21話 その聖女、帰国
――バンッ!!
そのときだった。
勢いよく扉が開いてイレーネが現れたのは。
「そのお話、私がお受けしたいです!!」
「なっ!? イレーネ!!? 何故ここに!?」
イレーネはつかつかと執務室に入って来ると、ルドニークの座る机に両手をついた。
その目は怒っている。
「なぜここにいるのかは今はいいんです! それよりも、私言ったじゃありませんか! 私にもこの国を守らせてほしいと!」
「それは……いやだが」
「だがじゃありません!!」
イレーネの剣幕にたじたじになるルドニーク。
ルスランとカリンはそろりとそばを離れた。
「良いですかルドニーク様。私はグレノスの聖女。この国を守るのが私の使命です! それなのに守られてばかりでは示しがつきません!」
「だ、だが」
きっと睨まれ口ごもるルドニーク。
ルドニークの口癖「だが」が封印された瞬間だった。
しょんぼりとするルドニーク。
「ルドニーク様たちが私に悟られないようにプレゼントを処理していたのはなんとなくわかっていました。それが私へ向けられた悪意だということも」
「なんだと!?」
ルドニークは驚愕した。
イレーネにはバレていないと思っていたのだ。
何ならこの件はイレーネに気づかれることなく終わらせるつもりだった。
「私へ向けられた悪意ならば、私が片をつけるべきです。代役を立ててしまえばその悪意に屈したも同然です。皆を守るための私が逃げ隠れしていてはダメではありませんか!」
イレーネは真剣な眼差しでルドニークを見る。
正直ここまでイレーネが自分の意見を口にすることは初めてだった。
彼女は聖女としても公妃としても申し分のない仕事をこなしてはいるのだが、いつもどこか一歩下がった場所から見ていた。
セイア王国でやらされていた仕事は多岐に及んでいて、財政、軍備、防衛、交易など幅広い知識とスキルを身に着けているのだが、どれだけ知識があろうとも決して前に出ようとはしなかった。
そんなイレーネが初めて自分の意見をここまで口にしたのだ。
ルドニークにとっては何よりも喜ぶべき変化だった。
「そうはいってもな、絶対に何か罠がしかけられているパーティーなのだぞ?」
「だからこそです! 私はもうあの時のイレーネじゃないと示したい。グレノス公国に来てから変わったのだと……。けじめをつけたいのです」
イレーネは一歩も引こうとはしなかった。
ルドニークは悩む。
イレーネの願いはすべて叶えてやりたいのはやまやまなのだが、さすがに危険すぎる。
恐らくだが、パーティー中はルドニークとイレーネを引き離そうとするはず。
わざとその画策に引っかかってやる必要がある以上、ずっと一緒にいてやることもできないだろう。
毒物を出される可能性もある。
「……どうしてもか?」
ルドニークは叱られた小犬のような顔でイレーネを見る。
何とか諦めてもらいたいのだ。
それこそ自分の顔の良さを使ってでも。
「そんな可愛らしい顔されても私の気持ちは揺らぎません!」
ダメであった。
がっくりと項垂れるルドニーク。
「……分かった。ただし! 護衛にカリンをつける。だから絶対に離れないように! 食べ物や飲み物もカリンを通すこと。これだけは譲れない。いいな?」
「はい! ありがとうございます!」
嬉しそうなイレーネに押し切られ、作戦を練りに練ってパーティーに挑んだのである。
――回想終了
「オレはもうイレーネを危険に晒したくないのだ。金輪際。絶対に」
ルドニーク様は私の肩に手を置き視線を合わせてくる。
澄んだ青空のような瞳には心配の色が強く浮き出ていて、どれだけ心配をさせてしまっていたのかが伝わってくる。
「頼むから、もう無茶はしないでくれ」
「……はいルドニーク様。心配させてごめんなさい。それから、ありがとうございます」
私はそっとルドニーク様の頬を撫でる。
彼は手を重ねてくれた。
「……私、皆さんが守ってくれるのがとても嬉しいのです。でもそれと同じくらい、私も皆さんをお守りしたい。だから私にできることはなんでもやりたいと思うのです」
私に優しさを、笑顔をくれた。そんな公国の為に。
そう思えるようになったのは、全部……。
「全部ルドニーク様のおかげです。私を見つけてくださって、本当にありがとうございます。そして、これからもどうか一緒にいさせてください」
「イレーネ……」
お互いの顔を見つめ合い、自然と距離が近くなる。
「……私はもうルドニーク様のもの。だから捨てたりしないでくださいね」
ガイア様に大公ももうお前には飽きているだろうと言われたとき、胸の奥がずんと沈んだ。
絶対にそんなことはないと分かっていても確認したくなるのは仕方がないだろう。
「当たり前だろ。むしろ離せと言われても離してやれる自信がない」
ルドニーク様は優しく微笑み私の欲しかった言葉をくれる。
ああ、幸せとはこういう時間のことをいうのだろう。
唇がそっと触れ合う。
温かさと甘さが伝わる柔らかさ。
それは次第に吐息を混ぜ合うように深く絡んでいく。
少しも離れたくないとお互いの息を奪い合うように。
「……イレーネ……」
「ルドニーク様……」
上気した頬、上がった息。
至近距離で見つめられる瞳。
そのすべてが愛おしい。
「ごほん! それ以上は城に戻ってからしてくださいね~。馬車の中じゃイレーネ様のお体に触りますし~、肩怪我されているのですから~」
その雰囲気を払うように大きく咳ばらいをされた。
(そう言えば馬車の中でした!! わ、私ったらなんてことをっ!)
雰囲気に流されて危うくふしだらな行為をするところだった。
そのことに気が付くと一気に顔から火が出る程熱を持つ。
「もっ、もうしわけ、ありません」
最後の方は声が消えてしまいそうなほど小さな呟きにしかならない。
「せっかくいい雰囲気だったのに邪魔をするな……と言いたいところだがそうだな。セーブできる自信などないから止めてくれて助かった。危うくイレーネに無理をさせるところだったな」
「そうでしょうとも~」
そんな二人の会話にさらに熱が集まった。
ルドニーク様からは常に熱い視線を送られつつグレノス公国へと戻っていったのだった。
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