集団心理ってマジで怖いよね
和泉は急いで服を着替えた。駿河も同様である。
カバンから特殊警棒を取り出し、身構える。
敵は何人いるだろう? 和泉はじっと耳を済ませた。
話し声が聞こえる。
特別な訓練を受けた玄人だろうか。
あるいは。もしも、ただの島民達だったとしたら?
「葵ちゃん、とにかく自分の身を守ることだけ考えて。それから余裕があったら、応援を呼ぼう」
この部屋は離れだ。おそらく囲まれている。
他の宿泊客達と同じ館内にいれば、もしかしたら不審に思った他の客が通報してくれるかもしれない。だが、この部屋ではそれも望めない。
再び、弓矢を射る音。
和泉はそれを警棒で打ち落とした。
ドンドン、と扉を乱暴に叩く音が響く。そして何やらガヤガヤと話し声。
和泉は咄嗟に携帯電話を取り出し、聡介に連絡した。
『彰彦? どうした』
「困ったことになりました。実は……」
と、言っている傍から突然、ドアが開けられ、襖が開いた。
先日、畑で見かけた男だ。便宜上【畑男】と称しておこう。
そして、そのまわりにはそれぞれ武器を手にした、同じような年代の男性が2人。
「……あなた方はいったい?」
和泉は手にした警棒を見せないよう、背中に隠しつつ問いかけた。
「他所者は出ていけ!!」
ほうじゃ、と連れの2人が唱和する。
「そう言われてもね……」
「何を探りに来たんか知らんが、とっとと出て行け!!」
山男はいつかと同じように手に鎌を持っている。他の2人はそれぞれ鉄パイプ、金属バットを手にしていた。
『どうした?! 何があった?!』
電話の向こうで聡介の声がする。
「聡さん、応援……!!」
金属バットの方が襲いかかってきた。和泉は咄嗟に攻撃をかわし、すれ違いざま相手の背中に警棒を叩きつけた。もちろん手加減して。
バランスを崩した島民の一人は、一度布団の上に倒れこんだ。
再度、矢が飛んでくる。
「和泉さん!!」
駿河の声に反応した和泉は、ギリギリでそれをかわすことができた。
「サンキュー、葵ちゃん」
彼は無言で頷き、警棒を構える。
民間人相手に3対2ならまだなんとかなる。
しかし、そんな甘い話ではなかった。
畑男が無言のうちに障子と雨戸を開ける。
ざっと数えただけでおよそ20人はいるだろう。
驚いたことに、全員が手に何かしら武器のようなものを持って、この離れを取り囲んでいる。
暗がりの中、松明だろうか、ぼんやりとした灯りが漁火のように点々と視界に入る。
誰かが大きな声を挙げた。
それに呼応し、おーっ!! という叫び声。
なんだこれは。
少し、敵を甘く見過ぎていたかもしれない……。
とにかく、駿河だけでも逃がして交番に駆け込んでもらおう。
そこから本部に連絡が行けば、和泉はそう考えていた。
しかし。まるでこちらの考えを読みとったかのように、駿河は和泉の傍にぴったりとついて防御の姿勢をとっている。
自分も共に闘う、とそう言いたいらしい。
島民達は無言のままこちらを睨んでいる。
それでも彼らから敵意や、微かな怯え、戸惑いを感じ取ることはできた。
彼らはいったい、斉木晃からどういう情報を吹きこまれているのだろう?
拳銃を持ってくればよかった。
空砲でも、彼らを蹴散らすには充分だろう。
だが。タチの悪いことに、烏合の衆かと思いきや、おそらく特別な訓練を受けたであろう男が1人混じっているようだ。
他の島民たちとは明らかに空気が違う。
ある程度は格闘技の経験があるか、もしくは何か特別な訓練を受けたことがあるに違いない。
長い白髪をうなじのところで一つにまとめ、サングラスをしている。
服の上からでも鍛え上げられた肉体が目立つ。
悪いが、駿河では手に余るだろう。
そう考えた和泉は、男の注意が自分に向くように挑発した。
そして。男はまるですべてを見透かしたかのように、挑発に乗ってきた。
武器になるようなものを何も所持していない。
男が拳を振り上げ、攻撃をしかけてくる。
和泉は警棒でそれを受け流し、身を低くして脛の部分を狙った。しかし。既にこちらの動きは読まれていたらしい。男は咄嗟に間合いを広げ、和泉の攻撃をかわしてしまった。
足元が悪い。畳も布団も、つるつるして滑りやすい。
どうにか足場を確保して……。
そう思った時だった。
突然、目の前に閃光が走った。
もくもくと煙が部屋全体を包む。
「火事だ!!」




