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10話

ホラー要素あります。注意


 最近、起きている間は常時行っているプラーナの体内循環。

 プラーナは、魂から肉体に流れる力で、活力や生命力そのものみたいなものだ。

 あっちの世界ではプラーナを宿しているか否かで生命ある存在かを見定められたりする命もつ者の輝きみたいな力だ。肉体は、魂を内部に保持し、魂から溢れるプラーナを留める器であり、プラーナを別の力に変換する変換器でもある。


 乾燥した物が脆くなるように、瑞々しいものが崩れにくいように体内に流れるプラーナの総量が多い方が肉体の強度は上がり、少ないと強度は下がる。また、流れる部位に偏りがあれば、滞りのある場所は弱くなる。しかし、かといって水分を含みすぎたものが脆く崩れやすくなるように、空気を入れすぎた風船が破裂するように、肉体の許容量を超えたプラーナが器にこもり続ければ、内側から自壊していく。


 そうならないように肉体には、過剰なプラーナを自然と放出する仕組みが備わっている。

 魂からでるプラーナの総量が多い者や肉体の許容量が少ない者ほど、外部にプラーナを溢れさせる。

  

 熟達者なら、魂から汲み上げるプラーナの量を調整し、絶妙な量と淀みの無い循環で外部への放出を極限にまで抑えることもできる。

 

 自分がやっていることは、魂からプラーナを積極的に汲み出しながら器に満たしつつ、その汲み出す勢いで全身を循環させているに近い。おかげで、肉体の自然治癒力が上がり、衰えた身体能力も底上げされている。無茶している分、体の許容量は以前よりも増え、体内の循環も良くなっている。


 だが、当然、器からはダバダバと生命力そのものともいえるプラーナがこぼれ落ちている。


 それこそ、肉体が未熟な故に許容量が少なく、プラーナを溢れさせる子供や肉体が弱り、循環も淀むせいでプラーナを零れ落とす病人よりも大量に周囲に生命力ともいえるプラーナを放出していた。

 

 厳密には異なるものらしいが外に漏れ出る人の想念は、プラーナが体外に漏れ出る際に変質したようなものだ。

 詳しい理屈はわからないが、その人の想念がより集まって生じたものの一種が瘴気だ。

 瘴気は、プラーナを生み出す魂も、それを保持する器である肉体もないために、霧散し続けている。その霧散する速度よりも多くの瘴気を集めることで存在を保ち続けている。だから、人が多くいる場所にはそういった瘴気が発生しやすいし、そこで生まれた瘴気は存在し続けやすい。

 また、プラーナの放出量が多い人が集まる場所は、それがより顕著になる。


 一般的に、放出量が多いのは、肉体が未熟な子供や肉体を損壊させたり、病を患った病人だ。

 地球なら、病院は似た理由で、瘴気が生まれやすかった場所だったみたいだ。


 あっちの戦場なんかは、肉体の損傷でプラーナが外に零れ落ちることもあって、至る所で発生していたし、それが溜まり続けて魂を形成した幽霊や悪霊と呼ばれるようなアストラル生命体が生まれることもあった。そして、そのアストラル生命体になって意思を持つようになった存在は、より瘴気を溜め込み、より瘴気が溜まった場所を移動するようになる。


 そして、そんな戦場や病院に限らず、街中でも瘴気を至る所から引き寄せているオレは、そんな場よりも多くプラーナを外に放出し続けているために、瘴気を常に周囲に集めるような歩く霊的なパワースポットになっていた。


 

 

 前置きが長くなってしまったが、つまり、何がいいたいかというと、

 その外に漏れたプラーナは、結果的に悪いものを呼び寄せる誘引餌になっていた。


(よこ)せェ!! お前を啜らせろォ! 』


 こっちに戻ってきて、初めてのアストラル生命体との遭遇は、首が捻じれたサラリーマン風の男だった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 事の始まりは、日課の夜のジョギングを行っている最中だった。


 いつものように、慣れてきたプラーナの体内循環をしながら、周りから瘴気を集めながら公園までの道のりを走っていた。群がる瘴気たちで視界は鬱陶しいが、その体内循環と垂れ流しのプラーナの放出で瘴気の呪詛の声も聞こえてこないので、黒い煙が纏わりつく以上の害はなかった。


 日が落ちて、住宅街の数少ない街灯以外は暗くなった夜道を、視界最悪のまま走り続ける。

 もう何度も往復した道なので、今更明るさの違いで戸惑うこともないし、プラーナの体内循環で視力も強化されているので、視界最悪の夜道の割には、障害物や地面の凹凸は視認できていた。


