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あ、くまだ  作者: ペンネグラタン
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 何不自由なく、過ぎていく日常。

 けれど私は、斜め後方にどうしたって気配を求めてしまいます。

 ふいっと顔を上げれば、百鬼夜行を目指しているのかと疑われるほどの魑魅魍魎の波。

 はあ……私が霊感少女なのは、美嘉さんしか知らない事実ですが、これではいつ私が耐えられなくなって、自分でばらしてしまうかわかりません。そのときに美嘉さんが「自爆乙」とか言って笑う顔の真ん中に拳を突き入れたくなること請け合いなのです。

 まあ、いずれ、眞子さんには明かそうと思うんですが……平凡なJKライフを送りたいものです。


 そんなことを考えながら、私はくまのぬいぐるみを作っていました。

「日隈さんはくまのぬいぐるみが好きですね。何か思い入れがあるんですか?」

「あ、呉服部長……思い入れ、ですか……」

 ないと言えば嘘になります。

 が、呉服部長は若干ずれた指摘をします。

「ジョージ・ワシントンが好きなんですか?」

「いや、そこは普通テディベアが好きなんですかって聞くとこですよね?」

 確かにワシントン氏が庭の木の枝を折ったと正直に話した話は素敵だと思いますが。そこじゃありません。

 と、油断していると、いきなりストライクゾーンに。

「もしかして、"あくまのぬいぐるみ"の儀式でも実行するつもりですか?」

「そ、そそそ、そんなこと、ないですよっちゃんいか」

「下手くそか」

 美嘉さんが遠慮なくツッコむ傍ら、呉服部長がふむ、と考え込みます。

「私もやりたいところですがね」

「へっ? 今なんて」

「私もやりたいところですがね」

 さすが真面目な呉服部長。一言一句違わずに言い直してくれましたが、What感がヤバいです。

 説明を待っていると、呉服部長は訥々と語ります。

「日隈さんは、赤根先輩と伸也くんのことはご存知でしょう?」

 ああ、去年の文化祭でリア充感ヤバかったんで、少々懲らしめ……ごほんごほん。演劇部で騒ぎを起こしていた二人の先輩ですね。赤根先輩は卒業して、確か伸也先輩が部長になったんでしたか。

「私は伸也くんのことが好きです」

「あの、私に告白されましても」

「けれど、あの二人はお似合いです」

 呉服部長って意外と推して参るな性格なんですね。ええ、聞きましょう。

「あの二人の空気に、割って入ることができない私は、くまのぬいぐるみを作る以外に、何をしたらいいのでしょう」

 おや、どこかで聞いたような話です。少し違いますが。

「くまのぬいぐるみに、裁ち鋏を突き立てれば、私の思いは晴れるのでしょうか?」

 ヤバい。部長、思ったよりヤンデレだ。

「いや、そのパターンだと伸也先輩死にません?」

「私のせいで伸也くんが死ぬのなら、その瞬間だけでも、伸也くんは私のものになるのではないでしょうか?」

 ヤバい、部長、ヤンデレを越えてサイコパスだ。

 どうにかして止めなくては。まずい、裁ち鋏を握る力が心無しか強くなっています。

 そこで、す、と部長の手に白い手が重なりました。気づくと、眞子さんが部長の手を押さえていました。

 凛とした瞳が、部長を真っ直ぐに見つめます。

「そんなの、愛でも恋でもありませんよ。そもそも、告白して勝負に出ていない人が、勝負に勝てるわけないでしょう」

 その言葉に、先輩もはっとしたようです。

「ちょっと、抜けますね」

 裁ち鋏を裁縫箱に閉まって出ていった呉服部長の表情は、心持ち晴れやかでした。

「……眞子もたまにはいいこと言う」

「美嘉、たまには余計」


 そんな呉服部長には悪いですが。

 私は家に帰って、誰もいない部屋で、くまのぬいぐるみの脳天にぶすりと裁ち鋏を刺しました。もちろん、私に恨む相手なんていません。

 だったら何故こんなことをしているかというと。

「……ほらな。案外あっさり会えるもんだろ?」

 悪戯っぽいショータくん悪魔の笑みに私はこう返しました。

「有り難みがないですね」

「ちょ、失礼!」


 こうして、学校の七不思議さえ私生活に取り込んでしまった私のJKライフはまだまだ続きます。

 もしかしたら、一生かもしれませんが、別にかまいません。

 くまくんが一番、私と呼吸が合う悪魔(ひと)ですからね。






 絶対言ってやりませんが。



日隈「三年ものお付き合い、ありがとうございました!!」

悪魔「まあ、三年のうち一年しか活動してねぇけどな」

日隈「黙りましょうか」

悪魔「頬をひっわるな!」訳:頬を引っ張るな!

日隈「ありがとうございました」

悪魔m(_ _)m

日隈「悪魔もちゃんと挨拶するんだ……」

悪魔「お前、俺に失礼じゃねぇか?」

日隈「私が出ている『四十四物語』もおすすめです。そっちはがっつりホラーですよ!」

悪魔「無視の上に番宣」


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