表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/303

なんでそんなこと聞いちゃったんだろうね

 風呂から上がって部屋に戻ると、既に布団が敷かれていた。

 それを見た途端に眠気が襲ってくる。


挿絵(By みてみん)


 起きていないと。

 こんな時、基本的に無口な男と一緒だと困ってしまう。


 どうでもいいおしゃべりに花を咲かせる相手なら、適当に聞き流しながらも【雑音】と脳が認識して、睡眠を妨げてくれる。


 仕方ない。ここは自分から話題を振るしかない。


「ねぇ、葵ちゃん」

 連れて来た相棒は黙ったままずっと、スマートフォンを眺めていた。


 彼のことだ。娯楽関連のサイトなどを見ていた訳ではなく、仕事関連の情報を集めていたに違いない。


 はい、と短い返事。


「……一つ、聞きたいんだけど……」

「なんでしょうか?」


 ふと思った。彼はきっと、厳格な父親に育てられたに違いない。

 そもそもお坊ちゃまだという話は聞いている。別に無理をしているとか、お堅い自分を演じている訳ではなく、それが【素】なのだろう。


 もし同じ班の仲間でなければ、自分とは一生縁のないタイプだっただろうと思う。


「やっぱり今でも、美咲さんのことが好き?」

 ぴく、と強い反応があった。


 彼はスマートフォンを畳の上に置き、こちらを真っ直ぐに見つめ返してきた。


「そんなことをお訊ねになって、どうなさるんですか?」

「どうもこうも、僕はただ……」


 ただ、なんだろう?


 彼の幸せを願っている?


 その気持ちに偽りはない。


 駿河は相変わらずの無表情、何を考えているのかわからない、感情のこもらない瞳でこちらを見つめてくる。


 そうかと思ったら、

「そうだ、と答えたら何か協力していただけるんですか?」

 いつにない刺々しい口調である。


 恐らく苛立っているのだろう。


 先ほど、あのおしゃべりで世話好きな元刑事が、余計なことを言ったからだ。などと和泉は胸の内で自分のことを棚上げしていた。


「……ごめん」

 他に言うことが見つからなかった。

 和泉はただ、それだけを口にした。


 もしかすると彼はまだ疑っているのかもしれない。

 

 かなり前だが、訊かれたことがある。

『美咲のことが好きなのか』と。


 もちろん、彼女に対して好感は抱いている。

 ただ、それは彼が危惧するのとはまた別の感情だ。


 彼女は亡くなった母を思い出させる。


 ほとんど記憶などないが、父と母、自分の3人家族で、幸せに暮らしていた頃のこと。


 父が亡くなり、母が幼かった自分を連れて苦労した思い出。


 滅多に愚痴を口にしたりする人ではなかった。


 母のために強くなろう。

 身も心も。


 できることなら、笑って欲しいから。


 そう決めたあの頃を思い出させてくれる……彼女はそういう意味で貴重な存在だった。


「……僕の方こそ、申し訳ありません……」

 駿河はやや俯き加減に、そう口にする。


「あのさ。こればっかりは本当にホントだよ? 僕が一番好きなのは周君だからね」

「……」

「美咲さんは周君の大切なお姉さんでしょ? だから、彼女のためなら何でもしてあげたいって思う訳。そうすれば周君が喜ぶ、イコール僕に感謝するでしょ? そうすれば好感度アップ間違いないじゃない」

 半信半疑と言ったところだろうか。


 実際、あの子に癒されたことは一度や二度じゃなかった。


 純粋で素直で疑うことを知らない。

 それは裏を返せば考えなし、とも言えるのかもしれないが。それはそれとして、そんな彼の真っ直ぐさが、ダイレクトに心に響いた。


 あの子のことは信じられる。聡介と同じぐらいに。


「ま、信じるか信じないかは葵ちゃんの勝手だけど」

 和泉はちらっと駿河の顔を見た。


 すると。

 彼は微笑んでいた。


 和泉は驚きに、思わず目を丸くしてしまう。


「……わかりました……和泉さんを、信じます」


 写真に撮っておけばよかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