14話 その聖女、突撃
「イレーネ、大丈夫か? 顔色が……」
「ええ、平気です。少し緊張しているだけで」
「そうか。何かあればすぐに言うんだぞ」
「はい、ありがとうございます」
イレーネはルドニークの手を借りて馬車を降りた。
見上げた城は暗く澱んだように翳っている。
ここはセイア王国、王城――。
過去に様々な扱いを受けてきた、イレーネにとってはトラウマの場所だ。
今でも時折夢に見る。
消すことのできないトラウマはふとした瞬間に思い起こされイレーネを苛んだ。
「本当に大丈夫か? 今からでもやめておいた方が……」
ルドニークが心配そうにイレーネの顔を覗き込むが、微笑みで返される。
「大丈夫です。もう以前の私じゃないですから。それに私にはルドニーク様もカリンもついていてくれます。それにいずれけじめを付けなければと思っていましたし、ちょうどよかったですよ」
イレーネはあくまで気丈にふるまう。
少しでも気を抜けば、途端に震えてしまいそうだからだ。
ルドニークもそれに気が付いており、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
「……君がそこまで言うのなら。だが、何かあればすぐにいうのだぞ」
「ええ、分かっております」
イレーネは大きく息を吸いゆっくりと吐き出す。
やがて開けた目には力強い光が宿っていた。
「行きましょう」
覚悟を決めて一歩踏み出した。
◇
イレーネがパーティー会場に入ると、途端に視線の雨が降り注ぐ。
まるで夜空のような濃い紫色のドレスによく合うサファイアのネックレス。
白い髪には金の花々が編み込まれより美しさを際立たせていた。
その姿はまさしく夜に愛された女神。
夜空をまとった彼女は注目を集めるのには格好の的だった。
(あれは、まさか……)
(そんなはず)
(だが、美しい)
そんな小さな声がどこからともなく聞こえてくる。
進むたび、その声は鮮明に耳に届く。
好奇、嘲笑、侮蔑、その他下卑た貴族たちの無遠慮な視線にさらされたイレーネはわずかにたじろぐ。
だが決して怯むことはなかった。
真っ直ぐに前だけを見ている。
彼女の隣には同じく夜空の髪を持つルドニークの姿。
その瞳は凍えそうなほど冷たい光を宿しており、それに一瞥された貴族はすごすごと視線を反らしていく。
ルドニークはさらにイレーネの肩を抱き寄せ下卑た視線を送っていたものに絶対零度の視線を送った。
「行こうか、イレーネ」
「はい。ルドニーク様」
二人が進む道は自然と人が分かれ、一本の道が出来上がる。
二人はそのまま堂々と真ん中を突っ切り、国王の元へ向かった。
そこには柔和な笑みを称える年老いたセイア王国国王の姿。
「本日はお招きありがとうございます。素敵なパーティーですね」
「おお、よくぞいらした」
国王とルドニークは握手を交わす。
その雰囲気は柔らかい。
雰囲気だけは。
何とも言えない緊張感が会場に走る。
片や老獪さを身に着けた一国の主、片や世界最強の軍事国の主。
どちらも本心を表には出さない。
だが、その握手が上辺だけのものであるのは明白であった。
今のセイア王国のどこにこれだけの財力があるのか不思議なほどきらびやかなパーティー会場の中で、その一部だけが吹雪いている。
「今宵を我は随分待ちわびたものよ。存分に楽しんで行ってくれ」
「そうですか。私も、私の妻も楽しみにしていたのですよ。さあイレーネ。ご挨拶を」
ルドニークの後ろからイレーネが進み出る。
「……国王陛下にご挨拶いたします。イレーネ・グレノスと申します」
一分の隙もない見事なカーテシー。
名前の後にはグレノスの姓。
それは既にセイア王国の人間ではないという意志表示だった。
「ほう、そなたあのイレーネか。いやはや、人は変わるものよな」
ほっほっほと笑う国王。
ちょうどその時入口の方が騒がしくなる。
どうやら主役が登場したようだ。
「では我は戻るとするかの。後は若い者たちで楽しんでくれたまえ」
最後に一度イレーネに視線を送り退場していく国王に、ルドニークは内心舌打ちをした。
(このくそ爺がっ)
だが今日は国王とやりあいに来たわけではない。
狙いは別にあった。
ルドニークはイレーネの肩を引き寄せ、今日のメインターゲットを見据えた。
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