絶対、こういう展開になるって予測していた人は手を挙げて!!
『火事だ』の声に、集まっていた島民達は我先にと逃げ出していく。
正確には火事ではない。
閃光弾が部屋の中に投げ込まれただけだ。
そのことを知っている和泉は駿河の手をつかみ、外に出た。
幸いなことに誰も邪魔をする者はいなかった。
先ほどの白髪頭の男も、既に姿を消していた。
走って本館のロビーに向かう。
しかし。
途中で、2人の前に例の畑男が鎌を手に立ちはだかった。
「立ち去れ! 二度とここには来るな!!」
「そういう訳にはいきませんよ。あなた方の間で施行されている不文律は、我々にとって何の拘束力も持たない。斉木が何者だろうが、法を犯した者を放っておくわけにはいかない……」
ぶんっ!!
無言の内に畑男が鎌を振り上げると、柄の部分から刃が抜け、それは和泉の肩の約3ミリほどの距離をかすめて背後の壁に突き刺さった。
さすがの和泉も全身がぞくっとあわ立った。
武器がもはや意味をなさないことを悟った畑男は、舌打ちしてこちらに背を向けた。
「葵ちゃん!!」
凶器がなくなったことで、2人とも少し油断していたのは確かだ。
山男を拘束しようとした駿河だが、逆に腕を取られ、地面の上に叩きつけられてしまう。
和泉は持っていた警棒を構え、こちらを向いた山男と対峙した。
「逃げるなら今の内ですよ? 残念ながら公務ではありませんのでね。それとも、いっそのこといろいろと本当のところを打ち明けますか?」
畑男はフン、と鼻を鳴らした。答えるつもりはないらしい。
「この旅館の女将は……既に亡くなっていますね? その事実を隠す為にきっと、いろいろと工作をしたはずだ。詳しいことを話してくだされば……とりあえず大麻のことは黙っておいてもいいでしょう。あれはうちの管轄外なんでね」
口から出まかせを述べながら、和泉は少しづつ相手との間合いを詰めて行く。
ひゅん、と再び矢の射られる音。
今度は鼻先をかすめて壁に突き刺さる。
その一瞬の隙をつかれた。
和泉は畑男の体当たりを喰らい、草土の上に背中をつけてしまった。
畑男がのしかかってきて、和泉の首に手をかけてくる。
意外なほどの強い力だった。
このままではマズい……!!
逃れようと、和泉がどうにか膝を曲げた時だった。
ぐぅっ、とうめき声と共に畑男が覆いかぶさってきた。気持ち悪い。
しかし、相手の力も殺気もすっかり抜けた。
和泉は畑男を押し退け、急いで起き上がる。
先ほどの閃光弾といい、誰かが応援にきてくれたようだ。
まぁだいたい想像はつくが。
「情けないわね、まったく」
やっぱりか。
「助かりました、北条警視。ありがとうございます」
駿河は大丈夫だろうか?
彼は何の問題もなかったようで、起き上がっていつもの無表情をしている。
そして。北条の部下の一人が、一人の男性を拘束していた。
おそらく木の陰から何度も矢を放って来た人間だろう。
「ほんと、世話が焼けるわねぇ」
北条の台詞にムっとした和泉は思わず、
「別に、応援を頼むつもりではいましたけど……」
「けど?」
「わざわざ、特殊捜査班にお出ましいただくほどのことじゃなかったと思います」
「あら。相手は素人、民間人よ? 怪我人を出さずに大人しくさせる方法なんて、その辺の地域課員じゃ無理だわ」
返す言葉を失った和泉は、黙っていることにした。
「さぁ~、それじゃ。斉木を署っ引くとするかしら? どうせこのオジさん達はダンマリを決め込むことでしょうし」
と言いつつ、既に部下達に斉木を確保し、連行する手配を済ませているに違いない。
「……ねぇ、オジさん」
北条は地面に座り込んでいる畑男に話しかけた。
「あんた達が必死に守ろうとしているボスだけどね……言っておくけど、いざとなったらどうせ知らん顔よ?」
すると。
「……そんなことは、初めから承知の上だ」
突然、山男はポケットに手をつっこみ、何かを取り出した。
それと同時に、北条が爪先で山男の手を蹴り上げる。
ころころ、と地面に落ちたのはおそらく、毒物を包んだカプセル……。
「ダメよ? この子の前で自殺なんかしちゃ……」
ザンバラ髪の隙間から男の眼がちらりと見えた。赤く充血した双眸が、こちらを睨みつける。
ところがその時。
「……?!」
突然、北条があらぬ方向に目を向けた。
どうしましたか、と和泉が訊きかけたその時だった。
「……北条警視?」
北条が無言の内に突然走り出す。
和泉も後を追いかける。
この人は異様に聴覚が優れている。
おそらく本館の中であろう場所で起きた、異様な音に気付いたに違いない。
その時、携帯電話が鳴りだした。父からだ。
『彰彦?! どうしたんだ、何があった!!』
「緊急事態です!! 詳しくは、そっちに戻ってから改めて報こ……」
電話は突然、北条の手によって取り上げられた。
「あ、聡ちゃん? アタシよ。今、宮島なんだけどね。いろいろトラブルがあったのよ。詳しいことはそっちに帰ってから話すわ。それじゃ後で!!」
走りながら通話をするという、器用な真似をしつつ、彼は本館へ和泉よりも先に到着した。
その背中を追うのは、昔も今も同じか……。
和泉は少しばかり苦笑しつつ、彼のすぐあとに従った。




