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まともな昼飯の為とは言え、面倒な事を引き受けてしまった。しかも事実上立候補ってバカか俺。
だが自分がウハウハ食べてる横で悲惨な腹減り野郎がいると美味しくねぇ。絶対バーベキューには国産なウマウマ牛肉が用意されてると思うわけだ。庶民がそうそう食えねぇウマ肉が炭になったら泣ける! 全俺が泣く!
それに可愛い女子にハラヘリさせるなんて冷酷非道なことは出来んッ。あえてか弱いと言わない俺を許してくれ。いやだって正直女の方が逞し強いと思うからな。
俺だって考えた。バーベキューのやり方なんて資料配布をせず、当日困ってる女子をカッコ良くさり気なく助けて頼れる男を演出するとか。これでモテるぜヤルゼ庶民組! とか下心あるんじゃねーのと問われれば、はっきり言ってあるさ。ああ思ったさ! 思ったよ!
だがはたと気づいた。果たして本当にそれは生粋のお嬢様方にプラスアピールになるのかってこと。結局のところ庶民アピールにしかならないんじゃないかとな。結論、意味なし。うっかりすれば下僕認定かもしれんから却下である。
ともかくとして失敗して食いっぱぐれたらどーなるんだろ。ついでに聞いてみるか。
パンフレット情報によると研修センターにはレストランも売店もあるから、そっちで食べることになるんだろうか。だがわざわざ情報を制限した学校側はそんなに甘いだろうかという疑問も浮かぶ。
……なんかダメな気がするよな。午前中運動して昼飯無しとか。まさか生焼けや黒焦げ食べて腹壊すから飯いらねーだろおまいら……なんて鬼畜なこと考えてないよな。
なんて考えながら職員室に向かう。
公立と違ってどこの一流企業のオフィスデスカ~な明るくて綺麗な場所だ。当然冷暖房完備だし喫煙室もありだ。
昔から思うが学校は全面禁煙地帯にすべきだと思うが如何に。前世記憶のオバちゃんが主張しているが、俺もそう思う。
ついでに言いたいこと色々あるが黙っておいてやる。敢えて言うなら尊敬されたかったら、それなりの態度とれってな!
まぁ変に目をつけられると鬱陶しいから何も言わんけど。ただし該当教師は心の中で大いに蔑んでやるがな……! 顔で笑って目は嘲笑ってるぜ。
「ちわーっす!!」
なんてことはおくびにも出さず、愛想笑いで突撃である。お目目も濁らせず死んだ魚の目にもなってないぜ。脳内でお笑いを一席ぶち込みながら目も笑う。嘘だけど。
言葉遣いは上品の欠片もないが、その分をお笑いでカバー。やっぱ推定腹黒王子ばりの作った笑顔ってのを目指すべし!
とかいいつつ、王子な実物見たことないから推定作り笑い。それを見た鷹成は胡乱な眼差しで、羽柴は指差して「うさんくせーっ」とチャラ男の化けの皮剥がれた状態で爆笑してたからきっと完璧であろう。胡散臭い上等。俺の素の素敵笑顔は貴重だから簡単には見せねぇぜ。
一斉にこっちみる教師の群れ。
こっち見んな。怖ぇよ。いや注目してくんないと困るっちゃあ困るんだが、ザッと音でも立てそうな位に一糸乱れぬ風情でヤられると怖いんだよ! もうね、インターホンでもベルでもなんでも付けて欲しいのよ、ほんと。
実は生徒、すんなり職員室のドアから先には入れない。
廊下側の壁にどーんとカウンターが長くあってだな、そこにガラスの引き戸が嵌って、基本そこからやり取りするわけ。
だから生徒が職員室内に入る必要が無い=入るなっていう意思表示が成り立っている。もちろん教師に屋内に入って来いと言われれば入れるわけだが。
呼びたい先生が引き戸の近場にいるならいいよ。だけどさ、奥の先生呼ぶには叫ぶ必要があるんだよ。騒音公害だわ、声が通らない奴とか気が弱い奴やらには軽くイジメな仕様だと思うわけだ。
