怪人20面相とまではいかないまでも
エレベーターがやってくる。
2人とも無言の内に乗り込んだ。
刑事部屋がある3階のボタンを押しつつ、北条はニヤリ、と意味深な笑顔を浮かべた。
「ねぇ、聡ちゃん。実は射撃の腕、県警内でもピカ一なんですってね? 明日あたり、アタシと一緒に射撃訓練に行かない? ライバルがいないと張り合いがないのよね~……」
「は、はい……考えておきます……」
明日あたり、ってそれどころじゃないんだが。
聡介は胸の内で呟いた。
「冗談なんかじゃないわよ。その内、必要になる可能性が高いわ」
「え……?」
「常に万が一の、危険に対する備えをしておけって、こと」
この隊長が何を考えているのかわからないが、のんびり構えている場合ではないということだけはよくわかった。
※※※※※※※※※
何年か前に改装工事を行ったという館内はやはり綺麗だ。
和泉は【大泉】という偽名で予約をしておいた。予約が入らなくて採算が取れない、という話は本当のようで、直近にも関わらずすぐに部屋は確保できた。
一応、身元がバレないように多少の変装をしている。
チェックイン開始の午後2時ぴったりを狙って到着した。
案内してくれた仲居は、思いきり不審そうな視線を隠そうともしなかった。それというのも男性の二人連れだからである。
部屋に到着すると、館内や食事についての案内と共に、お茶を淹れてもらった。
一度荷物を置いて、すぐに出かける予定だ。
今は日暮れが早い時期なので、明るい内に行動したい。
「行こうか」和泉は駿河に声をかけて、部屋の外に出る。
ふと、和泉は気になって旅館の裏側に回ってみた。
もし館内で麻薬の取引が行われているとしたら、どこだろうか? 当然だが、人目につかない場所だろう。
古い忍者屋敷のように仕掛け扉があったり、地下室があったりしないだろうか。
まさか、と苦笑しつつも改めて考え直す。
探るにしても夜、仲居達が仕事を終えてからだ。
女将の事件があった場所は、離れのあの部屋で間違いないだろうが。
レンタカーを予約してある店舗までは、旅館から歩いて約10分。
「鑑識員を連れてくるべきでしたね」
歩き始めて少ししてから、駿河が言った。
「まだ、今の段階では他部署を巻き込めないよ」
すると彼は、
「和泉さんの口から、そういう台詞を聞くとは思いませんでした」
何と返事をしたものやら、和泉は黙っておくことにした。
「先日の男性は、今日もいるでしょうか……?」
「たぶんね。葵ちゃん、武器は持ってるよね?」
先日のこともあり、今日は2人とも特殊警棒を持参している。駿河は無言の内に頷き返した。
「正直言って初めは、葵ちゃんの話が時代錯誤な与太話だと思ってた。ごめんね。とんでもなかったよ……」
「いえ……」
無口な相棒だ。
それはいい。
レンタカーに乗りこみ、先日見つけた恐らく、大麻畑に到着する。
あれから一部だけ生えていた異なる植物を調べたところ【フクジュソウ】という花で、冬から早春にかけて咲くのだそうだ。
黄色く小さな花弁はとても愛らしいが、もしかしたらその下に遺体が埋まっているのではないだろうか……そんなふうに考えるとぞっとする。
令状のない今、刑事達はフェンスで仕切られている畑の向こう側をただ見ていることしかできない。
しばらく畑を見張っていたが、先日のように山男(?)が襲ってくる気配もない。
とにかく写真を撮ってその場を離れることにした。
旅館に戻った頃にはすっかり日が暮れていた。
風呂に入りたい。
和泉と駿河が正面玄関のロビーをくぐった時だ。
ロビーの一番奥まったところにパテーションで仕切りが作られていた。先ほどまではそんなものはなかった。そして。
人が一人、そこから出てきた。
どこかで見たような気がする。
「……!!」
隣に立っていた駿河の様子が変わる。
明らかに彼は【緊張】していた。
「あれ、誰だっけ? 僕も見覚えあるんだけど……」
「影山です……」
影山? 誰だっけ。
「かつて廿日市南署に勤務していた……」
思い出した。
「そう言えば、また監察に戻ったって言ってたね。知ってた?」
返事はない。
彼はじっとその男の行方を無言で見守っていた。
すると。相手もこちらがじっと見ていることに気付いたようだ。
しかし、今は2人ともいつもと違う格好をしている。
まさか気付かれまいと思ったが、
「あんた、もしかして……」
男はこちらに気付き、頭のてっぺんからつま先までジロジロと見つめてくる。
どうやら、気付かれずにはいられなかったようだ。




