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何か思い当たるフシがあるんだね?

 久しぶりに一日ゆっくりできる。

 母親はいないし、妹は保育園に行っている。


 智哉は自分の分の昼食を用意しながら、何気なくテレビを見ていた。


『……先日に続いて、これで5人目ですよ。田中さん。このように被害者が医師や看護師であることには、何か犯人からのメッセージなのでしょうか?』

『おそらく犯人は、医療関係者に何か強い恨みを持つ……』

『ひょっとして、医療ミスでしょうか』


 そう言えば、先日父親の友人だった医師が賊に襲われて怪我をした、とニュースになっていたことを思い出す。

 少し気になったので、智哉はネットで詳しい情報を調べることにした。


 その時、携帯電話が鳴りだした。

 知らない番号からだ。しばらく無視していると、一旦は鳴りやんだ。

 

 しかし、しばらくして再び鳴り出す。

 3度目になって智哉はようやく、着信を押した。


『智哉か……?』

 どこかで聞いた声のような気もする。


「どちら様ですか?」

『……何を言ってるんだ、お父さんだよ』


 一瞬だけ、呆気に取られて智哉は声を失う。


 離婚してから一切連絡を取ったこともないのに。


 二か月に一度、年金みたいに父はこっそりと智哉の口座にお小遣いを振り込んでくれていた。

 母には内緒だ。金額もたかが知れているが。

 

 だけど、それだけ。

 直接会って話す訳でもなく、電話もメールも一切なかった。


「……どうしたの?」

『これから少し会って話せないか?』


 今日はたまたま学校が休みだったからいいが、そんなことを忖度するような父ではない。

 このタイミングで電話をしてきたのは偶然だろう。


「……どこに行けばいいの?」


 父は智哉の家からほど近い、大型ショッピングセンターのフードコートを指定した。


 母親には絶対内緒だと念を押されたが、そんなことは気にしなくていい。

 最近は、まともに口さえきいていないのだから。


 外に出ると雨が降っていた。


 なんでこんな日に、とブツブツ言いながら智哉は歩きだした。


 平日の午後、フードコートは空いていた。

 まばらな人影の中に、父親の姿を探すのは容易だった。


 お父さん、と呼びかけて智哉はとどまった。


 今、父はたぶん他所で、他所の子のお父さんをやっているはずだ。

 しかし向こうはそんなこちらの心情など一切頓着していないようで、息子を見つけると、こっちだと手を振った。


「実はな……」と、父は久しぶりだな、とか、元気だったか? など、普通なら期待するであろう言葉は省略して、いきなり用件から話しだそうとした。


「お前、警察官の知り合いがいるんだって?」


 誰に聞いたのだろう?

 それに、いきなり何だと言うのだろう。


「ニュース見たか? この頃、医療関係者ばっかり狙われる事件が続いてるって」

「……猪狩さんのこと?」

「それもそうなんだけど、今朝のニュースを見ていないのか?」


 ニュースならさっきまで見ていた。

「襲われた看護師っていうのが、お父さんの知り合いでさ……」

 父はスマートフォンを取り出した。


「これ、見ろ」

 智哉はそれを受け取って画面を見つめる。


≪安芸総合病院に勤務する看護師である佐藤俊子さん(38)が昨夜午後10時過ぎ、帰宅途中で何者かに襲われ、足の骨を折るなどの重傷を負いました。犯人は複数人であり、黒っぽい格好をした、若者グループと見られ……≫


「……それで?」

 息子の機嫌が悪いと思ったのだろうか、父親はいきなり立ち上がると、何を思ったかソフトクリームを買ってきた。


 智哉が受け取らないでいると、父は自分でそれを舐めた。


「その知り合いだっていうお巡りさんに、頼めないかな? お父さんのまわりを警戒してくれるように」

 何を言われたのかを理解するまで、少し時間がかかった。


「頼むよ、もうすぐ二人目が産まれるところでさ、今の嫁さんも心配してピリピリしてるんだ。別にボディーガードまで行かなくても、警官が近くにいてくれるだけで抑止力になるだろ?」


 随分と自分勝手な言い草ではないか。

 腹が立ってつい、智哉は思ったことを口にした。


「何か、狙われるような心当たりでもあるんだ?」


 すると、父はぎくりと全身を震わせた。


「ば、バカなこと言うんじゃない!!」


 智哉は父親の仕事について詳しくは知らない。手術に失敗したことがあるとか、何か患者とトラブルを起こしただとか……。


「と、とにかく……」

 父は気まずくなったのか、咳払いをすると、

「でも、なんで警察官なんかと知り合いになったんだ?」と、話題を変えた。


「いろいろ」

 詳しく話すには時間が足りないし、話したいとも思わない。


「便利だよな、何かと。警察に知り合いがいるって言えば大抵は……」


 便利、なんてそんなふうに思っていない。

 たとえ友永が警察官じゃなくても、他のどんな職業の人だったとしても。


 だいたい、そんな言い方は失礼だ。


「なぁ。お父さんにも紹介してくれないか、そしたら自分で頼むから……。ほら、今の嫁さんも神経が細い人でさ……あなたは大丈夫なの? って、かなり心配してるから」


 智哉は無言のまま立ち上がった。


「智哉?」


「近くの所轄署に行けばいいよ。受付ぐらいはしてもらえるだろうから」


 久しぶりに会った血を分けた息子に「元気だったか」の一言もなく、絵里香のことだって何一つ聞いてこない。自分の都合、新しい家族のことばかり。


「な、なんだお前、父親に向かってその言い方は……」 


 誰が、誰の親だ。


 しかし、さすがにその台詞は飲み込む。


「僕、忙しいから、それじゃ」

 父親が呼び止めたが、一切無視した。


 泣きたくなった。


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