だからいっそマイクでも寄越せ! ミニ拡声器でも置いたろかとか半分マジで思うぜ。
そのうちデモ運動でもやってやろうか。マイクよこせとシュプレヒコールなんていかがか。
ちなみに最初外部生四人で担任の所に行った時は、そんなローカルルールなんぞ誰ひとりとして知らんから、普通にドアノックしてずんずん担任の席まで行ったら注意された。
んなもん、先に言っとけよ!! と逆ギレしてやったし(ドヤ顔)。
生徒立ち入り禁止のド派手な看板でもドカンと立てとけや。
ほんとこういう学校特有のローカルルールって困るんだよ。中の奴らは当然として疑問に思わんから誰も説明しないわけ。教えるって発想が無い。
いっそ外部生用にローカルルールマニュアルでも作ったろかと思うくらいだぜ。ってのは余談として。
「一年の宿泊研修担当の先生お願いしまーっす!」
注目していたが、聞いたとたん途端に興味を無くす教師群。
いやいいんだけどね、別に。注目されたい訳でもなし。それだけ生徒に気をかけているってことの証拠でもあるし。でも自分に関係ねーとなった途端あからさまにプイッとはさり気に傷つくんだからね! 嘘だけど。
で、やってきたのは鬼畜眼鏡。
嘘です、規律正しいクールな銀縁眼鏡の二組担任倉賀野先生である。
髪を後ろになでつけて、隙なくぴしりといかにも仕立ての良いスーツ着てって姿は英語かなんかのインテリ教師にみえるじゃん? 白衣着てる姿も見たことない。完璧なデキル男って感じなんだよ。
でもな、こいつ、 技 術 家 庭 科 教 師 な ん だ ぜ ? ムチが似合いそうだが手にはお玉。そしてノコギリ、トンカチ。何気にホラー。
ほんとにこの学校は斜め上がいるよなーと思わず黄昏る。
「私が担当だが、用件は」
「せんせーって調理実習とか技術の実習の時もスーツなんですか」
「……」
「……」
つい口から出ちまった。やばいやばい。
平然を装いつつも、内心焦った。沈黙が痛い。
うっかり小耳に挟んでしまった周囲の生徒から呆れ慄いた視線が。先生からの冷気が痛い。
いやでも言っちまったし。いいじゃん減るもんじゃなし、答えろください。
「いやつい気になって。本題は別ですけどもののついでに世間話なつかみ的にちょっと打ち解けとこかな的に! なんか白衣とかジャージのイメージすら沸かないから気になって! 先生の授業受けてればそのうち分かるってわかってますけど、もののついでに!」
いやだって、トレーニングウェア姿だって体育祭の時に見れるかどうかわからない位レアって聞いたし。
「調理実習であれば割烹着、技術実習であればトレーニングウェアか白衣くらいは羽織るが」
「……割烹着」
「何か問題でもあるのか」
「イイエ。トンデモゴザイマセン」
エプロンですらなかったー!
あの、プロの和食料理人みたいな白衣じゃねーの? マジ?
しかも表情ピクリとも動かねぇ。冷ややかクールな雰囲気も一切変わらないあたり、心理的抵抗も全く全然無いんだな。オノレの外見的イメージと割烹着との落差に僅かな疑問すら意識外なんだな……!
さては天然か。
「必要な時は各実習室に隣接の準備室で着替えているが」
なるほどレアだ。この先生に授業を受け持たれてなければ見ることはないわけだな。
いやでもそういうってことは、一応わかってる?
「ちなみに割烹着その他で教室から出たことは……」
と言いかけたら、無表情でじろりと睨まれた。
コイツ何言ってんの? 馬鹿なの阿呆なのバリに蔑み見られた! 周囲の空気が凍らないだけマシだけども、バカな子認定されてないか!?
なんか色々想定外だよ!
