そろそろ本気で行動しないとね
県警捜査1課強行犯係の詰める刑事部屋は、今日も朝から鳴りやまない電話の音と、バタバタ出入りする職員達の足音で賑やかなことこの上ない。
和泉彰彦は、先ほどから鳴っている自席の電話を取ろうともせず、眉根を寄せてひたすらパソコンに向かっていた。
「おい、電話鳴ってんぞ!!」
向かいの席に座る和泉と同期の刑事である、日下部博実が叫ぶが、ひたすら無視。
幸い、誰かが出てくれたようで着信のランプは消えた。
「おい、彰彦」
頭上で父の声がした。
父といっても、父親のように慕っているという意味である。
和泉が顔を上げると、上司であり父親でもある高岡聡介が、不安やら心配やら、いろいろな感情を混ぜた表情でこちらを見下ろしていた。
「……お前、なんていう顔をしてるんだ……」
「この顔は生まれつきです」
「そういうことを言ってるんじゃない」
聡介は溜め息をつく。
わかっている。
自分がこんな表情をしている理由も、父が気をもんでいる事情も。
先回の事件の折り、あの宮島の白鴎館という旅館で麻薬取引が行われているという情報が入り、関わっている暴力団関係者も突き止めたというのに、あれからその件に関してはなしのつぶてである。
しかも。
暴力団関係は捜査4課、組対の管轄だと、和泉達捜査1課の出る幕じゃないと言われてしまったのだから気分が悪い。
今朝。
和泉は大石一課長から直接、聡介と2人呼び出しを喰らった。
例の旅館の疑惑については一切、手も口も出すな。
さんざん念押しされ、うんざりして課長の執務室を出た。
誰が大人しくなんてしているものか。和泉は内心で舌を出していた。
勝手に調べ回ってやる。
組対の課長だった坪井警部はあれから異動になってしまった。
今、後釜に座っているのは沢野という警部である。
和泉はこの警部を知っている。
一言で言えば『使えない』。
だから自分達が行動するしかない。
が、今すぐにことを起こす訳にもいかない。何ごともタイミングがある。
少しの間、言うことを聞くフリをしておいて、頃合いを見計らって動こう。
「大人しくしてろよ?」
「はーい、お父さん」
返事だけはしておいて、ひとまず和泉は溜まっていた書類仕事を片付けることにした。
昼の休憩時間。
昼食を買うためにコンビニへ行った和泉の眼に、ふと賃貸住宅情報雑誌の表紙が飛び込んできた。
そうだ。いい加減、部屋探しをしよう。
父の家で居候の立場は気楽でいい。
しかしいつまでもこのままでいると、下手をすれば『マンション買うから一緒に住まない?』とか言われそうだ。あの人に。
いや、確実だな。
誰か、独身のイケメンが入ってこないかな……特殊捜査班に。
和泉はその雑誌を手に取り、買い物カゴに入れた。
和泉が買ってきたお弁当を食べながら、その雑誌をペラペラめくっていると、
「お、そろそろ独立に向けての準備か?」
傍を通りかかった同じ班の刑事である、友永修吾が可笑しそうに言う。
「まぁ、そんなところです」
それから彼は和泉の手元を覗きこんで真剣な表情で言った。
「なぁ、動物の飼えるマンションってのは高いのか?」
「……なんでです?」
「いや、まぁ……いろいろとな」
「良かったらこの雑誌、見ます? 差し上げますよ」
友永は礼を言って雑誌を受け取った。




