TSお姉様 顔を覆う
エピィも成長したみたいだし、普通の子に戻って良かったなぁ。見つかったら何処までもくっついて離れなそうな、そんな危ない雰囲気を持ってたけど。あと、魔力強化が無かったら逃げるのも苦労する相手だったし。多分だけど、追跡系の才能とか持ってるんじゃないだろうか。
しかし"紅炎騎士団"に入団か……
んー。シクスさん曰く、剣の才は全く無いって話だったよな? それともあれから何かに目覚めたとか? 幾ら紅炎とは言え、剣の腕はある程度求められるはずだけど。正直な話、紅炎はあまり詳しく無いんだよなぁ。うーむ、クロエさんに聞いておけば良かったよ。
……あ。
もしかして、もしかしてだけど。エピィってアートリスに派遣されて来たメンバーの一人? さっき「また」って言ってたような?
確かドワーフお爺さんの話だと、若くて礼儀も習ってて、あと実力的には強く求めて無いって……
いやいや、幾ら何でも入団したばかりのピカピカな新人を選ぶだろうか? 一応他国の皇女を護衛する建前があるわけだし。まあ自分が言うのも何ですが。んー。
「……もしそうでも気にする必要ないかな。病的な感じも昔より消えてたし、顔馴染みなのは安心かも。うん、むしろ怪我とかしないよう気を配ってあげないと……シクスさんが心配しちゃう。ムフフ、仕方ないなぁ、お姉さんが守ってあげましょう」
何となくな不安も消えたし、少しお腹が空いた。お風呂にも入りたい。
「帰ってご飯作るの面倒だなぁ。何か食べに行く……いや、キルデの護衛依頼からそのままだし、余り気乗りしない……やっぱり適当に買って帰ろっと。市場も近いし」
市場のある地区は朝が一番忙しいけど、惣菜的な食べ物を並べる店が周りに多いのだ。此処から直ぐだから寄って行こう。
はぁ、ターニャちゃんの手料理が食べたい。
一緒にお風呂に入りたい!
◯ ◯ ◯
アートリスは巨大な街だから、実は市場が二つあったりする。
我が屋敷のある地区は所謂"高級住宅地"で、周辺にも美味しい食べ物屋さんとか、お洒落なショップだって沢山あるのだ。普段なんて凄く静かだし、歩いてる人も何となく空気感が違うような気がする、多分。
だけど、同じ近くにある市場付近は変わらず庶民的な環境で、朝なんてすっごく賑やかだ。ターニャちゃんも足繁く通う場所だから、新鮮な野菜やお肉だって手に入る。俺もあの雰囲気が好きだし、顔見知りも多い。
夜になると露店がたくさん出るから、とにかく明るいよね。ちょっとだけ夜店とかのお祭りみたいで、懐かしさも感じる。
今日は何にしようかなぁ。プロ級なターニャちゃんの料理には敵わないにしても、やっぱり美味しいものが食べたい。
「ジル!」
うん?
「こんばんは」
「依頼の帰りか? 夜遅くまで大変だな」
よくお世話になってる茶葉のお店だ。変わった珍しい種類も手に入れてくれるから、結構利用させて貰っている。現代日本と違ってパックされてるとかは無いから基本量り売りだね。
店先には沢山の色の付いた瓶が並び、種類豊富な茶葉が入っている。高級なモノは店内の棚に配置されてて、香りも漂って最高。浅煎り、深煎り、他にも一杯ある。試飲も出来たりするので、重宝させて貰ってます。店主のおじさんも良い人だしね。
「ビレモさんも、ご苦労様です」
「ははは、もう閉めるとこだが、遠くに見覚えのある姿が見えたからな。ほら、ジルみたいな美人に会えるなら疲れなんて気にならん」
「褒めても今日はダメですよ? 最近たくさん買ったばかりですから」
無駄遣いすると我が嫁が御機嫌斜めになるのだ!
「分かってるって。それでどうだ、あの茶葉は?」
「はい、ターニャちゃんも気に入ったみたいで良かったです。飲みやすいですし、朝には特に合いますね」
「そうかそうか! あのターニャのお眼鏡に適ったなら間違いないな!」
多分だけど、きっとお世辞じゃない。ターニャちゃんの目利きは既に有名で、市場周辺では意見を求められる事が多いらしいし。魔素感知の応用は多岐に渡り、戦闘以外なら俺より凄いのだ。全く分からないけど、真贋を見たり出来て、品定めにも使うって。うん、意味分かんない。
俺と一緒に歩いてるときはそんな話をしなくて、周りもふってこないから実際のところ知らないんだけど。お姉さん、ちょっと悲しい。
「ジル、少しいいか?」
「はい。何でしょう」
「そのターニャに伝言を頼みたいんだ。本当は直接伝えたいんだが……」
「伝言ですか?」
「例の品が入荷したってな。アレは足が早い商品だから……余り余裕もない。試すにしてもやっぱり時間が要る」
足が早い。傷みやすい商品ってことか。うーむ、困ったな。我が嫁ターニャちゃんは今、旅に出ているのだ。お母様に認められるため、子作りの技術を学ぶ為に。子作りされる側がジルなのは今でも納得出来てないが。どうせならターニャちゃんをプルプルさせたいです!