「TPOをわきまえているが。で、結局本題は何だ」
TPOをわきまえている人は体育祭なんかはトレーニングウェアだと思いますがッとかツッコミてぇ。ツッコミてぇけど、実際のところ俺は体育祭未経験だから噂通りそんな時もスーツなのか確認出来てねぇから言えんっ。
なんか無駄にMP減った気がするが自業自得という。好奇心を抑えきれなかったんだからしょうがない。これが俺の通常運転……ッ。
そんなこんなでバーベキュー場設備がどうなってるのとか、備品云々も聞いてみた。
例えば着火剤だとか、調味料・食材に関しては予め研修センターに頼めば用意してくれるとか。
但しその場合はクラス委員会として代表が請求のための書類提出する事が必要だとか。他の細かい疑問点に関しては直接センターに聞いてみないと分からない。
「じゃあ、俺が電話して聞いてみるっていうのは有りですか?」
「そうだな。私が間接的に聞くよりは君が直接聞いてみた方がいいだろう。先方には今から連絡しておいてやろう。そのまま交代して話してみるか?」
「いえ。ちょっと要点を改めて確認してからにするんで……三十分後くらいで」
「わかった。君のクラスと名前はなんだったかな」
「一組の芦沢直也です」
「ああ、君が芦沢か。なるほど。よく気が回るものだ」
「普通ですって、普通。仕事って思えば慣れだし、誰でもやれる事っすよ」
「まあ、そういう事にしておこうか。では三十分後以降と言っておく」
「ありがとうございました!」
ってことで退散!
結局のところ先生の雰囲気は最初から最後までクールなままで変わらんかった。
感情の起伏少ないね? なんか爆笑させられる方法ねーかなーなんて考えながら去ってみた。
くすぐるなんてお手軽手段じゃイカン。そもそもくすぐるチャンスなんぞ無いだろうが。弱点はなんだろな。
はっ、もしやヒロインが冷徹鉄面皮眼鏡を完膚無きキャラ崩壊レベルで爆笑させることによって、クールが溶かされた! 攻略の鍵はテロレベルな爆笑だった……っ。なんてことがあったり!?
って、どんな乙女ゲーだよそれ。ないわー、ないよな。
さすがに乙女ゲーとはいえ、ロマンがミジンコも無いお笑い路線は。
実はジャンル、お笑い乙女ゲームだったとか。羽柴とか上條とかならイケそう。鷹成だと……どうだろうな。シナリオでオチ要因に抜擢されるイケメン完璧俺様何様御曹司鷹成様。
ちょっと良くね? (笑いすぎて)涙あり、(腹筋崩壊な爆)笑いありの鷹成エンド。
ナニソレ新しい。
そして俺は爆笑を死にそうになりながらこらえつつ、スマホで録画して東雲家へ提供。
ふ、諸君知っていたか。実は俺は記録係な平凡な脇役A。俺の存在意義は東雲家記録係が踏み込めない聖域(学校)へ潜入し、代わりに鷹成のお笑いな日常を赤裸々に記録することだったのだ!
俺的には普通の乙女ゲーでもツッコミどころありすぎて指差して笑うレベルなのに、あえてそこをまた強調した強化版。
俺の考えた最強の(お笑い)乙女ゲー……!
もはやトキメキ胸きゅん(死語)な域を超えた捧腹絶倒な問題作見参。イベント全てがお笑いに直結。ヒロインとライバルとのバトルイベントすら例外じゃない。
聖域なき乙女ゲーお笑い構造改革。
自分で言ってて分けわからんが、落差が楽しめそうなイイ役者揃ってますぜ。なんてなー!
ライバルキャラの没落要素皆無、みんなハッピー平和そうで良くね? とか馬鹿なことを考えつつ、資料集めついでに図書室へ行こうとしていたわけだが、そこで電話するのはマズイと気づき、どのみち鞄だとか取ってこなきゃならない訳で教室へ向かった。
メモ用紙だのもそっちだし、確認しなければならないことを頭の中で箇条書きで纏めながら足を早めた。
幸いなことに教室には誰もいなかった。
正直人がいるど真ん中で電話するってのは決まり悪いもんだ。いつもなんだかんだで一緒にいる鷹成も今日は習い事で早々に帰っているから気楽なものだ。
大変だね御曹司!
ノートを取り出し、パンフレットと宿泊研修のしおりを眺めながらザッと質問を書いた。ふと時計を見ると丁度三十分経過したところだった。
早速電話してみると、丁寧な対応ながらも名前とクラスと学籍番号を聞かれたあたり、セキュリティに気を使ってんだなーと思ったり。まあそんな事は些事なわけで色々聞いてみた。
基本的にキャンプ場とかにあるような設備があるって感じのようだ。ブロックのコンロに炭ってタイプ。敷地内にはそれとは別に高級感溢れるパーティ用のバーベキューガーデン(!)もあるそうだが、当然今回は使用しない。
ガーデンって……。いや考えちゃいかん。俺には関係ねー!
