だいたいいつもハイテンション!!
美咲は初めは彼が何を言っているのか、正直わからなかった。
「今朝、この病院で女将さんと会った」
しかし、段々と理解が追いついてくるにつれて気持ちをかき乱されてくる。
「どうして……?」
冷静になってみれば、賢司にそんなことを訊いたところで無駄なのに。それでも訊ねずにはいられなかった。
「女将さんに連絡してみれば? まだ院内にいるんじゃないかな」
どうして院内に?
それもわからなかった。しかし今の美咲にはあれこれ考える余裕もない。
急いで病室を出て携帯電話を取りだし、里美の番号にかける。
『サキちゃん?』
「お母さん……どうして、どういうことなの?!」
『え?』
「旅館、閉めるって……!!」
『サキちゃん、今どこにいるの?』
「病院よ……賢司さんの病室に……」
『実は私ね、今、同じ病院にいるのよ』
美咲は急いで病室を飛び出した。
何も考えずに飛び出してきたのに、すぐに里美は見つかった。
彼女は待合室のベンチに腰かけてボンヤリしている。
「サキちゃん……」
いつも弱々しい微笑みを見せる彼女は、何もかもあきらめたかのような、憑き物が落ちたかのような表情をしているように見えた。
「どうして?」
それには二重の意味があった。
なぜ、ここにいるのか。
なぜ、旅館を閉めることになったのか。
「社長がね……昨夜、胸が苦しいってここに運ばれてきたのよ。さっきお医者様から聞いた話だと、心筋梗塞らしいわ。処置が早かったから命は助かったみたいだけど、しばらくは入院しなければいけないみたい」
どうせいつか、そんなことになるだろうと思っていた。あの不健康そうな体型を見ていればすぐにわかる。
「それよりも、旅館の方は……!!」
里美は物憂げに顔を上げると、
「まだ、はっきりとは決めていないけれど……いずれはそうなると思うわ」
「どうして?! そんな、私は……!!」
上手く言葉がまとまらない。
頭が混乱している。
ふっ、と甘いバラの香りがした。
抱きしめられたのだとわかる。
「ごめんね、サキちゃん。ごめんなさい……!!」
何も言えなくなってしまった。
※※※※※※※※※
今日は仕事がないから、出勤しないでくれ。
そんなこと言われても困る。
こっちだって生活がかかってるのよ……。ビアンカは溜め息をついた。
仲居の仕事はなかなか面白い。この頃、ようやく少し慣れてきた。
さて、どうしたものか。
先日少しだけ、女将と専務が話しているのを耳にした。
思った以上に経営状態が良くないと。
会計士に診てもらって一時的には持ち直したものの、やはり横領によって空いた穴は小さくなかった。
それに加えて、先日の事件である。
仲居の一人が殺害された。そういう一見何の関係もなさそうな事件が妙な噂話となって広まり『縁起が悪い』と、予約をキャンセルする客もいる。
日本人ってどうして、そういうものの考え方をするのかしら?
なんてことを考えていても仕方ない。働き口をもう一つ探さないと。
そう思って、ビアンカがネットを彷徨っている時だった。
スマホの着信音が鳴り響く。
美咲からだわ、とビアンカは呟いて通話を押す。
「はぁい、美咲!」
しかし、なかなか彼女は話し出さない。
「美咲……? どうしたのよ」
もしかして泣いている?
まさか、彼女も閉館の噂を耳にしたのではないだろうか。
「今どこにいるの? すぐに行くから、そこを動かないで! いいわね?!」
ビアンカは急いで部屋着を脱ぎ捨て、服を着替えた。




