相棒~season2018~
サブタイ、ヤバいかな……?
今日は医者からの説明があった。
手術は要らないが胃潰瘍だ、とのことである。およそ3ヶ月は見ておいた方がいいとも言われた。
けっこう長いな、と周は思わず呟いた。
「毎日来なくていいから」
賢司はあらためて、美咲にそう伝えた。
「君だって、仕事をしたい時があるだろう」
「……でも……」
姉は揺れている。
仕事をしたい気持ちと、そうも言っていられないだろうという気持ちの狭間で。
「別に、生きるか死ぬかっていう瀬戸際じゃない。それに。無理して来てるんなら、来なくてもいいって言ってるんだ」
「無理なんかしてないわ!!」
おどろいた。
美咲がこんなふうに大きな声を出すのを、もしかしたら周は初めて見たかもしれない。
いつも自分の感情を押し殺して、静かにじっと耐えている人、というイメージだったから余計だ。
「……とにかく、そのあたりは私が自分で決めるから」
兄は深く溜め息をついた。
「ところで周。結局、進路はどうするの?」
「うん……」
「そろそろ決めないと、君だって春からは3年生なんだからね」
本当にそうだ。
1年生の頃から既にいろいろと調べて、進路指導の教師に相談している生徒もいるぐらいだから、そろそろ決めてしまわないと。
それにしても周は再び驚いていた。賢司の話し方に、である。
以前のような高圧的な態度ではなく、ごく普通の家族が心配するような言い方に。
新しい雑誌や本を置いて、病室を出た。
「ねぇ、周君。今のところ、進路はどんなことを考えているの……?」
歩きながら美咲に訊かれた。
先日由子さんに相談しつつ、自分の気持ちをあれこれと整理してみたところ、ようやく結論が出た。
「俺、県警に入りたい」
「そう……」
「よく考えてみたら、俺が今こうして、姉さんと普通の家族でいられるのも……元気に生きていられるのも、全部、和泉さんのおかげだからさ」
そうね、と姉は微笑む。
「今度は和泉さんのことを、いつか俺が助ける立場に回れたらいいなって」
「怪我だけはしないでね?」
「……今から、そんなこと心配すんなよ」
そうして2人で顔を見合わせて笑った。
買い物をして帰ろう、と病院を一歩出かけたところだった。
「周君?!」
……誰だっけ?
一瞬だけ悩んだが、思い出した。
見学に行った保育園の保育士だ。
富澤茉莉花が蒼白な顔をしてこちらに走ってくる。
周はげっ、と思わず声を出してしまった。
しかし彼女はそんなことに一切構うことなく、いきなりしがみついてきた。
「な、な、な……?!」
「お母さんが……ママが……!!」
茉莉花は目にいっぱい涙を溜めて、言葉にならない声でかぶりを振っている。
「落ち着けよ、どうしたんだ?」
しかし、それが引き金となって彼女はますます大きな声で泣き出してしまった。
困ったな……。
周は救いを求めて姉を見た。
「とりあえず、どこかに座りましょう?」
周は茉莉花を連れて、待合室の椅子に腰かけた。
グスグスと泣き続けている彼女から事情を訊くのは、ほぼ無理だろう。周は溜め息をつきたいのを堪えて、天井を見上げた。
彼女の【お母さん】はこの病院の看護師だ。賢司が入院している特別病棟の担当でもある。
その【お母さん】に何かあったのだろう。
そういえば。立て続けに医療関係者が襲われる事件があったことを思い出した。もしかしたら彼女の母親が犠牲になったのだろうか。
和泉に聞けば何かわかるかもしれない。
周はスマートフォンを取り出そうと、カバンに手を差し入れた。
しかし。
茉莉花はそれを遮るようにして、周の腕にしがみついてきた。
「なんだよ……?」
「ママが、変な人達に襲われて……怪我したの……」
やっぱりそうか。
「この病院に入院してんの?」
「ううん。市民病院……」
「じゃあなんで、こっちの病院に来たんだよ?」
「周君に会えると思って……」
あきれた。
「だって周君……最近ちっとも、来てくれないんだもの」
周は思わず姉の表情を見た。
茉莉花を挟んだ向こう側に座っている彼女は、ただ苦笑していた。
「だったら、市民病院へ行けよ。送ってやるから……姉さん、いい?」
いいわよ、と姉は立ち上がる。
周は茉莉花を立ち上がらせて、駐車場へ向かった。