一応バーベキューのやり方ってのが各コンロごとにぺらっと一枚置いてあるらしいが、職員からレクチャーってのはないそうな。
やっぱやばいだろ。鬼だろ学校側。
ちなみに肉は牛肉のみだそうだ。
リッチだぜと思ったが、実は生焼け対策のような気がしなくもない。牛肉はレアとかOKだけど、豚肉鶏肉はキッチリ火を通さないと腹がやばい。
金持ち対応と見せかけて実は! じゃないかと疑っている。
それはともかく班ごとに飯盒炊爨やるってのは無理があるような気がするなぁ。米炊くのだけは一箇所に集めてやった方がいい気がするし、一年全体に声かけて飯盒炊爨やったことあるやつを事前に集めてやるべきじゃなかろうか。
そのへんは各クラスにどの程度やれる奴がいるのかどうか確認してからの要相談だけどな。早急に冊子作って人集めしないと間に合わない。まいったな。
ネット検索すればやり方なんてのは一発で出てくるが、まさかそれをそのままコピペして印刷する訳にはいかんし。時間があれば自分で写真撮って適当にやれるが無理だし。となると急いで図書室行って本を漁り、さらにサイト記事を参考にしながらザックリ図を書いてやるしかない。
あー、ペンタブ。親父のとこにあったよな。今日の帰りは親父の事務所に寄って借りるか。
となれば、超特急で図書室にいくぜっ。
本来ならこういうことはクラス委員全員で役割分担しながら作ってくもんだとは思う。
「だけどなー」
とにかく時間が無い! いくらほとんどを生徒会で用意してあったとしても、足りないものは足りない。これはクラス委員だけの話じゃない。
クラス委員は全体を統括し、各委員会への指示及びサポートをする役割もあるが新体制発足直後だからどちらも不慣れ。その状況でコレはねぇよな。
例えば体育委員はアスレチックの担当で一日目のディスカッションを主導する。図書委員はそのサポート。環境整備委員は全体の清掃チェック等を。風紀委員は全体の見回り。放送委員はそのまま適宜放送。
ようするにどの委員会も忙しいってこと。
それを統括するクラス委員会はさらにギリギリまで忙しいだろう。間際になればなるほど立て込むはずだ。なら出来ることからどんどんやっていくべきだ。
「ま、本当にそんな色々仕事あるとも思えんが」
どっちかといえば学年代表だけ忙しくなるような気がするんだが。
各委員会からの報告はまず、そこへ行くだろう。そこから俺らへ情報がおりてくるのか、何か担当が割り振られるのか。
それでもとにかくバーベキューを無事に終わらせる為には、事前準備が必要だ。その為にはとにかく早く対策立てないと間に合わない。
いっそ鷹成を巻き込んでやろうかと一瞬思ったが止めた。かえって面倒くさそうだ。
まず今から連絡して呼んだとして俺が鷹成宅に行くのか、逆かから始まって。説明しながら、今後の計画を組み立ててマニュアルを作り。
明日は代表のところに行って確認取りながら軽く話し合って。
手伝わせたとなれば中途半端にはせず自分もばっちり噛ませろと鷹成は言うだろう。飲み込みは早いとは言え二度手間くさい。
がっつりクラス委員の仕事に食い込んでくるとなれば学園内にその話は広がるだろうし、北園あたりがうるさそうだ。
手伝わせたと責めてくるのか、さすが鷹成様と言ってくるのか両方かわからんけど、面倒くささしか感じない。
やっぱり自分一人でやるべし。
ということで。ざっくり原稿を作りプリントアウトしつつ、USBメモリーにデータを入れて明日中に学校で手直し後プリントアウト出来るように用意。
役割分担だとかザックリ組み立ててとやってたら、午前零時。
大慌てで授業の予習復習をやって明日の支度。まだ授業は序盤で大したこと無いからすぐ終わったが、それでも就寝できたのは午前二時。
明日っていうか今日というか! は気張ってかないと授業中に寝るだろうな。理数系だけは絶対寝たくねぇ。
俺はやるぜ! 意地でも居眠りなんてしないんだからなーッ。……フラグにならんことを祈る。
南無三。
「クラス委員代表のとこ行ってくるわ」
登校して早々カバンから昨日の原稿を取り出すと今日は先に来ていた鷹成に言った。
「なんかあったのか」
「あー、宿泊研修の色々な。というか、お前飯盒炊爨やったことあったっけ?」
「小学校の林間学校で見てたことはあるが」
「存在は知ってるけど、あれで自分で炊いた事は無い的な」
「ああ。というか、俺があの時やってないって知ってるんじゃないのか」
「あんときは別班だったからシラネーヨ。しかしそっか、やってなかったか」
野郎のことなんぞいちいち全部把握しとるわけねー。しかし、とりあえず飯盒炊爨人員一名確保ならずか。同士外部生はどーだろな。俺は期待している。俺はとても期待しているぞ!