「ジル?」
「えっと、実は、事情で街を離れることになって……ターニャちゃんは暫く帰って来れないんです」
「ふむ、そうか……残念だが仕方ない。仕入れの時期は全く不明だったし、そもそも入荷の可能性も低かった」
うーむ、ターニャちゃんが忘れてた訳じゃないみたいだけど、せっかくの評判が悪くなるのも嫌だな。それに、ビレモさんの顔色が悪いのは、仕入れ値のこともあるだろう。うん、やっぱり此処はお姉さんの出番だね。
「良ければ事情を教えてくれませんか?」
「いや……そう言うわけにも、な」
ん? 言い辛い内容なのか? 何だかますます気になる。ターニャちゃんだし、悪いことじゃないと思うけど。
「何故です? 私に内緒ですか? まさか悪いことなら」
ターニャちゃんの秘密なんて……すっごい気になる!
「い、いや! 違うんだジル! キミには内緒にするよう言われてて……」
ほほう。それなら尚更逃がさないぜ! もしかしたらターニャちゃんの弱点に繋がるかもしれない。最近の我が嫁は手強いので、こっちも防御力アップが欠かせないのだ! いや、居ない間になんて卑怯だけども! だって仕方ないじゃん、ターニャちゃんってば色々とヤバいからさ。
さすがに俺の、超級冒険者の圧力には勝てないのか、ビレモさんは渋々喋り出した。ふむふむ、何ですかー?
「……次に会う時は味方してくれよ? ジルは西にある諸島連合って知ってる……ああ、だよな。その諸島連合で生産される珍品で、簡単に言うと薬草茶になる。とは言えかなり特殊な作用だから、仕入れも、何より扱いも難しいんだ。だがターニャならば大丈夫だろうし、彼女からも強く求められてな」
「諸島連合、薬草茶……」
ツェツエ王国より遥か西、小さな島々が連なった場所で、各島の代表が集まって構成された連合国だ。気候も成り立ちも元の世界の日本に似てたから、興味が惹かれて昔に行ったことがある。残念ながら日本とは似ても似つかずガッカリしたけど。ツェツエとは準友好国って感じで、凄く仲良しな訳でもない。まあ敵対もしてないけどね。
うーん、でも態々内緒にする理由にはならないよな。ビレモさんが関わってる以上、違法な商品でもないだろうし。
「この薬草茶は魔法に強く関わってて、長い間秘伝とされていたらしい。製法が特殊なせいで、明かされたあとも諸島連合の専売特許になってるがな。おまけに、淹れるとき魔力の影響を極力抑えないと、最悪の場合効果が変化してしまう非常に特殊な茶葉なんだ。あと、さっきも言ったが足も早い」
ふむ、魔力の影響を抑える、か。ターニャちゃんなら最適だな。寧ろ魔力自体を消し去って、最高のお茶の淹れ方を開発しそう。
「でも、何で私に内緒なんですか?」
やっぱり内緒にする意味が分かんない。
「ああ、そこなんだが……頼むからホント味方してくれよ? あの娘に嫌われたら商売あがったりだ」
「はい、もちろんです」
「市場の連中は知ってることだが、ターニャは何時もジルの為になるものを探していたよ。美味い食材、疲労回復に役立つもの……そして身体に良い薬と情報。危険な冒険者という仕事柄、何かあったときにってな。ジルは治癒魔法を使うし、何より有名な魔剣だ。気にし過ぎだって皆が言ってたが、万が一があったらと何時も心配していた。ただ、とにかく照れ屋なのか、絶対にジルには言わないで下さいと……な、分かるだろ?」
あー……
うぅ……ううぅ!
う、う、嬉しい‼︎ あと、幸せですっごく恥ずかしい‼︎
ターニャちゃん、ツンデレ最高すぎでしょう! 最高に可愛いじゃん! TSヒロインパワー限界突破かよ!
ああ、早く抱き締めて、一緒にお風呂に入って、何でも我が儘聞いちゃいたい! もう好きにして、まじで!
「……ル、ジル……聞いてるか? 見られちゃヤバいほど真っ赤だぞ。あと、両手で顔を隠してるつもりだろうが、全く隠れてない。そもそもプルプル震えてて最初からバレバレだが」
はっ! クールで超絶美人なジルのキャラが崩壊してしまう! お、落ち着け我が精神よ!
「だ、大丈夫です。ちょっとだけ吃驚して」
「はは、君たちはホント面白い姉妹だなあ。まあとにかくそんな訳で仕入れたのがそんな品ってことだ。事前に具体的な商談をしてないし、ターニャは何も悪くない。俺だって商売人としての欲目もあったしな」
「そうですか……事情は分かりました。その薬草茶、私が買い取ります。お幾らですか?」
「おいおい、さっきも言ったが気にするな。別にそんな意味で話したんじゃ……」
「はい、話してくださってありがとうございます。ターニャちゃんが私のことを想って探してたなら、私が手に入れる方が喜んでくれます、きっと。そう思いませんか? それと」
「それと?」
「私が頂いて証拠を隠滅しちゃいます。ターニャちゃんが帰って来るまで暫く掛かりますから。寧ろ売ってくれないなら、この口が滑るかもしれませんよ?」
「……ハハハ! 分かったよ、ジル! 君たちはやっぱり似た者姉妹だな!」
近い将来には結婚しますけどね! イチャイチャしまくりの!
「よし、じゃあ淹れ方と注意点を聞いてくれ。先ずは……」
はぁ、可愛い。可愛いよターニャちゃん。
やっぱり出逢ったのは運命だったんだよ。あの森で学ラン姿のターニャちゃんが居て、依頼を請けた俺が助けたのも。今や両想いになって、二人ともTSで、そんな壁も全部乗り越えて、子供だって作っちゃうんだから!
「大体これくらいかな……じゃあ、これがその薬草茶だ」
「あ、どうも。えっとお代金は?」
「おいおい、さっきも言っただろ。代金は……」
すいません、幸せすぎて聞いてませんでした!




