お巡りさんといっしょ
周君のお家に遊びに行きたーい、と妹がお願いしている……。
と、智哉と円城寺が言ってきたのは同じ日だった。
特に予定もなかったので、週末、周は友人2人と彼らの妹2人を自宅に招いた。
少女達は猫ちゃんにさわりたーい、と言っていたそうだが、猫達はやってきた少女達を一目見た途端、嫌がって奥に引っ込んでしまう。
しかし彼女達はそれほど気にしていない様子で、楽しそうにおしゃべりしている。
「あれ、周1人なの?」
智哉がざっと全体を見回して訊いた。
「ああ、うん。姉さんは病院だから」
「そういえば、賢司さん、具合悪いんだっけ……?」
どれぐらい悪いのか、と友人は心配そうだ。
あまり詳しいことは人に話すな、と言われている周は困ってしまった。
「周、すまないが手を洗わせてもらえないか」
円城寺が言ってくれたので、彼を洗面所に案内することで、どうにかその場をしのぐ。
「お兄さんが入院しているらしいな」
彼はこそっと言った。
「なんで知ってるんだ?」
「母の知人が安芸総合病院に入院しているのだ。先日、見舞いに行った際に姿を見かけたらしい。子供達の前ではあまり話せないが……君のお兄さんは……」
その時、リビングの方からお兄ちゃーん、と彼の妹の声がした。
後で、と彼は洗面所を出て行く。
子供達の前で話せないことって何だ?
智哉は何か問いたげな顔でこちらを見ている。だけど、周だって円城寺が何を言いかけたのか気になって仕方ない。
しばらく妙な空気が場を支配した。
それを解消してくれたのは、病院から帰ってきた姉だった。
少女達は美咲が連れてきてくれた猫を触ったり、一緒にお菓子を作ったりして相手をしてくれたので、満足げである。
一方の兄2人と周は、とりあえず宿題しようか、と言う話になった。
夕方になり、姉が友人達を送ってくれるというので周は留守番することにした。
後でメールする、と智哉には言っておく。
円城寺もまた、後で連絡すると言い残して去って行った。
※※※※※※※※※
「えっ? 賢司さん、入院してるんですか……?」
美咲からその話を聞いた智哉は、驚きに思わず大きな声を出してしまった。
「口止めされていたんだけど、なんだかんだって知ってる人が来てくれると嬉しそうなのよね……智哉君、忙しいだろうと思うけど、一度顔を見に行ってもらえないかしら?」
「はい……」
「えっと、確かここを入ったところよね?」
運転席の彼女は細い路地に車を入れようとした。
「あ、もうここで大丈夫です」
智哉は眠っている妹を起こし、車を降りようとした。
「あら、ちゃんと玄関の前まで送るわよ。絵里香ちゃん、眠ってるし」
「少し、歩きたい気分なんです……」
起きない妹を抱きかかえ、智哉は車を降りた。自宅まではあと数百メートルある。
重い。
「おかえり、智哉君」と後ろから声がした。
「あ、津田さん」
宇品東署地域課みなと公園前派出署勤務……というのが彼の肩書きなのだそうだ。制服警官は自転車に乗って、パトロールの最中らしい。
「重くない?」
津田は笑って訊ねる。
「重いです……」
「貸してごらん。その代わり、自転車を頼むね」
「えっ?!」戸惑っている内に絵里香は彼の背に負われ、智哉は自転車を押すこととなった。
「懐かしいなぁ~……初任科の頃、おもりを背負って走らされたっけ」
「初任科?」
「ああ、警察学校のこと」
ふと智哉は周のことを思い出した。彼は今でこそ、保育園へ見学になんて行っているが、実際のところ本気で進みたい方向はどちらなんだろう?
「……あの、警察学校ってやっぱりたいへんなんですか?」
「そりゃね。規則は厳しいし、訓練だってキツイからね……何、智哉君は県警に入ろうと思ってるの?」
「僕じゃなくて、友達です」
「なんだ、そうか。でも……そうだな。あまりお勧めはしないかな」
津田は苦笑を浮かべながら答える。
「どうしてです? やっぱり、イジメとかあるんですか?」
「それもあるけど……」
言いかけてなぜか少し遠くを見つめた彼の目に、智哉は何か少し異様なものを感じ取った。気のせいだろうか?
「組織全体の体質っていうのかな。もし、お友達が正義感だけで警察官になりたいっていうんなら……考え直した方がいいよ?」
「……」
「あ、ごめんね。変なこと言って」
そうして自宅に到着した。