 なので、体内のプラーナの循環と体の動きに意識を割いていたが、車道をフラフラと覚束ない足取りで走る人影が前からやってくるのに気付くと、意識はそっちに向いた。


 その人影は、どうも様子がおかしかった。

 まず、車道をよたよたと走っていることが変だった。いくら帰宅ラッシュが過ぎて車の通行が減った夜の住宅街の道路とは言え、車道を走っていれば、やってきた車に撥ねられかねない危険な行為だった。

 次にその走る恰好が変だった。上半身が脱力したように前傾で、動きに合わせて柳のように両腕が揺れていた。それでいて、顔は前を向いているようで、妙に首が長く見えた。


 あ、こいつ人じゃないと気づいたのは、ヘッドライトを光らせた車が走ってきて、その男を照らすも、そのままブレーキを入れることなく通り抜けて行ったのを見てからだった。


 そして、そのヘッドライトに照らされた時に映し出された人影は、首が捻じれて、目のない黒い両穴から赤い血涙を流したサラリーマンのようなスーツを着た男だった。


 車と重なって、姿が見えなくなる瞬間、黒い穴になっている男の目と合い、その男はニィィと不気味な笑みを浮かべたのを見た。


 幽霊(アストラル生命体)だ。


 それを確信した瞬間、オレはその場に立ち止まった。


「ハァ……フゥ……こっちにも、存在したのか、フゥ……ハァ……」


 ジョギングで乱れた呼吸に、内心で舌打ちする。

 アストラル生命体に対抗するには、魔法が最適だ。しかし、このコンディションでは、アストラル生命体を滅するほどの魔法を練るのは困難だった。


 車を通り過ぎた後に男の幽霊の姿はその場から消えていた。

 しかし、間違いなく目はつけられていた。

 瘴気と変わらず、魂を確立したアストラル生命体もその生命維持には、他人が放出するプラーナが必要だった。


 ということは、ただ漏れのオレはあちらにとっては、満漢全席のような豪華絢爛なエサに見えている。瘴気からアストラル生命体となったような存在は、積極的に人を害するので見逃すなんてことはないだろう。


『お前、目が合ったナ』


 ほらきた。


 一度姿を消した男の幽霊は、すぐそばの街路樹の陰から姿を現した。

 遠目から見ても、首が捻じれてたのがわかった男だが、その脱力したように見えた腕は、どうやら関節が外れているようだった。目があった場所は空洞で、そこからぼたぼたと血涙を流している。身に着けている衣服もすり切れたようにボロボロで、黒い染みが広がっていた。


 瘴気が由来で、魂を得てアストラル生命体となった者の容姿は、その魂の核となった想念から形作られると言われている。また、魂の核となるほどの想念は、死者の無念であることが多い。


 死ぬ間際の出来事や感情も容姿に大きく影響を与えるため、こうした異形な姿になりがちだ。


「えっと……ハァ……フゥ……ちょっと、待って」


『お前、見えタ。お前、触れル。その命、寄越セ』


 オレの制止の声を無視して、その幽霊は肩が外れた腕でオレを指差した。



「あー、そうなる、よね……ハァ……フゥ……まぁ、待って」


『お前の命ィ、欲しいィ! 』


「だから……」


(よこ)せェ!! お前を啜らせろォ! 』


「ちょっと待ってって言ってるだろ!! 」


 こっちの制止の声を聞かずに、ひとりでヒートアップしていった男は、オレに飛びかかってきた。

 オレは、こちらの制止を聞かずに飛び込んできた男に苦い顔を隠しきれなかった。



『おおォォォォォォおええェェェ!! 』


 そして、勝手にオレが放出しているプラーナを貪ろうとした男の幽霊は、オレに覆いかぶさってすぐに許容量を超えるプラーナを吸収して、崩れ落ちるように地面に蹲ったのだった。






端的な説明

瘴気……人の負の感情が放出されて集まった集合体。自然現象の一種で、瘴気に触れているとネガティブな思考に陥りやすくなる。

ネガティブになると、より負の感情を放出するようになるので、瘴気が増える。瘴気が増えるとネガティブな思考になるという悪循環が起こり、瘴気で心身に支障をきたすこともある。


アストラル生命体……肉体という明確な器を持たない、魂とエネルギーの集合体。

幽霊、悪霊……瘴気由来のアストラル体は、ゴーストや悪霊と呼ばれる類。瘴気を取り込みエネルギーにするけど、人に取りついて、放出されるプラーナを直接すすったり、より効率的に負の感情を吐き出すように周囲や心身に干渉する。



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