エビえもん~エビ太の……
和泉達が本部に戻ると、聡介が苦い顔をして待っていた。
「……それで、何かわかったのか?」
わかったというか、疑惑がより深まっただけだ。
和泉が口を開きかけた時、部屋の入り口にぬっと青いタヌキのような影があらわれた。
「ド○えもん?!」
しかし、もちろんそうではなく、姿をあらわしたのは捜査1課長の大石警部であった。
薄い頭に出っ張った腹。見事なまでに不健康な中年男性を絵に描いたような外見で、制服のボタンが今にもに飛んで行きそうだ。
聡介とそれほど年齢は変わらない、というか少し若いぐらいだろうに。
和泉は思わず顔をしかめた。
「課長、何かありましたか?」
そう言って丁寧に出迎えるのは聡介である。
いつもなら自ら出向いてくることは少なく、何か文句を言いたい時には必ず、聡介を自分の執務室に呼び出すのが常だ。
それが自らやってきたというのは、どういう風の吹き回しだろう?
課長はぐるりと部屋の中を見回したかと思うと、和泉のところで視線を止めた。
「……おい」
誰も返事をしない。
「お前じゃ、和泉彰彦」
和泉は苛立ちを覚え、思わず課長を睨んだ。
「宮島へ行ったか?」
本当は口もききたくない相手だが、今はそうも言っていられない。
「……行きましたけど、それが何か?」
「何やら他所様の所有地に勝手に出入りして、咎めた見張り番の男性に、怪我をさせたそうじゃないか」
おどろいた。
まさか、そんな話になっているとは。
「それは……」
聡介が咄嗟にこちらを見る。
斉木家の所有する畑近辺で起きたことについては、既に報告済だ。
「課長、その件に関してはご報告が……!!」
「ああもう、言い訳は要らん!! 幸い、本部長が出るほどの騒ぎにはならなかったけどね。君は部下にどういう教育をしとるんかね?! 毎度まいど、ワシに迷惑ばかりかけてくれて……!!」
課長はさんざん自分の言いたいことだけを喚き散らし、そうして誰も反応しないことに苛立ったのか、
「とにかく!! これ以上ワシに迷惑をかけるのはやめてくれ。今度何かあったら、この班は解散じゃけんのぅ?!」
捨て台詞を残し、たるんだ腹を揺すりながら刑事部屋を出て行った。
しばらく、誰も何も言わなかった。
「……和泉さん、申し訳ありません……」
最初にそう言ったのは駿河であった。
「葵ちゃんのせいじゃないよ」
確かに、鎌を持って襲いかかってきた男を撃退したのは彼である。だが、怪我をさせるほどの衝撃ではなかったはずだ。
恐らく男が斉木に通報し、そして彼が上にクレームを入れた。
「聡さん。これではっきりしましたよね? 斉木は……支倉との関係も然り、何かと後ろぐらい事をやらかしているのだと。ああして、課長自ら文句を言いに来るということはつまり……」
和泉は聡介に話しかけた。
しかし、
「……しばらくはこの件から手を引け」
父の口から発せられた言葉は、思いがけない内容だった。
「聡さん?!」
「いいから、俺の言う通りにしろ! いいな?!」
そうは言いつつも、
「……ただし、報告だけは済ませておけ」