ぐるっと教室を見ると登校してる生徒はまだ半分。同士もまだ来てないし今聞いても二度手間か。
よし止めよう。無駄な労力消費いくない。
「では、アデュー」
すちゃっと手を挙げると教室を出て行った。
いざゆかんキューティクルロングヘアーなお嬢様のもとへ!
おざなりに手を振る鷹成を視界の隅におさめつつの出陣であった。
だからお前は踏ん反り返って孤高の俺様やっとらんとクラスメイトと交流持って打ち解けろっつの。様子伺ってる奴いんのにこっち来んなオーラ出してんじゃねーよ……。
呆れ溜息付きつつふらふらーっと歩く。そろそろ廊下人口も増えてきて賑やかしく、人の出入りも活発化している。
他のクラスに行くって、ほんと他人のテリトリーに侵入って感じだよな。疎外感はんぱねぇ。なんつーの? 空気がまるで違うしバリアーでも張られてる感じ。もっともそれをモノともせずにぶち破るのが俺だが、何か反論でも。
どのみち他クラスに知り合いなんぞないから突撃するしか方法がないともいう。
が、いくら俺といえども毎度派手に乗り込む訳じゃない。
ましてや今回は大和撫子っぽいライバルヒロイン柏木嬢を呼ぶわけで、下手うって敵認定されても面倒だ。ここは穏便にいくに限る。
教室の戸を開け、近くにいた女子と目が合ってニコリと愛想笑いしてみる。
……俺だってなぁっ、隣に鷹成とか鷹成とか鷹成とか羽柴とかいなきゃそれなりなんだよ! 平凡スキル、人畜無害爽やかスマイルなら女子の好感度もそれなりなんだよ!
いいか、肉食雄な雰囲気なんぞ、ここぞという時発揮すればいいんであって、普段はそんなもん出しちゃいけねぇんだよ。
爽やか! そして馴れ馴れしくならない程度のフレンドリー。
女子の気持ちを緩め好感度上げるにはまずはそこだ。
ってことで、あいつらさえいなけりゃ、俺の女子の好感度はそんなに低くない。
わかったか、野郎ども。そこでやりすぎると「いいお友達ね」になっちまうから、さじ加減が重要なんだぜ野郎ども。
「俺、Aクラス委員長の芦沢って言うんだけど、ここの委員長の柏木さん呼んでもらえるかな」
爽やか笑顔で手にした原稿をちょっと持ち上げて示しながらお願いする。これで仕事がらみってのを理解してくれるだろう。
それを聞いた女子はわたわたしたように教室をみまわした。
うん、いるんだよ。ちょっと背が高めの彼女はやっぱりなんか格が違うっていうか、目立ってんだよなー。画面の中央に位置する人物は違うぜっ。
「ちょっと待っててね。呼んでくるから」
「うん、よろしくね」
キャラ違う言うな。処世術といいたまえ。
足早に机の隙間をぬって柏木嬢のもとにたどり着いた女子が話しかけ、二人共にこちらの方を向く。
俺はお仕事を示す為に再度原稿を持ち上げてひらひらさせる。柏木嬢はちょっと驚いた顔をしてから二人で話をしながらこちらへ来てくれた。
「おはようございます、代表。昨日言ってた原稿作ってきましたよ」
「おはようございます。入口では邪魔になりますから廊下に出ましょう」
ごもっとも! ちょっとばかり注目されそうで微妙な気分だが仕方ない。
「もうひとりの委員長はいいんですか」
「まだ来てませんから」
微笑む彼女は綺麗ですな! 俺の胡散臭い笑顔とはステージが違うのだよ。
彼女に道を開けながらもっかい教室を見ると、先ほど取り次いでくれた女子が席に戻っていた。
「呼んでくれてありがとう。助かった」
