家政婦は見ちゃった訳だ
しばらく仕事には行けないだろう。
仕方がない。
美咲は家事をしながら、ふとこの先しばらくは出勤できないであろう旨を女将に伝えておかなければ、と思った。
賢司という人はまったく何を考えているのかわからない人だが、来なくていいと口では言いながら、美咲が病室に顔を出すと、少しホッとした表情を見せる。
早く帰れと言いながら、美咲がそろそろ帰ると口にすると、ややおもしろくなさそうな顔になる。
もっともすべて、こちらの『気のせい』かもしれないけれど。
先日、和泉が見舞いに来てくれた時は一番ヒヤヒヤした。
まさか表立ってケンカなどはしないだろうが……。
あの2人は謎めいているという点が共通している。
それにしても……あの人はいったい、どういう育ち方をしたのだろう?
もしも何か隠された事情のようなものがあれば、こちらだって接し方に気を遣うのに。
誰か、彼のことを詳しく知っている人はいないだろうか。
風呂場の掃除をしていた美咲は、やってきた三毛猫に前肢でちょいちょいと腕をつつかれた時、初めて電話が鳴っていることに気付いた。
慌てて手袋を外し、リビングに入って受話器を取る。この家には未だ固定電話が引いてある。
「はい、藤江です」
『……』
「もしもし?」
『あの、こちらは藤江賢司さんの……?』
おそらく年配の女性の声。
「ええ、そうです。どちらさまでしょうか?」
『……小野と申します』
知らない名前だ。
『以前、悠司さんの代からお世話になっておりました……家政婦でございます』
「ああ、賢司さんのお父様の……? 実は今、主人は入院していまして……」
電話の向こうで相手が絶句したのがわかった。
「もしもし?」
『……どちらの病院か、教えていただけますでしょうか……?』
そこで美咲は安芸総合病院であると教えた。相手は何度も礼を言ってから電話を切った。
ちょうどそこへ周が帰ってきた。
「ただいま……」
「お帰りなさい」それからふと「ねぇ、今、小野さんって仰る方から電話があったの。周君のお父様の代から、家政婦をなさってたっていう……知ってる?」
「由子さん?! 由子さんから電話があったの?!」
周の顔がぱっと輝く。
「お名前はわからなかったけど、賢司さんのこと知ってる方みたいだったわ」
「あ……賢兄のこと、誰かから聞いたんだ。俺から連絡しようと思ってたのに」
弟は気まずそうに呟いた。それから、
「由子さんはいい人だよ。俺のことも父さんと一緒に、大切にしてくれた」
そう、と美咲が微笑んだ時、茶トラ猫が餌を催促しにやってきた。




