろう。過保護な姉そのものだ。


「いきなり一人にさせてごめんね? 不便はない?」


「よくして頂いてます。アリスお嬢様も先程……少しだけお話もしました。色々と教えて貰ったので、勉強になりましたから」


「そうなの?」


「お姉様、お仕事は?」


「さっき終わったよ? 今日は座学だから話してばかりで長くなっちゃった」


 確かに疲れてるみたいだな。まあそれでも綺麗だから笑うしか無いけど。髪の毛なんて宝石で出来てますと言われたら信じてしまう。


「そうですか……お疲れ様です。何か飲みますか?」


「ふふ、ありがとう。でも、この後すぐに行かないとだから……」


「この後、すぐ?」


「え? あ、うん」


「ご飯を一緒にするんだと思ってました」


「ごめんね。この国の王様から招待されてるから」


 王様……それなら仕方ないけど……


 でも、クロエリウスやアリスお嬢様の話を聞いた後だと改めて分かるな。だってこんな大きな国の王様からご飯の招待なんて普通じゃないし。僕もいつの間にか常識が変わってた。お姉様と一緒だと全部が違ってしまう。


「王様……では、ツェイス殿下も一緒なんですか?」


「そうだけど……ターニャちゃん?」


 やっぱり……もし近い将来別れる運命だとしても、今は僕のお姉様だよな?


「明日は、明日なら」


「明日の夜もリュドミラ王女殿下と約束があって」


「リュドミラ王女殿下……ツェイス殿下の?」


「妹で……」


 王様に王子様、そして王女様。まるで御伽話の主人公みたい。あぁ……お姉様って日本からの転生者で、チートな超級冒険者"魔剣"だもんな。文字通りの主人公、いやヒロインか。


「じゃあ明後日は?」


「えっと、その日はクロエ様……覚えてるかな、紅炎騎士団の団長さんで」


「覚えています。夜は一緒に過ごせないと?」


「もしかして何かあったの? 何か心配事あるならお姉さんに言ってみて?」


 しまった……でも……


「それは……お姉様が……」


「もしかして……誰か悪い奴がいたの!? クロに任せてたのに……大丈夫よ、私がやっつけてあげるから! クロもお仕置きよ!」


 違うから! この辺はやっぱりお姉様だな!


「ち、違うんです! クロさんは悪くなくて……悪い人がいたりでもありませんから」


「本当に? 私に心配させたりしたくないとか、無しだからね?」


「そうではなくて、心配なのはお姉様というか……」


「私?」


「あの……私に何か話さないといけない、そんな事はありませんか?」


「な、なにかな?」


「お姉様の本心、心の中です」


 もう全部が分かったんです。だから正直に……お姉様、言いづらそう。やっぱりアリスお嬢様の話の通り、我慢してるのかな。それともクロエリウスの考えてた、僕が足枷になってるなら……


「本当は大好きなのを、我慢してる……自分の強い願望や気持ちを隠してしまう、違いますか?」


「そ、そんな事は……」


 動揺してる。でも大丈夫だよ?


「私に気を使っているのなら……遠慮しないで下さい。私なら大丈夫ですから」


「えっ……? 大丈夫って……」


「お姉様の幸せを諦めないで欲しいんです」


「幸せ……」


 ツェイス殿下を知ってる訳じゃないけど、みんなの話を聞けば悪い人じゃないのは分かる。はっきり言わないとお姉様は決断してくれないかな……


「私はお姉様の意思に従います。だから……ツェイ」


「ターニャちゃん! もう言わなくていいよ。分かったから、私は幸せ者だね」


 僕も幸せ者でした。この世界に来て、貴女と最初に出会えたから……


「お姉様……お幸せに……」


 ゴーン……ゴーン……ゴーン……


「あっ……鐘の音……ごめん、ターニャちゃん、何か言った?」


「……いえ」


「そう? じゃ、また話そうね? 私、行かないと」


 ふふ……まるでウェディングベルだな。お姉様はシンデレラ、本心を明かして王子様のもとへ。


「はい。お姉様、行ってらっしゃい」


「ターニャちゃん、ありがとう!」


 着ていたのは魔力銀の服だったのだろう、まるで幻だったかのようにお姉様の姿は消えた。あの美しい魔素の流れをちゃんと見ておけば良かったな……もしかしたら二度と見れないかもしれないのに。


 嬉しそうだったな……


 少し疲れた……眠ろう……














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