お礼はちゃんと言っとかないといけないのでござる。今日は人畜無害爽やかスマイルの大安売りだ。
少し頬を赤くして微笑んでくれた女子に軽く手を振って、柏木嬢を追って出た。
ちなみに一年クラス委員会副代表という名の補佐は自動的に同クラスの片割れがなるんだそうな。豆知識であった。
「で、これが仮原稿です。チェックしてください。訂正とか赤で入れてもらって、出来れば昼休みまでにください。そうすれば放課後までに修正版を作っとくんで」
ちょっと大きめの声で言ってみる。
注目してる諸君、俺にはやましいことはないぞ! 仕事だ、仕事の話をしてるんだぜぃ。
ついでに推定腹黒王子様が通りかからないことを祈る。
あんたの婚約者口説いてなんでいないんだからね!
そんな世にも恐ろしいこと、脇役にはできませんぜっ。というアピールのためにもそれなりに柏木嬢とは適正距離をとってみたり。
この距離なら少女漫画にありがちな原稿渡すときに手が偶然触れ合って! なんてことも絶対ないぜ。
例え今、背後から誰かに追突されても倒れないように踏ん張り切るっ。逆も警戒していざとなったら素早く移動して盾になってやんよ!
超短距離転移魔法が来い(んなものはない)。ゲーム世界なんだからそのくらいの非常識よ、俺の下に土下座してくるがいい。使い倒してやんよ。
でもまあ、万が一にもそんなハプニングは無いと思われ。
いいか、俺は脇役Aなんだよ! 画面に映らないようなエピソードなど降りかかるわけねーっての。
だから安全! 多分。だが絶対の保証は無いから保険だ、保険。
周囲をさり気なく警戒している隣で柏木嬢はパラパラと原稿をめくって目を通していたが、俺が挟んだメモの所で手が止まった。
「これは……」
「あー、一応これから必要そうな項目をメモしておいたんで、それも目を通して検討してみてください。今日放課後、委員集まるんですよね? その時にまた話し合えばいいし」
「ありがとう。本当にこれは助かります。私も昨日少し飯盒炊爨のこと調べてみたけれど難しそうで心配になったの。芦沢君の言うとおり、あらかじめ経験のある人をピックアップしておいた方が無難みたいですね」
「一班に最低一名程度いれば助かるんですがね。この学校じゃあ、小学校でも中学校でも林間学校でキャンプだのバーベキューだのやってないみたいだし、ちょっと望み薄かなとは思ってるんですが」
「林間学校自体はあったけれど、バーベキューは無かったわ。コテージだったし」
テントでもなく、バンガローでもなくコテージ! キャンプ場名物、怪談なバンガロー話もなしってな。整えられた小綺麗なコテージでベッドに羽毛布団なんですね、わかります。畜生、格差社会ぃぃぃぃ!
うーむと二人して唸ってしまうが、いい加減視線が痛い。
女子からはナニこの平凡お姉様に近づいちゃってんの的視線が。男子からは羨ましいぞド畜生ー!な殺気が突き刺さる。
この状況、鷹成のせいで慣れてるとはいえ、そこに痺れん憧れないっ。熨斗つけて卓袱台返ししたい。そんなに俺(の平凡っぷり)が悪いのかーって歌っちまうぞ、おい。
ああ、俺のすごいところ知ってるか?
単体ならそれなりの容姿なわけ。中の上というべきか上の下というべきか半信半疑あっちこっちなんだが、鷹成とか羽柴とか攻略対象だの画面の中央に鎮座するクラスと並ぶとあら不思議! 途端に存在消されるか中の中、下手すりゃ中の下へと大変身!
