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そんなに気を遣わなくていいんですよ?

 先ほど、途中で終わってしまった会話が頭の中で甦る。


 だったらなぜターゲットが医療関係者に限定されるのか。


 支倉が本当に絡んでいるのだとしたら、その狙いと動機は何か……。


 駿河は支倉を直に見たのは一度か二度ぐらいだが、確かにあの男は普通ではない。


 ヤクザなのだから普通じゃないのは当たり前だとしても、なんというか血の通った人間とは思えないような印象を受けた。


 おもしろいから。


 やってみたかったから。


 そんな理由で人を殴ったり、殺したりする人間は確かに存在する。


 もしも支倉がその手のタイプ……いわゆるサイコパスだとしたら。


 絶対に友永の前で口にはできないが、正直言って怖いと思った。



「……おい、葵!!」

「は、はい?」

「何をぼけーっとしてんだよ。次行くぞ」

 友永はスタスタと歩きだす。


「どこへ行くんですか?」

「……次の檀家だよ」


 まだいるのか。


 駿河は急いで相棒の後を追いかけた。


「……どうも、胡散臭いな」

「あの不動産屋ですか?」


「違う。お前、最近ボケも上手くなったな。仲居の給料ってのは……そんなにびっくりするほど高給なのか?」

 友永はボサボサの頭をかき回しつつ言った。


 ふと美咲のことを思い出す。

 とはいっても、彼女の懐具合など詳細までは知らない。


 2人で出かけたり食事をしたりした時、たいていは割り勘だった。ごくたまにボーナスが入ったり、臨時収入があったりした時は、奢ったり奢られたりもあったけれど。


「鶏ガ……ガイシャの息子はせいぜい20代だろ。ひよっこもひよっこ、どうせ研修医ぐらいだ。そんな若い医者が高級マンションを買えるほど高い給料をもらってると思うか? 聞いた話じゃ研修医なんて、ファストフードの店で働く学生のアルバイト店員よりも安い月給だっていうぜ?」

「……つまり友永さんは、どこかで汚い金が回っていたんじゃないかと考える訳なんですね? 弟の方はどうですか? 役者だと言っていましたが」

「……売れっ子って言ったところで、どの程度かにもよるだろ。だいたい、その息子が本物かどうかもわかったもんじゃない。あのオバはん、虚言癖があったからな……」


「強請り、ですか?」

 駿河はふと頭に浮かんだ疑問を口にした。


「あの年齢で仕事を辞めるって、それも金で過去にトラブルのあった人間が、だぞ」


「では……ギャング達による抗争事件の巻き添えを喰ったいうのは……」

「まだはっきりとは言えねぇが、偶然、もしくは……偶然を装った必然かもな」


 その時、2人の携帯電話が同時に鳴りだした。


 駿河の方は日下部からだ。


「駿河です」

『あ、お前ら今、俺達の近くにいるだろ? ほら、道路挟んだ反対側。休憩がてらプチ捜査会議といかねぇか。いま、アンデルセンの2階にいるんだ』


「何か有力な情報でも入ったのですか?」

『ま、そんなところだ』

 呑気だな、と思ったが、

「……全員揃って、余計な気を回してんじゃねぇよ!!」

 すぐ横で友永が舌打ちしながらそう言ったのが聞こえた。


「友永さん?」


 彼は面倒くさそうに携帯電話をコートのポケットにしまうと、


「うさこの奴からだ。一緒に休憩しよう、だと。そっちは?」

「日下部さんから、同じお誘いでした」


 すると相棒は何とも言えない表情をして見せた。

「まったく、どいつもこいつも……」


 あの2人は間違いなく、友永のことを気遣っているのだろう。

 被害者が彼の檀家だったこと、昨日の彼の様子を知っている2人だから。


 行くぞ、とぶっきらぼうな口調で言いながらもやはり、嬉しそうだった。


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