サイボーグの目に涙
疲れた。
決して口には出せないけど、でも。
冬の寒さが身にしみるこの季節に、一日中野外を歩き回って、聞き込みに回っていた自分を褒めてあげたい。
班長から召集令があったため、いったん地取り捜査に区切りをつけ、結衣は日下部と共に捜査本部へ戻った。
一歩中に入ると、暖房の温かさにほっとしてしまう。
やれやれ……。
すると、
「あ、お疲れ~」郁美が向かいから歩いてきた。
「ちょうど良かったわ、これ、高岡警部に渡してくれる?」
友人はおそらく資料の入った封筒を差し出してくる。
「……被害者のバッグから、いろいろ前科者の複数の指紋が出たわよ」
「そうなの?」
「ほんとに、金品目当ての強盗なのかもね」
そうなのだろうか?
何時間か前に友永・駿河のコンビと個人的にプチ会議を開いた時に出た結論とはやや異なっている。
何が真実なのだろう?
なんだか、闇の中に放り込まれた気分だ。
それから班員が揃った時。
「みんな、手分けして手伝って欲しいことがある」
上司と和泉は宮島に行って、被害者の部屋からいくらか証拠品となりそうなものを押収してきたようだ。
「このビデオを視聴して欲しい。ガイシャの部屋から大量に見つかったものだ。もしかしたら何か、ヒントになる情報が入っているかもしれない」
「ビデオじゃありませんよ、DVDです」
はい、と返事をして結衣は何枚か渡されたDVDセットし、スタートボタンを押した。
この手の仕事は根気がいる。興味のない映画やアニメを延々と見続けなければならないのは、苦痛以外の何物でもない。
それに単純にエンターテインメントを楽しんでいる訳にはいかないのだ。
何が隠されていないか、神経を張り巡らさなければならない。
とはいうものの。
可愛らしい動物をかたどったキャラクター達があらわれる。どうやら、子供向け教材のようだ。
たまにはこういうのも、癒されるわね~……。
なんて結衣がほっこりしている時だった。
「うわぁああああ――――――っ??!!!」
すぐ近くから、ものすごい悲鳴が聞こえた。
誰かと思えば一番意外な人物だった。
「葵、どうした?!」
日頃はサイボーグ呼ばわりされている、あの無表情を貫いている若い刑事が、顔面蒼白で涙目を見せている。
「は、は、は、班長っ!! これ、全部見ないといけないんですかっ?!!」
「うわっ、なんだこりゃ?!」
日下部も驚きの声を上げる。
思わず結衣も画面を除きこんだ。
うん、これは酷い……そういうのが好きな女性なら何の問題もないだろうけど、普通の男性にこの手のアニメはキツいだろう……。
「ダメだよ、葵ちゃん。早送りしないでちゃんと全部見てよね~? 何が隠れてるかわからないんだから……」
ニヤニヤと和泉が、いやらしい笑顔を浮かべてそんなことを言っている。
「例えばほら、裏帳簿のコピーとか、麻薬取引の現場を抑えた動画とかさ。ついでに、感想も聞かせてね? はい、これもよろしく」
すっかりパニックになっている若い刑事の手にさらにDVDを何枚か重ね、和泉は会議室を出て行こうとした。
「おい、どこに行くんだ?!」
「友永さんを探してきます」
そう言われてみれば姿が見えない。
あの人もつくづくマイペースな人だ。