……わからん、この現象マジわからん。
小中の友人連中から太鼓判押されたぜ。なにそれ虚しい。呪いか。これが平凡な画面外の脇役への呪いなのかっ。
引き立て役乙、強くイキロと肩ぽんされつつ言われたが、雑草がごとくシブトくメッサメラメラ(違)生きてるぜ! 俺にもきっといつか多分おそらく俺だけを見てくれるお姫様が。ぽ(爆笑)。
というわけで今現在、多分画面中央の人であろう柏木嬢の傍にいるってことは、外野からは「こ、コイツ釣り合わねえ……っ」とか思われていると思われ。泣いてなんかないんだからねッ。
いやでも本当、これ以上の注目はのーせんきゅー。そろそろ潮時かと思われ。
「あっしざわくーんっ! おっはよー!」
ってエセチャラ男、遠くから廊下で叫んでんじゃねぇ。小学生かテメェ!
退散、退散、マジ退散。すぐさま撤退、お家(教室)帰るぅぅぅ。高校デビューしやがった羽柴と合流なんぞしたら、絶対柏木嬢を紹介しろとか言われるに決まってる! んな恐ろしいこと出来るかっ。
「じゃあ、よろしくお願いします」
俺もう爽やか笑顔が引き攣りそうだぜ。
さっと挨拶すると可及的速やかにダッシュ、ダッシュ、ダッシュ! と見せかけた超倍速早足。
良い子は廊下を走っちゃいけないんだぜ。さようなら諸君!
ざわつく朝の喧騒の廊下を脇役Aは光の速度(妄想)で退場だ。モブに注目なんて時間の無駄だから即刻忘れてくれ。さっさとフレームアウトだ!
「あっれぇー、そんなに急いでどしたの」
「うっせ、とっとと教室行くぞ」
追い抜きざまゆるい口調のチャラ男の衿引っつかんで問答無用の強制連行。
あ、こいつ一緒だとフレームインか? でもなんか、あんまりインな感じしないのはなんでだろな。
あれか、イマイチまだチャラ男に成りきれてないからか。
しっくりこない、浮いて馴染んでない感じでなんか胡散臭いっていうか違和感が拭えない。
ようは仮免が取れないからなのか!? と内心首をかしげる俺である。実は攻略対象ではアリマセンデシターってことは絶対ないけどな。
「ちょ、ぎぶぎぶ! 首締まるっ。苦しいからっ。オレ死んじゃうから、はーなーしーてー!」
俺の腕を必死にタップするから一応放してやった。このまま離れていってくれても良かったが、朝のSHRまであとそんなに時間がそうは多く無いから一緒にならざるを得ない。残念至極。
「ねぇねぇ、さっき注目されてたみたいだったけど何だったのー?」
「ちょっと有名人と仕事の話をしてただけだなっ」
目が笑ってませんよな無駄にイイ笑顔で聞くんじゃねー圧力をかけてみたが、やっぱり鷹成と同じステージに立つだけあってそんなもん何処吹く風である。虚しい。
「うお? 男子の嫉妬光線ビシバシだったから女の子だよね!? 誰それ教えて!」
「やなこった! 本当にお前いらん変身しやがって。おちゃらけエセ関西人どこいった。マジカムバック!」
「えー、やだよー。あれモテなかったもん。言ってる内容同じなのに、このキャラにしたら女の子ウケすっごい良いんだよねー。なんかもうコレ以外ないって感じー」
俺は今、猛烈にこいつの首を締めたいんだがっ。とか思いながらも教室へ入る。時計を見れば予鈴まであと十分未満ってとこ?
入口そばの俺の席ってちょっと便利かもしれない。羽柴はカバン片手に奥の席に行った。よし、これでもう絡まれない。
「でさあ、さっきの有名人の女の子ってだれー」
って、素早いなお前! あっという間に俺の席まで戻って来やがった。いつもならそのまま自席周辺の女子へ愛想振りまいてるくせに何を好奇心を無駄に働かせるかお前は。くそチャラ男め。
ほっときたい。しらばっくれたい。んが、うっかり昼休みにチェック済み原稿くれっていっちまったぁあああ! 俺から行くと催促になっちまうから行けねぇし。
うわ、失敗したっ。
かといって連絡用にメアド教えてくれなんて間違っても言えんっ。教えてくれるって言われても超遠慮する。
は、副代表に代わりに……って、いなかったよさっき! 話してる間も来なかったし、もしや遅刻ぎりぎり登校か!?
いやいや、まてまて。今回は手遅れだとしても次になんかあった時のために今度副代表に連絡先聞いとくべきか。そうだ、そうしよう、そうしよう。万事解決!
じゃねーよ、今だろ、今! 問題は今いかにしてチャラ男を誤魔化すか。
いや別に教えてもいいんだけど、万が一面倒なことになると嫌だなっていうかね?
柏木嬢は清楚美人さんなわけだよ。この教室に来て俺という接点がある以上、絶対お気楽に声かけるだろチャラ男は。
だけど相手は仮にも推定腹黒王子の婚約者なわけだよ。揉め事になるのはごめんだ!
ゲーム設定で彼女と王子がどの程度の親密度があるのか知らんが、公に婚約者ってなってる以上は何かあれば絶対出てくると思うんだよな。
まてよ、いっそちゃんと話して絡むなって釘指しといたほうが安全か? 下手に隠すほうが煽っちまうかも。
よし話そう。俺は即断即決な男だ。さあ話そう。
「あのな、学年三位の上條って覚えてるか?」
「ああ、うん。どっかの老舗政治家の息子でしょ。すんごく芦沢と対面するの楽しみにしてるって黒い噂聞いたー」
老舗ってお店じゃねっつの。
しかし噂に黒いってつくってマジか。聞きたくなかったぜその情報。腹に一物あるから黒いのがダダ漏れになってたのか、それ以外の理由か知らんが嫌な予感しかしないっ。
脇役ステルススキル欲しいぞ切実に。俺は期間限定で空気になりたい……。
「それは置いといてだな! さっきのは三組のクラス委員長で一年の代表でもある柏木嬢だ。大和撫子的な美人さんで有名な人らしい」
「へー。それは見てみたいなー。さっき行けばよかったぁ」
「だが! 声をかけるのはやめろ」
「なんでぇ? 女の子にはまず挨拶しないと」
ウインクいらねえ! 超イラネ。キモイわボケェ。
やっぱりチャラ男に擬態してる今のお前ならそう言うと思ったんだよ!
「いいか!? 絶対声かけんな。なんと彼女は推定腹黒王子の婚約者なんだぜ? 怖いだろー。段々怖くなってくるだろー。それもあって高嶺の花なわけだ!」
「なるほどねぇ。惜しいけどなー」
「売約済に手を出しちゃいけねーぜ。大体そんな女子に声かけたら総スカン食うぞ」
「あっはー! さっきの芦沢みたいにねぇー」
「俺は仕事だー!」
俺は全校に叫びたい。
俺 は 無 実 で す ぅ !
「ところで羽柴は政略的な婚約者とかっていんの?」
「んー? いたらこゆことやってないよねぇー。第一そんな学生の内から婚約者用意するような高尚な家柄じゃないしー。人気モデルと大恋愛結婚して今だにラブラブやってるオヤがそんなもん薦めるわけないじゃーん。それにオレってお気楽な次男だからねぇ?」
「高尚なんて言葉知ってた、だと!?」
「相変わらず扱いヒドイよね!?」
しかし高尚な家柄ってなんか表現的に違和感感じるけど、まあいっか! 人ごとだ。誰にも迷惑かけてねぇぜっ。
ともあれ婚約者ラインが消えたってことはライバルってどういう子がなるんだろな。
「実はこの学校に幼馴染の女の子がいるとか!」
「いないねぇ」
「実は忘れられない幼少の頃の嬉し恥ずかし甘酸っぱい思い出の女の子がー…ってそれじゃライバルじゃなくてヒロインだよ! 違う違う」
「何言ってんのー? (頭)ダイジョウブー?」
「クッ! なんでもねー」
なんか残念哀れな子を見る目付きされたぁーッ! く、屈辱!
なかなか話が進みませんー。くまったー




